全馬ゴールした後、ラジオの音声からも場内騒然、という空気が漂ってくるのを感じながら、「そういえば、昔は”荒れるレース”の典型だったなぁ」と懐かしく思い出した今年の第46回エリザベス女王杯。
かくいう自分も、1番人気・レイパパレは高野厩舎の仕上げの微妙さに加えちょっと距離が長いかな・・・ということで切り、2番人気・アカイトリノムスメも「秋華賞勝ち馬とこのレースの相性は良くない」というただ一点の理由で切り、先行勢のマリリン、キートスのウイン2頭に、差し脚自慢の8番人気のデゼルと11番人気のソフトフルートを絡めて”ちょい荒れ”狙いで備えは万全なはずだった。
だが、現実はそんな甘っちょろい想像の遥か上を行く。
コーナーを回って最後の直線、追い込んできたピンクの帽子と白袖赤輪の勝負服を見て胸躍ったのは一瞬の錯覚。
猛烈な脚でそのままゴールまでちぎったのは、一本輪ではなく「二本輪」の岡浩二氏の所有馬。アカイけど、それは鳥の娘ではなく10番人気だったイトの方。
2着に飛び込んできたのは、勝負服は同じだけどデゼルじゃなく*1、斎藤(崇)厩舎だけどソフトフルートではなかった7番人気のステラリア。さらに極めつけはレイパパレと同じクラブながら人気薄の9番人気、福島記念の出走が困難になってこっちに回ってきた、という奇想天外ローテのクラヴェル。
3連単の配当は優に300万円を超え、本命党はもちろん中穴党でも、ぐうの音もでない結果となってしまった*2。
「赤い糸」といえば、恥ずかしげもなく思い出すのは、もう10年以上も前になる土曜ドラマの名作。
そして本来なら脳内に流れるはずのHYの「366日」がいつのまにか、
に変わるのも自分の中のお約束だ。
だから・・・という理由だけではないが、自分はこの馬をこの世代のクラシック有力候補、とにらんで、デビュー2戦目の未勝利戦からしばらく買い続けていた。
距離の伸びた阪神2000mで7番手から差し切って快勝。続く百日草特別もきっちり差して2着。ここまでは良縁。
だが、続く11頭立てのエリカ賞、上がりタイムは最速の33秒8なのに道中の位置取りが悪すぎて、馬券圏内には遠く及ばない8着。
さらに間隔を詰めて平場の1勝クラス、若竹賞と連戦し、いずれも最速上がりながら5着、4着と”当たり”からは見放されるレースが続いた時、自分とこの馬を結び付けていた「糸」も切れてしまったような気がする。
僅か1勝に終わった3歳の停滞期を超え、4歳になった今年は、ちょっと目を離しているうちに最初の半年だけで【2210】と大ブレイク。
前走の府中牝馬Sも、7着なれど復帰初戦で後方から上がり33秒4の脚で突っ込んできているから、この初めて挑むGⅠでいい脚を見せて4着、5着なら次からは再び・・・という展開もあり得たかもしれないのだけど、気づいた時にはいきなり壁を飛び越えてGⅠ制覇だから、これはもう縁がなかったというほかない。
ということで、登場人物の煮え切らなさにハラハラしたドラマと同様、すれ違ってすれ違った末に最後は悲劇(馬にとっては喜劇)な結末となってしまった運命のアカイイトだが、これまで3世代、数々の個性的な馬を世に送り出しながらもビッグタイトルとは縁がなかった父・キズナに初めてのGⅠタイトルをもたらした、という点で、まさに時代を繋ぐ役割を果たした、と言えるのではないかと思うところ。
凱旋門賞にまで挑んだディープボンドを筆頭に、マルターズディオサ、ビアンフェ。3歳にもソングライン、ファインルージュ、バスラットレオン・・・
どの馬も「あと一歩」と言われながら栄冠には届かず、年々激しさを増すディープインパクト後継種牡馬争いの中で、かつてのタヤスツヨシのように埋没してしまう懸念すらあったのだが、この大きな1勝がくすぶっていた血の爆発を呼び、父の後継種牡馬としての地位を確固たるものとしてくれると信じて、次走からはこの日唯一上位に絡めなかったシャムロックヒル*3をささやかに追いかけたいと思っている。