「無観客」に突入して以降のJRAの健闘ぶりを見て、
「これこそが真のデジタルトランスフォーメーションだ、皆の衆、見習え!」
という趣旨のことを書いたのは、ちょうど2週間くらい前のことだったか*1。
そして、5月の2週目くらいからずっと続いてきた「売上前年比プラス」の勢いは、上半期の最後の開催日まで全く衰えることはなかった。
今、ポジティブなトーンで報じても読者にはあまり喜ばれないから、なのか、見出しでは「G1では91%」という数字の方がむしろ目立ってしまう(正確には91.5%)のだが、「売得金は前年上回る」という事実は、「前年比101・5%」という数字が完膚なきまでに証明しているし、それを「入場人員前年比26・8%」、競馬場はもちろん、全国のWINSの発売窓口等、いわゆる”リアル”の販売チャンネルはすべて閉めている(したがって、開けていた時に比べればコストも大幅に削減されている)、という状況で達成しているところがとにかくすごい。
「一生に一度の記念馬券」層がいなくなるGⅠレースだけはどうしても「リアル」に比べて分が悪い、という状況も長らく続いてはいたのだが、先の週末は、とうとう夏のグランプリレース・宝塚記念で、前年を10億円以上上回る対前年比105.5%という売り上げを記録し、名実ともにデジタル路線の完全勝利となった。
もちろん、今の状況はあくまで「非常時対応」。
いずれ夏競馬が佳境に差し掛かる頃には、おそるおそる観客を場内に引き戻し、秋のGⅠシーズンを迎える頃には、「競馬場に行こう!」と呼びかける騒々しいCMが再び流れることにはなるのだろうが、そこでもまた、この一連のコロナ禍の間に開拓した新たなファン層の存在が効いてくることになるだろうから、JRAの関係者ならずとも通年の売得金がどこまで伸びるか、楽しみで仕方なかったりもする*2。
これまた繰り返しになってしまうが、電話投票や、インターネット草創期の試行錯誤を経て、長年着実に投資を行ってきた結果が今ここに結実している、という歴史に敬意のまなざしを向けることも含め、この成功事例から学ぶべきことは本当に多い、と思う次第である。
雨上がりの阪神競馬場からロンシャンへと続く道が途切れることのないように。
ということで、リアルな日常が戻ってこようがこまいが、馬が走り続ける限り経営基盤は盤石、というのが今の中央競馬の状況だと思われるのだが、昨日の宝塚記念は、
「やっぱり早く平時に戻ってほしいかな」
と思わせるに十分すぎるレースだった。
前日になっても天候がどう転ぶか読めなかった週末。稍重で始まった芝コースは、午後には「良」馬場に回復し、多少の”重さ”は感じさせつつも、不良馬場続きの東京に比べればまだマシ、という印象になっていたのだが、突如として振り出した雨が状況を一気に変える。
公式発表されたメインレースの馬場状態は「稍重」。だが、トーセンスーリヤが引っ張り、見た目的には「超スロー」とは到底言えないような展開でも1000mの通過は60秒ジャスト。
有力視されていた1番人気・サートゥルナーリアは、こればっかりは「馬場のせい」にしても怒られないだろう、というもたつきを見せて「超重馬場巧者」のメイショウテンゲンにクビ差まで迫られる4着に撃沈したし、その一つ前の着順の伏兵(12番人気)モズベッロ*3が勝ち馬に付けられた差も実に11馬身で、勝ち負けレベルの勝負には全くならない。
さらにその前で、荒れ馬場巧者のイメージそのままに、必死で追いすがって復活を遂げたキセキですら、勝ち馬との差は最後まで縮めることができず6馬身差、タイムに至っては同日同距離の3歳上1勝クラスの勝ち馬にすら及ばない、という惨状・・・。
それだけ過酷なレースだったからこそ、この明らかに重そうな馬場で、ただ一頭、普段通りの力を発揮し、地を這うようなしぶとい脚で後続をぶっちぎった4歳牝馬、クロノジェネシスの勝利には。実に大きな価値があったといえる。
そして、この勝利は、どんなに好天が続いていても地元馬向けのサービス(?)でレース前に馬場に水をまかれ、「馬場が違い過ぎて力を発揮できなかった」というコメントを並べて討ち死にする日本からの遠征馬を眺めるしかなかった「凱旋門賞」の歴史をも大きく変える可能性を秘めたものだったように思えてならない。
何といっても、この勝ち馬の父親は、2004年の凱旋門賞馬、バゴなのだ。
ジャパンカップを最後に引退し、日本で種牡馬になった初年度から菊花賞馬を輩出したものの、その後はなかなか目立った産駒を出せずにいたこの父がようやく送り出したミスプロ4×4の血を持つ新・最強牝馬。
何とか海を超えてスタートゲートにさえ辿り着くことができれば、五分以上の勝負はできる!!という思いを久々に抱かせてくれる馬だけに、こういう時だけは前言を翻して、関係者の現地への往来に支障がなくなり安心してレースに備えた調整ができる、そんな日常が早く戻ってきてほしい、と願わずにはいられない。
たとえ応援する側にとっては、テレビ越しでしか見ることができない今の週末と変わりない状況だったとしても、ある程度の「リアル」が戻ってこないと実現しないものはやっぱりあると思うから、普段はバーチャルな世界に浸りつつも、ほんの少しの正常化に期待を込めてみたくもなるのである、・・・*4。
*1:k-houmu-sensi2005.hatenablog.com
*2:ちなみに、一度ネット投票の快適さを味わってしまった人間が「券売機の前に並ぶ」という世界に戻るのは非常に難しく、自分も先日のエントリーで書いた通り、どうしても買いたい記念馬券がある時以外はWINSに足を運ぶことがなくなって久しい。だから、もしかしたら、よほどの注目馬が現れない限り競馬場やWINSがかつてのような賑わいを取り戻すことはないのかもしれないが、それでも主催者は堅実に売り上げをキープできるし、優雅に観戦を楽しめるようになることで来場者の満足度も上がるのだから、以前の光景を惜しむのは筋違いというべきだろう(もちろん、新聞を売る方々や場内食堂で働く方々、窓口でアルバイトをする方々など、経済的ダメージを受ける方々が一定数いることも否定はしないが、全体を見ればそれでもなおポジティブなインパクトの方が大きかったと自分は思っている。
*3:父馬が道悪の鬼血統・ディーププリランテだったことに気づいたのはゴール後、馬柱を見返したときだった・・・。
*4:今年に関しては凱旋門賞の登録がないため出走は現実的ではなく、出るとしても来年では?という見通しを示すメディアもあったりするのだが、できることなら狙えるものは一番良いタイミングで狙ってほしいな、と思わずにはいられないのである。