遅れてきた良血馬と”馬産地”の意地がもたらした波乱。

エリザベス女王杯、と言えば、ちょっと前まではノーザンファーム社台ファームの馬たちの独壇場のようなレースだった。

ここ10年、「血統が良い馬が走る」という当たり前の現実を嫌というほど思い知らされてきた中でも特に「エリザベス女王杯」とくれば、煌びやかな良血馬たちが主役を張り、ここで得た看板を引っ提げて繁殖に上がる、そんなサイクルの一つに過ぎないようなレースだと勝手に思っていた。

最近では、一昨年、ラッキーライラック、サラキア、ラヴズオンリーユーと、ノーザンファームの馬が上位を独占したのが記憶に新しい。

新型コロナ禍の真っ最中で、競馬だけが存在感を発揮していたあの頃は、まだ”王国”にも、その主戦騎手にも、一片の陰りもなかった。

だが、あれから2年。エリザベス女王没後初めて行われたこのレースの主役は完全に入れ替わってしまった。

1番人気に推されたのは2年前の三冠牝馬・デアリングタクト。母までは社台ファーム育ちとはいえ、自身の生まれは日高。

いわば「馬産地の星」とでもいうべき存在の5歳馬が、スタニングローズ、ナミュールといったノーザンファーム自慢の3歳牝馬を迎え撃つ構図は、なかなか見かけないパターンではあったし、時代の変化を予感させるに十分だった。

それでも、「そうはいっても最後はノーザンだろう」と、2番人気のスタニングローズから、人気薄めのアンドヴァラナウト、ルビーカサブランカに流して、今や遅しとレースを待ち構えていたのだが・・・


蓋を開けてみれば、人気馬は見事に飛んだ。

今年に入ってから【4100】、秋華賞まで制して目下誰もが認める最強3歳牝馬だったスタニングローズは、歴戦の疲労がたたってか14着に惨敗。

今度こそ主役に返り咲くなるはずだったデアリングタクトも、直線で伸びを欠き6着。

さらに、いつものように後方から進んだナミュールも、いつも以上にじりっぽく、主役にはなれないまま5着入着が精いっぱい。

そうなれば・・・と思った伏兵の推し馬たちも掲示板には遠く及ばず。

そんな中、一気の鋭い脚で飛び込んできたのが、大外枠からスタートしたジェラルディーナだった。

父・モーリス、母・ジェンティルドンナという紛れもない良血。だが、今年の秋、前走のオールカマーを制するまでGⅠはおろか重賞すら勝ったことがなかった遅咲きの馬が、2着に0.3秒、という結構な着差を付けて圧勝する、というシンデレラストーリー。

ノーザンファーム産、馬主もサンデーレーシング、という非の打ちどころのないバックグラウンドを持ちながら、このレースが始まるまではせいぜい「4番手」の評価にとどまっていた馬が、この大舞台でようやく開花に至った、ということに自分自身思うところも多かった。

強すぎた母*1は結局一度たりとも挑むことのなかった舞台での戴冠。とはいえこれで立派なGⅠ馬として、堂々の「二代目」襲名である。

クラブ所属馬だけに、ここからは引退までのカウントダウンとの戦いになるが、勢いに乗ったところで次走は迷わず、母娘二代での有馬記念制覇!に挑んでほしいところである。

そして、もう一つ驚いたのは、同着の2着に飛び込んだのが、ウインマリリンライラックだったこと。

新冠産のウインマリリンに浦河産のライラック

前走の札幌記念3着で久々に復活の兆しを見せていたウインマリリンはともかく、3歳馬、かつ牝馬三冠全て2桁着順で敗れた12番人気のライラックがこんな大仕事を成し遂げるなんて夢にも思わなかったが、これも重くなった馬場のいたずらか、それとも弟の激走に刺激を受けた兄・デムーロのせめてもの意地か。

馬場の重さと、上位3頭の鞍上がいずれも外国人騎手だったことが何となく凱旋門賞を想起させ、このうちの一頭でも来年ロンシャンの舞台に挑めたら・・・という思いもチラと胸をよぎるが、勝ったジェラルディーナともども、あまり先のことは考えず、まずは目の前の一戦一戦で結果を積み重ねてくれることを今は願うのみである。

*1:何といっても牝馬三冠からジャパンカップに直行して勝ってしまった馬だから・・・。

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