引き上げられたバーチャルオンリー総会のハードル?

季節はめぐり、今年も佳境に差し掛かりつつある株主総会2021」

今月の半ばくらいからは、連日のようにどこかの会社で招集手続の開始を告げる取締役会が行われ、付議される議案がリリースされるようになり、今週に入ってからは「中3週間」を遥かに超えるようなタイミングの会社も含め、怒涛の招集通知開示ラッシュ。さらに週末に差し掛かる頃には発送された招集通知も手元に届くようになってきた*1

ここ数年の傾向として目立つようになった「監査等委員会設置会社への移行」や「ダイバーシティを考慮した(と思われる)社外取締役の選任」さらに「会計監査人の異動」に、一部のファンドからの紋切り型の株主提案は、今年もあちこちで見られていて、各社ご苦労が絶えないところだと思うのだが、そんな中、今年のトピックとして新たに急浮上してきたのが、

「定時株主総会のバーチャルオンリー化を可能とするための定款の一部変更」

である。

既に川井信之弁護士のサイトでまとめられているが*2、自分が把握している限りでも、口火を切ったのは2021年5月11日付の武田薬品工業㈱の↓のリリースだった。

www.nikkei.com

株主総会の開催の時期を定める定款の規定の標題を「開催の時期および方法と改めた上で、

「当会社は、感染症拡大または天災地変の発生等により、場所の定めのある株主総会を開催することが、株主の利益にも照らして適切でないと取締役会が決定したときには、株主総会を場所の定めのない株主総会とすることができる。」(強調筆者)

という規定を新たに追加するこの変更議案のインパクトは非常に大きかったし、今まさに「バーチャルオンリー株主総会」を認めんとする「産業競争力強化法等の一部を改正する等の法律案」が国会で審議されているさなかに、

「本議案による定款一部変更は、産業競争力強化法等の一部を改正する等の法律が上述の内容で国会において成立し、公布・施行されること、ならびに、上記の経済産業大臣および法務大臣の確認を当社が得ることを条件として、効力を生じるものとします。」

という留保付きで、一足先に”仕掛けた”感のあるこの議案に対しては、様々な意見が飛び交ったところでもあった。

だが、これは序の口、5月14日には三井住友FGと後述のアイ・アールジャパンHDが、さらにその翌週にはリクルートHD、ZHD、ソフトバンクグループといった、いかにも挑戦するDNAが組み込まれていそうな会社が次々と定款一部変更議案の提出を表明した*3といった会社が続く。

議案での書き方は各社それぞれで、標題を「場所の定めのない株主総会【の開催】」とした上で、

「当会社は、株主総会を場所の定めのない株主総会とすることができる。」

という条文をシンプルに追加するパターンもあれば、招集手続を定める条の中に、新たな項番を付け加えるパターンもある。

また、附則の書き方には、もっと様々な個性が出ていて、代表的なものを挙げるなら、冒頭の武田薬品工業の例と同じく法律との整合性をシンプルに記載した、

「第18条の変更は、産業競争力強化法等の一部を改正する等の法律(令和三年閣法第二三号法案の再提出等により法案番号が変更された場合には変更後の法案番号による)が成立し、産業競争力強化法第三章第四節が改正及び施行されること、ならびに、当会社が、当該改正後の産業競争力強化法に基づき、経済産業省令・法務省令で定める要件に該当することについて経済産業大臣及び法務大臣の確認を受けることを条件として効力を生ずるものとする。本附則は、第18条の効力の発生日の経過により削除する。」(㈱アイ・アールジャパンホールディングス)

のようなものから、「効力発生日」の特定を意識した、

「第14条(招集)の変更は、国会における産業競争力強化法等の一部を改正する法律の成立及び施行後、経済産業省令・法務省令で定めるところにより、当社が実施する完全電子化による株主総会が、経済産業省令・法務省令で定める要件に該当することについて、経済産業大臣及び法務大臣の確認を受けた日を効力発生日とし、本附則は、効力発生日経過後、これを削除するものとする。」(Zホールディングス㈱)

さらには、法律案の早期成立や「廃案」の可能性まで意識した

「物理的な株主総会の会場を設けることなく、インターネット等により株主が株主総会にオンライン出席するバーチャルオンリー型株主総会を開催することが可能となる「産業競争力強化法等の一部を改正する等の法律」が成立し、同法律におけるバーチャルオンリー型株主総会を可能とする規定が施行され、同法律に基づき、株主総会を場所の定めのない株主総会とすることができる旨を定款で定めるための要件に該当することについて、経済産業大臣および法務大臣の確認を受けることを条件として、当該確認を受けた日を効力発生日として、第14条を変更する。ただし、本附則を含む定款一部変更に係る議案が、株主総会で承認された日において、当会社が、経済産業大臣および法務大臣の確認を受けている場合は、当該日を効力発生日とする。なお、当該変更または同法律の案が廃案となることをもって、本附則を削除する。」(㈱LIXIL)

まで、会社ごとの個性がよく表れているような気がする。

そして、総会周りの関係者の方々の多くは、法案審議と並行してこういった勇気ある10社程度のサンプルが世に提供されたことに感謝しつつ、「(今年の総会が終わったら)来年以降どうするかじっくり考えればいいや」と思ったはずだ。

だが、今週末になって、我々はまた新たな展開を目撃することになった。

”勇社”の一つ、㈱アイ・アールジャパンホールディングスの議案に向けられた泣く子も黙る議決権行使助言会社Institutional Shareholder Services Inc.(ISS)の「反対推奨」、そしてそれに対する会社側の反論が明らかにされた5月28日付のリリースである。

www.nikkei.com

奇しくも日経紙がFTのニューズレターの内容紹介として、「オンライン株主総会の問題点」を指摘する記事を出したタイミング*4

加えて、ここで引用されているISSの意見のうち、「有意義な交流の場が失われる可能性」とか「ベスト・プラクティスに関する株主や企業の間のコンセンサスは得られていない」という指摘は一部の識者の間からも出ていた話だっただけに、ここをどう切り返すか、ということが、俄然今年の総会のメイントピックとして注目されることになりそうな気配である。

で、当然のことながら、会社側の説明は自信に満ちたものとなっている。

冒頭から、

産業競争力強化法改正案が、バーチャルオンリーの株主総会を開催することを認めた趣旨は、バーチャルオンリーの株主総会が、感染症対策に有効であるというだけでなく
①遠隔地の株主など現在株主総会に出席することが困難な多くの株主に対して株主総会に出席する道を開くことにより株主総会における経営陣と株主との交流を促進する
株主総会の会場確保を不要とすることにより、株主総会開催コストを低減するとともに、株主が出席しやすい開催期日を選択する自由度を増すことができる
という点で株主総会の活性化・効率化・円滑化に有効であるからです。株主に株主総会の会場への来訪を求める現在の株主総会の制度では、株主に株主総会出席のための時間とコストを負担させることになるだけでなく、非居住者を含む遠隔地の株主や健康上の理由で出席が困難な株主が株主総会の場で自由に質問し、質疑応答を通じて自らの議決権を行使する機会を事実上制限する結果となっています。バーチャルオンリーの株主総会は、現在のハイブリッド型株主総会とは異なり、質問や動議を含めて全てバーチャルで行うことを前提とする制度であり、株主総会への実出席を望む株主にとって極めて有用な制度です。」(1~2頁)

と、改正法案の「立法趣旨」の堂々たる説明から入っているし、これに続いて「ISSの示す懸念が杞憂にすぎないことについて、当社の見解をご説明いたします。」として、約1ページ半にわたって、ISSが指摘する問題点への反論を展開している。

おそらく他の会社の議案にも反対推奨が出ている中で、いち早くこれを出したことに、「株主総会対応支援会社」としての矜持を示す、という思いがあったのだろうし、「なぜ今やるのか?」という問いに対して、

「(3)当社が他の会社に先駆けてバーチャルオンリーの株主総会の定款変更を行うことにより、ベスト・プラクティスの確立に貢献し、株主総会対応のスペシャリストとしての当社の企業価値を高めることとなる。」(3頁)

という議論を展開したところにも、そういった思いは垣間見える。

だから、これはこれで、このままオープンに応酬を続けていただけると皆助かる、というところではあるのだが・・・


個人的には、会社側の説明の中に、「本当にここまでやるの?」というものが散見されるのが気になっていて、特に、

「バーチャルオンリーの株主総会は、株主の質問や経営陣の質問対応が全て記録されていますから、経営陣が不公正な処理をすれば全て明らかになります。」

「バーチャルオンリーの株主総会では、株主提案に関する質問や回答、動議及びその対応はすべて記録される上、不規則発言等に伴う議場の混乱を生じることもないことから、経営陣と株主との交流及び動議対応は、現在の株主総会以上に円滑かつ公明公正に行われます。」

といったくだりを見てしまうと、「総会の目的事項に関連する限り、出てきた全ての質問に役員が答弁しないといけないのか?」とか、「バーチャル出席の株主の動議対応はしなくてよい、という話になってなかったっけ・・・?」*5という突っ込みもどうしてもしたくなってしまう。

実務的な観点からいえば、相応のインフラが整っている限り、現実に会議が行われている「会場」と「インターネット上」の両方をケアしなければいけない「ハイブリッド型」よりも、「バーチャルオンリー」に統一したほうが事務方としては対応しやすい面もあるように思う*6

ただ、仕事上のコミュニケーション手段のメインツールが、電話からメールになったことで労働負荷が増した、と指摘されるのと同じで、「会場での質問」が「ウェブサイト上でのチャットやメールでの質問」になることで、開催する会社側に新たに生じる負荷も必ずあるはず。

そして、世の中のありとあらゆる株主が「話せばわかる」「良好、円滑なコミュニケーションを行える」人々ばかりではない、ということも軽視すべきではない。

そういった背景を踏まえると、反論に力を込め過ぎた結果、「バーチャルオンリー総会の運営に求められることのハードルが上がり過ぎた」なんてことにならないか、というのはやっぱり気になるところ。

できることならこんな懸念も「杞憂」となることを、今は願うばかりである。

*1:「そんなこと言わないで、うちはいつも通り2週間でやってますよ、東証が勝手に決めた努力義務なんて知りませんよ・・・」という会社もあるかもしれないが、それはそれで「個性」として尊重されるべきだと自分は思っているので、それについてどうこう言うつもりはない。機関投資家の便宜を図ることだけに注力すればよい、というものでもないのだから。

*2:産業競争力強化法等の一部を改正する等の法律案、衆議院本会議で可決、参議院へ - 弁護士川井信之の企業法務(ビジネス・ロー)ノート参照。

*3:さらに今週に入ってリスクモンスター㈱も「本議案の付議に支障が見込まれると当社が判断する場合、本議案は撤回するものとします。」という留保付きながら、定款変更議案の提出を表明している。

*4:オンライン株主総会 懸念: 日本経済新聞参照。

*5:これはあくまで「ハイブリッド」開催で「リアル出席」株主がいる場合に限って認められる運用、ということなのかもしれないが、必ずやらないといけないとなると、これはまぁ大変だな、と思う。

*6:現に、この1年の間にも、参加型のハイブリッド総会でウェブでの配信が一時通信回線の不調等で中断しても、事務局等からの特段のフォローなく淡々と進んでしまっていた事例等に接したことはある。

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