怒涛の「株主総会2020」は、6月期決算会社の開催やギリギリまで引っ張った継続会等もほぼ一通り終わった、ということで、既に総括と来年に向けた「提言」が行われるフェーズになってきている。
そんな中、日本経済団体連合会より、「株主総会におけるオンラインの更なる活用についての提言」というペーパーが公表された。
https://www.keidanren.or.jp/policy/2020/092_honbun.pdf
「新型コロナウイルス感染症に対応しつつ株主との建設的な対話やデジタルトランスフォーメーション(DX)を促進する観点から、今後の株主総会におけるオンラインの更なる活用に向け以下の提言を行う。」(1頁、強調筆者、以下同じ。)
ということで、目下の時流も押さえた書き出し。
そして、以下のとおり、「感染予防」という観点を離れ、「多様なアクセシビリティの提供」という観点からもインターネットの活用を強く志向する者となっている、というのが本提言の最大の特徴だということができるだろう。
「感染予防のため来場者数をなるべく抑える一方、株主への情報提供の充実や、より効率的な対話を促進する観点から、インターネットを活用した株主総会運営を行うことは、企業が取り得る有効かつ現実的な選択肢の1つであるといえ、また、感染症拡大時であるか否かを問わず、DX を推進する中で、株主に対して株主総会への多様なアクセシビリティを提供することは時代の要請であり、特に遠方に居住の株主や移動に不自由のある株主にとって合理的である。例えば、株主総会の会場を自社会議室などに設定し、株主の来場を事前登録制等を活用して限定しつつ、その代わりに株主のインターネットによるアクセシビリティを高める方策を取ることが考えられる。また、本年の定時株主総会では、事前に質問等を株主から自社の株主専用サイト等で募った上で総会時あるいは総会後に回答を行う事例が相当数見られた。議決権行使についても、事前の議決権行使を要請した企業が多数を占めた。書面による議決権行使にとどまらず、インターネットの活用による事前の議決権行使についても行いやすくなるよう、企業として環境整備を行うことも一案である。加えて、新型コロナウイルス感染症対策に関する会社と個人株主等との間の各種連絡(例えば、事前登録行為など)についても、郵便等の書面以外のインターネット等によることが広く認められることが確認されるべきである。」(3~4頁)
様々な予想はあるだろうが、自分は「新型コロナ」の話題は、2020年→2021年の年替わりあたりを契機として、いつのまにかフェードアウトするだろうと予想しているし、株主総会に何らかの影響を与えるとしても、全ての会社が意識して対応するのはカレンダーが一巡する来年の3月総会くらいが最後で、その後は、会社によって対応の濃淡はあれど、今年のように「リアル出席させること自体がリスク」という感覚は失われ、元の姿に戻っていく会社も増えていくのではないかと思っている。
だが、それとは関係なく「インターネットを活用」できるようにせよ、というのがこの提言の本旨であり、この点に関しては自分も賛同できるところが多い。
今年に入ってから、「株主」の立場でいくつかの会社の「ハイブリッド型」総会に参加することが何度かあり、特に先日は初めての「ハイブリッド出席型」総会も経験した。
いずれもこれまで一度も総会の会場には足を運んだことのなかった会社である。
特段移動に不自由があるわけでない者にとっても、さして刺激的な出来事を経験できるわけでもない株主総会の場に朝早起きして出かける、というのは非常にハードルが高いことなのであって、それゆえ「運営の勉強」とか「お土産が気になる」といった本来的ではない目的で足を運んだ場合を除けば、自分が所属する会社、自分が担当している会社以外の株主総会に足を運んだことはほとんどなかった。
それが「インターネット」経由で参加できるとなると一変。
さすがに仕事中だとつらいので参加はせずに後で録画配信だけ見る、という妥協をした人も(自分も含め)多かっただろうが、テレワーク中にBGM代わりに流していた方もそれなりの数はいらっしゃったはず。そしてそんな関わり方でも、質疑のところでは思わず耳をそばだて、決議の時の賛否ボタンは押し、ついでに拍手ボタンも押してみた、という方はいたはずである*1。
リアルな場で総会を開催しても、そこで発言したり、動議を出したりするのは、毎年同じような顔ぶれのほんの一握りの人々だけで、そもそも足を運べる株主自体が、時間に余裕のあるごくごく限られた”特権階級”の人々だけに限られている。
大多数の株主は、総会の当事者どころか傍観者にも慣れない、という現実がそこにはあるわけで、いかに「会議体で議論することの重要性どうのこうの」といったところで、そういう現実に長年接してきた者には何ら説得力を持たない。
だから、少なくとも、大多数の株主にとっては、会社側が「インターネットを活用」してくれるのであれば、会社のトップの話を聞くことができる機会が増えるという点で、プラスになることの方が遥かに多いだろう、と自分は思っている*2。
前記提言では、「政府において一定の考えを明らかにする必要がある」事項として、ハイブリッド参加型、出席型に関し、以下のような提案を行っている。
①ハイブリッド参加型に関して確認されるべき事項
i. 映像通信なしの音声通信のみによる開催が認められること。
ii. 通信回線安定の観点から、会社は、オンラインでの株主の参加枠(人数)を合理的な範囲に制限できること。
iii. 役員が総会当日にオンラインで出席する場合、役員としての説明義務を果たせる態様である限り、当該役員は株主総会に法的に出席しているものといえること。総会における議事進行等を支障なく行える仕組みが整備されている限り、総会議長のオンラインによる出席でもその職責を果たせること。
iv. コロナ対策に関する会社と個人株主等との間の各種連絡(例えば、入場の事前登録行為など)について、郵便等の書面以外のインターネット等の手段によることが認められること。
v. リアル出席株主のプライバシー権や肖像権保護等の観点から、会社は、オンライン参加の株主に対し、総会の録音・録画・転載を禁止できること。
② ハイブリッド出席型に関して確認されるべき事項
i. 信頼性のあるシステムを使用することを前提に、仮に通信障害が発生した場合などでも、企業としての合理的判断を経て採用されたシステムであれば十分であること。
ii. 本人や代理人以外の第三者によるなりすましの危険性についても、会社側が本人確認のための合理的な方策をとっていれば十分であること。
iii. 過年度のリアル出席株主数及びハイブリッド出席型の導入によりオンライン出席に移行すると予想される割合から合理的に導かれるリアル出席株主数が収容可能な会場を用意していれば十分であること。また、感染症拡大時においては、会場での株主等の三密を避けるため、より収容可能数を限定できること。
iv. オンライン出席株主か ら質問フォームにて 投稿された 質問事項も含め、その取り上げ方(質問者の指名)は、恣意的な運用とならない範囲で議長の合理的議事進行に委ねられること(例えば、リアル出席の場合には、株主が事前に質問状を提出していたとしても、総会当日に挙手し、指名されたあと質問事項を発言して初めて会社に説明義務が生じることから、仮にオンライン出席株主の質問に関し、質問フォームにて投稿されたものすべてに会社が回答しなければならないとすると、リアル出席株主との平等な取扱いが図れない)。
運営上の課題から株主総会の本質にかかわることになりそうな話まで様々な要素の提言が混在しており、中にはかなり踏み込んだ意見もあるように見受けられるが、実務側の視点では至極当然の要望だし、株主の立場から見ても、「まぁ良いのではないですか」という類のものがほとんど、といってよいように思われる。
一方、続く7ページの後半くらいからの「提案」には、少々首をかしげたくなるものも見受けられる。
例えば、「株主総会資料の WEB でのみなし提供の拡充の恒久化に関して」という項目では、
「本年の定時株主総会においては、新型コロナウイルス感染症の影響により計算書類等の作成・監査などに遅れが生じる可能性があることを考慮し、株主総会資料としての単体計算書類などに関して WEB 開示によるみなし提供を行うことを認める時限的措置がなされた。これに関する法務省の対応を評価するところであるが、新型コロナウイルス感染症の影響が来年以降にも継続するおそれがあることに加え、将来に向けて株主総会プロセスの DX を促進する必要性も考慮すれば、本年の時限的措置として認められた WEB 開示によるみなし提供の拡充を恒久化すべきである。」(7~8頁)
と書かれているのだが、招集通知の電子化前倒し実施、という話であればまだしも、「新型コロナ対応の暫定措置」としての性格が強かった「みなし提供拡充」を恒久化する、というのは、あまり筋の良い話ではないような気がする。
(万が一新型コロナの影響が来年になってもまだ続いているようなら)決算、監査スケジュールと総会日程の関係についても今年の教訓を踏まえて当然見直す、というのが筋だろうし、何といっても今年一部の会社で見られたような”スカスカの(紙の)招集通知”を恒久化する、というのは、株主の便宜を考えると個人的にはかなり抵抗がある*3。
また、もっと物議を醸しそうなのが「選択的なバーチャルオンリー型株主総会の開催について」という章(8頁以下)で、ここはツッコミどころが多数ある、というべきだろう。
特に自分が気になったのは、
② 質問・動議の取扱い
「バーチャルオンリー型においては、多数の株主により、濫用的なものも含め、オンラインで大量かつ必ずしも秩序立っていない発言がなされ、建設的な発言の集約、株主総会の合理的かつ円滑な運営が困難となる可能性がある。そこで、円滑な総会運営の観点から、一定の制約や工夫はあってしかるべきということを、まずは確認すべきであり、特に動議に関しては、そもそも総会当日の動議を認めることの是非も検討されるべきである。その上で、具体的な対応に関しては、実務の合理的運用に委ねられるべきと考える。」(10頁)
というくだりで、そこまで「バーチャルオンリー型総会」のメリットを散々強調しておきながら一転して「デメリット」を持ち出し、しかも「動議提案権の制限」というかなり踏み込んだところまで行ってしまっている点には、見ていてあまり良い印象を受けない。
もちろん、事務方にしてみれば、大量に寄せられる質問に交じって飛んで来る「動議」をより分け、即座に議長席とやり取りしながら対応する、というミッションにはとてもじゃないが耐えられない、という思いがあることは十分理解できる。
ただ、「動議」が出る株主総会には相応の背景があることもほとんどなわけで、特に株主と経営陣の対立が深刻化しているような会社で、「バーチャルオンリー」にした上で、さらに「総会当日の動議まで封じる」という手段を認めてしまった場合の弊害を考えると、さすがにこれは行き過ぎではないかと思う。
以前、ジュリストに特集記事が掲載された際にもコメントしたとおり、「運営側の視点」で見るならば、株主総会の運営に際してあまり手の込んだことはしない方が良い(手の込んだことをすればするほど事務局への負荷は増える)と思っているし、もし「インターネットをフル活用した」株主総会に切り替えるのであれば、そもそもの「株主総会」の意義、役割自体を根本的に見直すこととセットでなければ、労多くして報われない、ということになりかねない、というのが自分の考え。
k-houmu-sensi2005.hatenablog.com
さすがに「来年の総会」に向けた提言でそこまで踏み込むのは無理だろうし、「招集通知の電子化」さえ(既に決定してはいるものの)まだ先の話に過ぎない現状で、どこまでたどり着けるのがいつになるのかは、全く想像もつかないのだけれど、前記提言が「バーチャルオンリー型総会」の採用を求める理由の一つに挙げている、
「多様な働き方への対応が求められている現在、株主総会の運営スタッフの労働時間・労力の削減にもつながる。」(8~9頁)
という目的を本当に達成しようと思うのであれば、「株主総会を『会議体』としては観念しない」というところまで踏み込まなければだめだろう、と思うだけに*4、(ある一方向にだけ突出した「改革」を志向するのではなく)きちんと理を詰めて、段階を踏んで、本当の意味での「改革」を目指すべきではないか、と思った次第である*5。
*1:さらに進んで質問を打ち込んだり、動議まで出しちゃった、という方がいればちょっとお話を聞いてみたいところだが・・・。
*2:懸念されるのは「併用」することによる事務方の負担だが、それも後述する「提言」が合理的な範囲で採用されれば、ある程度負担を軽減することは可能ではないかと思われる。
*3:事務方にとっても、招集通知は招集通知で作成しつつ、Web開示資料を別途準備する、という手間がかかることに変わりはないので、そこまで大きく負担が軽減されるわけでもない。
*4:既に出てきたような、質問、動議対応がより難解になる、という問題に加え、通信回線の途絶等に備えたシミュレーションやバックアップの準備、まだあと数年は残るデジタルデバイド克服のための細かな対応等、裏方が対応しなければならない事柄は増えることはあっても減ることはないだろう、というのが自分の見立てである。
*5:いつか「前の日会場に泊まり込んで、朝早起きして行列に並んだね」とか、「総会の日はいつも部署のメンバー総動員で、終わった後に食べたホテルの中華が美味かったね」といった話が、多くの会社の一部のベテラン社員にしかわからない懐かしい昔話になることを今は願うのみである。