抽選、しかも一人一席、という厳しい条件付きとはいえ、いよいよ来週から競馬場への入場も解禁となる我らが中央競馬。
ゆえに、長く続いてきた「無観客」競馬も今週の開催がおそらく最後、という節目の時を迎えることになったのだが、そんな状況で迎えた4回中山開催の最終日は実に美しい結末となった。
「良馬場」発表なのに、どう見ても湿ってるんじゃないか!?と疑いたくなるような馬場の重さは相変わらず。
今年の開催は、本来なら前残りのスピード決着となることが多かった昨年までの中山秋開催とはうってかわって「馬力勝負」といった感のある決着が目立ったのだが、特に最終週では、そうでなくても重い芝コースの馬場が蹄に掘られてより重くなったのか、内側に入れば入るほどゴール前で伸び脚を欠き、決して速いペースではなかったのにきれいに外差しが決まる、というパターンも多かった。
そしてその極めつけ、のようなレースだったのが、第54回スプリンターズS。
元々快速自慢が揃う電撃6ハロン戦だから、ペースが速くなって最後の急坂で差しが決まる、というケースは過去にもあったのだが、それでも直線が短い中山、逃げた馬が着内で粘る、というのもよくあるパターンだった。
だから、ゲートから飛び出したモズスーパーフレアがビアンフェと競り合いながらもいつも通りの逃げを見せた時は、昨年の例からしてもきっちり3着には残ると思ったし、逆に大本命・グランアレグリアの道中の位置取り(後方から2番手)は不安以外の何ものでもなかった。
ところが、である。
最後の直線、内側で逃げた馬を捕まえようとするダノンスマッシュ、ミスターメロディといった先行勢を尻目に、馬場の外目から刺すように飛んできたのはグランアレグリア。
既にマイルGⅠ2勝、高松宮記念でも繰り上がり2着、という実績を持つ稀代の短距離名牝は、ファンの不安を一瞬で吹き飛ばすような脚で後続を一瞬でぶっちぎってしまった。
さらに、最後方にいたはずのアウィルアウェイまで突っ込んできて、実績上位のダノンスマッシュ危うし・・・と思わせるシーンまで演出。
結果的に1,2着は比較的順当な組み合わせになったものの、2頭の4歳牝馬の切れ味の鋭さだけが強く印象に刻まれる一戦となった。
タイムだけ見れば、雨中の決戦(馬場は稍重)で、速いというより「強い」という印象を残した2年前のファインニードルの時の変わらない。しかも逃げ馬の1000mのラップは2年前の方が少し速いくらいである。
だが、結果的には逃げた馬はことごとく沈み、豪快に差しが決まる。
実にタフな馬場でレースが行われていたのだな、ということを、我々は改めて思い知らされることになった。
ちなみに、個人的に、今日一日、嬉しかったことがあるとしたら、今年に関しては「昼の競馬」が完全に「夜」を食った、ということだろうか。
今年も欧州大陸で行われた凱旋門賞。
この伝統と格式のあるレースがコロナ渦中でも何とか開催にこぎつけられた、ということは、歴史的にみても非常に大きな意義があることだと思うのだが、有力馬が回避した上に、直前にアイルランドから遠征してきたオブライエン厩舎の馬に禁止薬物混入の疑いが浮上し、武豊騎手騎乗予定だった「ジャパン」号を含む4頭が出走取消*1。
偉大なる女傑・エネイブルの悲願の3勝目なるか?という興味こそ辛うじて残されていたものの、いざレースが始まって最後の直線に向かうと、同馬にかつての勢いはなく、昨年3着のソットサス以下、フランス勢の後塵を拝して6着に沈むことになってしまった。
日本から参戦した唯一の馬、今年は日本に帰らずにずっと欧州大陸での調整・出走を続けてきたディアドラも、内側から伸びるか?と期待させたのは一瞬だけ。結局、あっけなく8着に沈んだ。
もしかしたら馬券的には面白い決着になったのかもしれない。
ただ、国内でのレースへの興味関心、という点で言えば、例年に比べても盛り上がりは控えめ、という印象だったし、実際レースが始まってからもそんなに結果を気にする人はいなかった。
そして何より、国内GⅠでの派手な差し切りに比べると、レース自体が非常に退屈なもののようにも見えてしまったわけで・・・。
これまで、凱旋門賞がある週末の国内の競馬は、たとえ予定されているのがGⅠだったとしても何となくファンは皆気もそぞろで、「夜の凱旋門賞の方が本番」ということも決して少なかったように思う。
有力馬がこぞって国内ではなくフランスに向かい、それにつれて騎手までも遠征を決める、という状況では、国内のレースが「裏番組」になってしまうのもやむを得なかったのかもしれないが、長年この国で競馬を見続けてきた者としてはちょっと寂しいところもあった。
だからこそ、今年は週末の話題、という点で国内競馬のインパクトが凱旋門賞のそれを上回った、ということは非常に嬉しいこと。
また再び、日本の競走馬が不自由なく海外遠征できる日が来てくれることを願いつつも、日本の競馬も充実を保ち続けてほしい、という願望との間でどうバランスを取るか、この先はそれを考えながら眺めていくことになるのだろうな、と思うだけに、せめて今年だけは、再来週から始まるGⅠ連続シーズンに少しでも多くの馬が顔をそろえてくれることを願うばかりである。