緊急事態宣言下の桜。

世の中は「緊急事態宣言」が出た。

そして、これまで淡々と「無観客」のミッションをこなしてきた運営団体の中でも感染者は日に日に増え、遂には厩舎関係者の感染疑いまで浮上するに至った。

だから自分はあきらめていた。今週末はもう無理だろう、と。

だが、それでも馬は走った。

4月になったのに、季節が逆戻りしたような肌寒さが続いているせいか、阪神競馬場はまだ桜が咲いていて、そしてそんな中、テレビ画面越しとはいえ、今年のクラシック第一弾・桜花賞を見ることができた。

もう何十年も競馬を見てきたけど、毎週、毎月、毎年淡々とカレンダー通りに番組が回っていくこの世界で、一つのGⅠレースを見ることができる、ということにここまで感慨を抱いたのは凄く久しぶりな気がする。

何よりも、レースそのものが素晴らしかった。

戦前の序列は、「大本命」と目されながら、前走単勝1.4倍だったチューリップ賞で逃げて捕まって3着、と思わぬ敗戦を喫したレシステンシアが、鞍上にデビュー戦以来の武豊騎手を据えて参戦したことで辛うじて1番人気を保ち、それに続いて、デアリングタクト、サンクテュエール、リアアメリア、マルターズディオサ、といった面々が支持されている、という状況。

このレースに関しては「鉄板」であるはずのチューリップ賞組が、今年はなぜか負けたレシステンシア以外あまり人気がなく、阪神JF2着、前走優勝と、個人的には目下3歳牝馬では最強だと思っていたマルターズディオサ*1ですら5番人気に留まる状況。同じく阪神JFチューリップ賞と好走続きのクラヴァッシュドールも6番人気で、このワン・ツーならかなり美味しいなぁ、と朴訥に考えていたのがレース前の自分だったりもした*2

それが走り出してみたらどうだ。

スマイルカナが逃げて、レシステンシアがその後に続く、という予想通りの展開、しかもチューリップ賞を上回る速いペース、とくれば、まさにその後ろに付けていたマルターズディオサ、サンクテュエールあたりにとっては絶好の差しチャンス、だったはずなのに、彼女たちの脚は思いのほか鈍い。

そして、名手・武豊の手綱に操られて直線で先頭に立ち、前走とは全く違う「さらに一伸び」を見せたレシステンシアの勝利は確実!と思った瞬間に、後方から一閃。三冠最初のタイトルを奪い取っていったのがデアリングタクトだった。

マイル戦らしい爽快なスピード感と、そこに思いっきりかぶせて決着をつけたお手本のような直線一気。

後々まで残像が残るような美しいレースだったのは間違いない。

先述のとおり、この馬は2番人気に支持されていたし、前走では良血ライティア(シンハライトの全妹)を4馬身ちぎり、デビュー以来無傷の連勝を重ねていた馬だから「波乱」と言えば失礼になるが、過去10年で1度(2011年優勝のマルセリーナ)しか馬券に絡んだことのないエルフィンS組が、しかもこれまで重賞未勝利だったエピファネイア産駒がここで金星を挙げるとは、ちょっと想像できなかったな、というのが正直なところ。

唯一後悔したことがあるとしたら「騎手」で買わなかったことで、デアリングタクトに騎乗していたのは、今年初めから絶好調、前日も阪神牝馬Sサウンドキアラを操って今年の重賞5勝目*3を飾っていた松山弘平騎手だった。このブログでもここ2週くらい名を挙げて注目してきた若干30歳のまだまだ若手のジョッキー。

自分も長くやっていれば、当然、ノッている騎手に合わせて狙いを定めるテクニックくらいは持っているわけで、前日のメインも当然当てたし、日曜日のメインの一つ前、大阪―ハンブルクカップでも、4番人気のグランドロワで見事に良い思いをさせてもらっていたところだったから*4、それなら、最後まで「騎手」で買えばよかったじゃないか、という話になるわけだが、それも終わった後では後の祭りでしかない。

大きいレースになればなるほど、思い入れのある馬に思考が集中しがち*5。そして次に目が向くのは、過去10年の勝ち馬パターンとかコース相性とか馬場適性、といったデータ(大きいレースになればなるほどデータがそろっているので、そちらを使うことに過度に目が向いてしまう、という傾向があることは否めない)だから、最終的に勝った馬に乗っていた騎手が誰だったか、ということは二の次になってしまっていた。

さらに、この馬もマルターズディオサと同じ日高町の牧場(それもこれが今年2勝目、毎年1勝を挙げるかどうか、という小牧場)出身である、という事実に至っては、レースが終わってからも、しばらく気付かなかったくらいの体たらくだったのである*6


一つのGⅠレースが終わった途端に次の週のGⅠレースのことでざわざわし始めるのが、この時期の中央競馬の常で今週もその例外ではなかったのだが、それも、毎週無事にレースが行われてこその話。

日曜日のレースが終わって、月曜、火曜と曜日を重ね、「本番」に向けてムードが盛り上がれば盛り上がるほど、「本当に大丈夫か?」という思いが強くなるここ数週間の状況を考えると、できれば「宿題」を残す形で週末を終えたくはなかったのだが、もし、また次の週も同じ幸福を味わえるなら、再び1レースから12レースまで松山騎手で!というのが一つ。

そして、デアリングタクトのあの鮮烈な脚の残像が次の週末まで残っていたら、絶対にノルマンディーオーナーズクラブに入会してやろう(笑)、というのが、今のささやかな楽しみだったりする*7のだけれど、今はともかく、無事、皐月賞の日を迎えられますように、と、それだけを願っている。

*1:自分は勝手にこの馬は重馬場でも走れる、と思い込んでいたのだが・・・。

*2:結果的にこの2頭とサンクテュエールの組み合わせで勝負し、見事に散った。

*3:うち3勝はサウンドキアラだが、それまでなかなか大事なところで勝ちきれなかったこの馬をここまで爆発させたのは、松山騎手あってこそだと自分は思っている。

*4:この馬も、前走までは逃げてはへたり逃げてはへたりの繰り返しだったのだが、松山騎手が乗った途端、絶妙な逃げで1年ぶりの勝利である。重馬場に助けられた面はあるにしても、メインレース以上に「腕」の凄さを見せつけられたレースだったと思っている。

*5:今年の桜花賞に関しては、キズナ産駒、しかも頑張ってほしい日高の牧場出身、ということで、気持ちがマルターズディオサ一辺倒になってしまっていたところはある。

*6:そもそもこの血統、息の長い活躍を見せた祖母・デアリングハートが社台の縦縞で走っていた印象が強かったので、馬柱を見た時は、無意識のうちにどうせサンデーレーシングの馬だろう、くらいに勝手に思っていた。駆け抜けてきたときの勝負服を見て、あれ?と思ったのが正直なところだった。

*7:長年ノーザン系の馬に投資してきたが、そろそろ潮目が変わる頃かな、と思い始めた頃でもあっただけに、いいきっかけかな、と。

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