止めるのが、遅すぎる。

日に日に増えていく感染判明者数、さらには重症者数、死者数のデータを眺めつつ、もはやあきらめムードになっていた週明け、ようやく吉報は届いた。

「Go To トラベル 全国で一時停止」

もっとも、その記事に接した時、自分は目を疑った。

「政府は14日の新型コロナウイルス対策本部で、観光需要喚起策「Go To トラベル」を全国一斉に一時停止すると決めた。期間は12月28日から2021年1月11日まで。」(日本経済新聞電子版2020年12月14日20時配信)

・・・もう一度繰り返す。停止期間の開始日は「12月28日」

全くもって遅すぎる。

「感染者数が多い東京、大阪、名古屋、札幌の4都市は先行して止める。」(同上)

ということだから、一応今の状況を考えて、のことではあるのだろう。

ただ、大都市圏と札幌の感染者ばかりが目立っていたこれまでの展開とは異なり、今回の「第3波」は、全国津々浦々に広がってきている、ということに大きな特徴がある。

空気が乾燥した、そうでなくても呼吸器系統を痛めやすい季節、しかも、寒さしのぎに締め切った屋内で飛沫も飛びやすい、ということで、夏場に比べると感染力は高まっているように思われるし、武漢に始まり、欧州でも米国でも証明されてきたように、猛烈なスピードで感染拡大していく過程では、ウイルスの凶悪性も一気に増す、というのが、今回の新型コロナ禍の世界的な傾向でもある*1

これまで、この国は、「感染者が増えた増えた」といっても、そこまで突出した数字にまではなっていなかった。

用心深い国民性と同調圧力は、さほど強制力のなかった措置に思いもかけないような効果を発揮させ、(それがもたらした過剰なまでの副作用はあったものの)最悪の事態を免れる、ということには大きく貢献してきた。

だが、一つならず、二つ目の山まで乗り越えた安堵感、そして、前政権以上に全方位に媚を売る現政権のスタンスが、再び感染者数が増加し始めたこの冬、完全に仇となり、あたかも「チキンレース」のような無作為を続けた末に、今の事態を招いている。

それでもなお、「経済が大事」と呟く者は依然として多いのだが、「Go To トラベル」に関して言えば、過去のエントリーでも触れた通り、経済政策としても決して賢い政策とは言えない。

k-houmu-sensi2005.hatenablog.com

ちょっと前、年越しに泊まるホテルでも探そうか、と大手OTAのサイトを覗いた時も、地方の有名温泉旅館の部屋は軒並み売り切れ。都内に目を移しても、高級ホテルが軒並みアパホテル価格で売り出されていて「残り1室、2室」の表示もザラ。

そうでなくても年老いた人々がいる実家への帰省は見送る人が多いのが今年の年末年始で、例年以上に都内ホテルステイを選択する人が多かったから、という事情もあるのだろうが、需給バランスが明らかにおかしくなっていて、本来なら「定価」でも泊まりたかった客が泊まれない、というのは、「市場破壊」に他ならない。

飲食業の世界に目を移しても状況は同じ。

今月に入ってから、「忘年会需要がなくなると困る」「時間短縮営業なんてとんでもない」という飲食店経営者の声が垂れ流しにされることも多かったのだが、この業界が「緊急事態宣言」という非常時に直面してからもう半年以上経っている

絶え間なく経営努力をしている近所の飲食店などは、苦渋の一時休業を強いられた春の教訓を踏まえて、デリバリーを強化した上に、店内のレイアウトを個人・少人数向けに改装し、「宴会客のいない落ち着いた店」になった。

店内は静かになったが、直近の週末でも席は埋まっていたし、馴染みの店主からはそれまでより回転効率も良くなって売上げも回復したと聞き、さすがだな、と唸らされたものである。

そう、「この期に及んで忘年会需要に期待している」こと、そしてそんな飲食店まで守ろうとしている、ということが、根本的に間違っていると自分は思っている*2

どんなに厳しい経営環境でも、危機に備えて資金を確保できている事業者、知恵を使って利益を絞り出している事業者には生き残る途がある。

そして、苦境を生み出した原因が消え、需要が戻ってきたときに、正しい戦略で生き残った事業者が一転してその恩恵を享受する。

「経済を大事にする」というのは、そういうことではないのだろうか?

もちろん、敗れた事業者が出れば出るほど、失業者の数も一時的に増えていくから、一定のセーフティネットを張ることは不可欠なわけだが、それはあくまで社会政策の話。

これまでに行われてきたことは、「経済対策」と銘打って、努力した事業者もそうでない事業者も一緒こたに温存する、というメリハリのない国費の投入で、狭い店内を宴会でぎゅうぎゅう詰めにして、「飲み放題」と手をかけていない添え物のつまみで粗利を稼いできたような店が残ってしまっていたことが、今となっては余計に話をややこしくしている*3


ということで、いろいろ書いては見たものの、今となってはもう遅い、のかもしれない。

ここから先、我々が経験する世界は、たぶん後にも先にも、もう見ることのないような世界かもしれず、「史上最悪のクリスマス」を経て「一時停止」が始まる28日を迎えた時には、地域によってはもはや日常的な経済活動まで止まってしまっている、という事態となっていたとしても、自分は全く驚かない。

できることなら、この予想が良い方向に外れてくれることを、そして、いずれも過去の自分とかかわりがあり、今でも健全な成長を願っている業界だからこそ、

「観光業と飲食業が日本経済を潰した」

と言われる日が来ないことを、今はただひたすら願うのみである*4

*1:これが、単純に感染者が増えたことによる「確率」の問題なのか、それともウイルスに「数に比例して活動がより攻撃的になる」といったようなパターンが仕込まれているからなのか、その辺は専門家に研究していただかないと分からないところだが、感染者増加による医療機関の機能不全現象と合わさって、一定の閾値を超えてしまうと、加速度的に悲劇の度合いも増す傾向があるように見えるのは間違いないところである。

*2:そもそも「忘年会団体需要」を警戒するからこそ「時短営業」の要請などというものも出てきてしまうわけで、そういう事業者の存在ゆえ、個人、少人数ユーザー向けに高回転で効率よく営業してきた店の営業機会が奪われるのだとしたら本末転倒に他ならない。政策的には「時短要請」より先に「人数制限」を持ってくるべきではなかったのか、と思えてならない。

*3:この手の「引っ張り過ぎて成長機会を逃した」というのは、バブル期以降、失敗した数々の産業政策とも共通するところが多い気がしている。

*4:たとえ集団で集まることができない状況下でも、世の中が一定のレベルで動いていれば、売上を立て、利益を生み出せる会社がある、ということは、この半年で十分分かってきたわけで、だからこそ目先の旅行業者や飲食店の利益ばかりに目を向けて、より大きな社会封鎖を招くようなことは断じて許されない、と思う次第である。

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