風雲急。最後の山は動くのか?

緊急事態宣言が出されてからちょうど1週間。

公表されている人の流れの数字*1だけ見ると、まだまだ、という印象もあるのだが、実感としては都会の中心部は「すっかりひと気がなくなった」という印象で、普通に歩いている限り「接触」の機会を探す方が難しい*2。むしろ居住地付近のスーパーやドラッグストアの方が人が多い印象で、23区の内側ですからこうなのだから、郊外の方はもっと、予期せぬ賑わい(?)になっているのではないか、といらん心配もしてみたりする。

幸いにも、ここ数日は、新たな感染判明者数の数字も、東京都に限ってはかなり少ない数字で出ていて、早くも「ピークアウトだ!」と先走る声も聞くのだが、いろんな情報*3を総合すると、ここ数日の数字の減り方は、純粋に症状が出ていても検査の順番が回ってこない、検査しても結果がなかなか判明しない、という理由によるところも多いのかもしれない。

ただ、そういった要素を差し引いても、先週、自分が想像していた最悪の事態に比べれば、はるかにマシな状況で現状が推移しているのは確かで、このまましばらく東京の”閑散”が続き、周辺自治体や大阪、福岡、といった地方大都市で感染爆発が起きなければ、3か月後、夏の太陽が照り付けてくるような時期には、それなりの人数で集まって美味しいビールが飲めるくらいにはなるのかな・・・*4と前向きな気分になっている今日のこの頃である。

口火を切った金融庁。そしてそこから始まった雪崩的緩和。

さて、ここ数日、実務の世界を賑わせているのは、多くの会社の財務・経理担当者が待ちわびていたであろう金融庁の公式リリース(2020年4月14日付)である。

www.fsa.go.jp

目下の状況に鑑みれば当然出るだろう、と思われていたリリースではあったのだが、やはりこのような正式な形で出たことの意味は大きい。

○ こうした状況を踏まえ、企業や監査法人が、決算業務や監査業務のために十分な時間を確保できるよう、金融商品取引法に基づく有価証券報告書等(注)の提出期限について、「企業内容等の開示に関する内閣府令」等を改正し、企業側が個別の申請を行わなくとも、一律に本年9月末まで延長することとします。
(注)有価証券報告書のほか、四半期報告書、半期報告書及び親会社等状況報告書を想定しています。
○ 提出期限の確定しない報告書である時報告書については、新型コロナウイルス感染症の影響により作成自体が行えない場合には、そのような事情が解消した後、可及的速やかに提出することで、遅滞なく提出したものと取り扱われることとなります。
(以上、強調筆者、以下同じ。)

これまでも申請さえすれば提出期限の延長が認められていたとはいえ、実務の世界で「有報を期限までに出せない」というのは、それだけ株価を暴落させかねない大チョンボだったわけで、実際、この申請を行おうとすると、COVID-19の蔓延でもはや厳しいのでは?と言われ始めた最近ですら、いろいろとややこしい手続きを要求される、というのが常識の世界だった。

それが申請すらせずに「9月末」まで自動的に延びてくれたのだから、ほっと胸をなでおろした人も少なくないはず。

そして、畳みかけるように同じ14日には、東証からも以下のようなリリースが出た。

www.jpx.co.jp

「本年4月7日付の「緊急事態宣言に伴う当取引所売買の取扱いについて」(東証上場第17号)のとおり、当取引所では、上場会社の皆様において決算作業等の円滑な実施が困難となった場合に、当初のスケジュールにかかわらず、役職員や取引先そのほかの関係者の皆様の健康及び安全の確保を最優先いただいたうえで、決算発表日程を再検討するようお願い申し上げているところです。」
「情報取扱責任者の皆様におかれましては、今般の金融庁の方針が「3月期決算企業をはじめとする多くの企業において、決算業務や監査業務を例年どおりに進めることが困難になる」との想定に基づくものであることを踏まえ、改めて自社の決算作業等の進捗状況を的確に把握いただき、必要な対応をご検討くださいますようお願いいたします。」
(以上、強調筆者、以下同じ。)

あたかも、「頼むから決算発表を遅らせてくれ!」と訴えかけているようにすら読めるこのリリース。

それに呼応するかのように、昨日から派手に決算発表スケジュールを延期する会社も続々と登場している*5

理由を見ると、比較的長い期間延期している会社の中には海外に連結子会社を抱える会社で「マレーシアやインドのロックダウンで決算作業が進まない」といった理由を掲げるものが多く、国内主体の事業者からはまだそんなに延期のリリースは出されていないのだが、中には5月の連休明けの発表予定を1、2週間ずらし、「緊急事態宣言下の自粛要請が開けるまで作業スピード落とすから延ばします」という雰囲気を思いっきり醸し出している会社もあったりする。

おそらく、今の時期に本当に財務担当者が誰も会社に出てきていなければ、4月中の開示はもちろん、5月中の開示すらおぼつかなくなる可能性が高いし、5月7日まで待ったところで、「宣言」がきれいさっぱりなくなって、それまでどおりのフル体制で業務を進められることなど期待すべくもないから*6、変更後の日程でもかなりの綱渡りを強いられる可能性はあるのだが、それでも、今の状況でギリギリの作業を強いられることがなくなっただけマシ、ということなのだろう。

正直、今、会計手続や監査の関係で起きている「遅延」は、会社側の問題ではなく、監査法人側の作業の遅れ*7に起因するところもそれなりにあるようだから、何となくの難しさはあるのだが、誰のための特例だったとしても、「期限」に縛られないことのメリットは相当あると思うので、ここもポジティブに捉えておくことにしたい。

株主総会は結局変わらないのか?

そんな中、15日付で出されたのが、新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた企業決算・監査等への対応に係る連絡協議会」という横断的な組織が出した、株主総会対応に関する記述も含む以下のリリースである。

www.fsa.go.jp

○ 企業及び監査法人においては、今般、有価証券報告書、四半期報告書等の提出期限について、9月末まで一律に延長する内閣府令改正が行われること等を踏まえ、従業員や監査業務に従事する者の安全確保に十分な配慮を行いながら、例年とは異なるスケジュールも想定して、決算及び監査の業務を遂行していくことが求められること。
 その際、企業においては、3月期決算の場合は、通常6月末に開催される株主総会の運営に関し、以下の点を踏まえつつ、対応していくことが求められること。
株主総会運営に係るQ&A(経済産業省法務省:令和2年4月2日)を踏まえ、新型コロナウイルス感染拡大防止のためにあらかじめ適切な措置を検討すること。
・法令上、6月末に定時株主総会を開催することが求められているわけではなく、日程を後ろ倒しにすることは可能であること。
・資金調達や経営判断を適時に行うために当初予定した時期に定時株主総会を開催する場合には、例えば、以下のような手続をとることも考えられること。
 1.当初予定した時期に定時株主総会を開催し、続行(会社法317条)の決議を求める。当初の株主総会においては、取締役の選任等を決議するとともに、計算書類、監査報告等については、継続会において提供する旨の説明を行う。
 2.企業及び監査法人においては、上記のとおり、安全確保に対する十分な配慮を行ったうえで決算業務、監査業務を遂行し、これらの業務が完了した後直ちに計算書類、監査報告等を株主に提供して株主による検討の機会を確保するとともに、当初の株主総会の後合理的な期間内に継続会を開催する。
 3.継続会において、計算書類、監査報告等について十分な説明を尽くす。継続会の開催に際しても、必要に応じて開催通知を発送するなどして、株主に十分な周知を図る。
○ 投資家においては、投資先企業の持続的成長に資するよう、平時にもまして、長期的な視点からの財務の健全性確保の必要性などに留意することが求められるとともに、各企業の決算や監査の実施に係る現下の窮状を踏まえ、上記の定時株主総会・継続会の取扱い等についての理解が求められること。

これも、あたかも6月総会が例外、とでもいうような書きぶりになっているから、いかに今が「非常時」だとしても随分踏み込んだな、というのが多くの人の思いだろう。

ただ、中身に関しては、正直、これでもまだまだつらいぞ・・・と言わざるを得ない(そして、法的観点だけみると、既に公表されていた法務省の解釈からあまり踏み込めていない)ものではある。

「継続会」と簡単に言うが、前者で取締役の選任等の重要議案を可決し、後者で計算書類等の報告を行う、ということであれば、年に2回総会をやるのと何ら変わりはない。

また、議案の中でも剰余金の配当議案に関しては、決算が確定していない状況で出すのはかなり勇気がいるから、結局、「継続会」の方に議案を持っていかざるをえず*8、そうなると長らくくすぶっている”基準日問題”*9の壁が再び立ちはだかることになる。

そうなると、3月、4月の総会のように「雨が降ろうが鑓が降ろうが予定どおりやるしかない!」という方向に結局向かっていかざるを得ないだろう。

ちょうど1週間前に掲げたエントリー*10を連日更新する形でお伝えしているとおり、この緊急事態宣言下の首都圏においても、多くの会社が株主総会を予定どおり挙行する方向で動いているし、会場変更を余儀なくされても*11、それでも代替施設を使って実施することがいかに肝要か、ということを、これまでに苦労した多くの会社が証明している。

もちろん、政省令の改正でどうにかなるような話とは異なり、この問題を抜本的に解決しようとしたら、会社法の「基準日」の概念に手を付け、さらに「3か月以内」というところにも踏み込んでいかなければいけないから、そう簡単なことではないのは分かる。

だが、「当初予定したスケジュールの形式的な遵守に必要以上に拘泥することによる関係法令が確保しようとした実質的な趣旨の没却」だとか「関係者の健康と安全が害されるリスク」を気にするのであれば、せめて今年限りの時限立法を行ってでも何とかできないものなのか・・・と思わずにはいられないのである*12

この先の状況次第ではあるが、最後の山が動く時は来るのか? もう少し見守ってみることにしたい。

*1:新型コロナウイルス(COVID-19)感染症の対応について|内閣官房新型コロナウイルス感染症対策推進室参照。

*2:もちろんオフィスの中に入れば、まだそれなりに人がいる、という会社もあるのかもしれないが。

*3:特に各社がリリースしている自社社員の発症から検査発覚までの経緯は、その時間軸も含めてかなり参考になる。

*4:もちろん、自分が無事生き残れていれば・・・の話だが。

*5:今のところ、4月27日から5月20日へ約1か月も後ろ倒しにした㈱JVCケンウッドが一番の「優等生」かもしれない(https://www.release.tdnet.info/inbs/140120200415494392.pdf

*6:諸外国の例を見ても、5月いっぱいは解除すること自体が困難だし、多少落ち着いて「宣言」の効果自体はなくなったとしても、リスクがいたるところでくすぶり続けている以上、それまでどおりのやり方でというわけにはいかないだろうと思われる。

*7:外資系の大手ファームなどは、徹底した在宅勤務体制に切り替えてしまった結果、これまで以上に細かいやり取りをしなければいけなくなっている、という話もあったりするようだ。

*8:多くの会社がもっとも気にしているこの論点に言及されていないあたりが、このリリースが”曲者”に思えるゆえんだったりもする。

*9:株主総会の開催時期を動かそうと思うと基準日も動かさざるをえず、結果的に本来の基準日となるはずだった日に株式を保有していた(かつその後売却した)株主に不利益を被らせることになる、という問題。

*10:k-houmu-sensi2005.hatenablog.com

*11:今日も東京で1社、会場変更を余儀なくされた会社が出た。

*12:もちろん、1年前からスケジュールを決め、会場を押さえている会社も多い6月総会をずらすとなれば、「2021TOKYO」並みの会場争奪戦、既存イベントとの調整、といった問題は起きうるのだが、それはさておき。

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