鮮明になりつつある勝敗とその先にあるもの。

新型コロナ関連のニュースがこの国に吹き荒れ始めてからしばらくは、「経済活動壊滅」とか「大不況」といったトーンの記事がメディアを飾ることも多かった。

確かに、中国国内の生産拠点や国際輸送の物流網が乱れた昨年の1-3月期や、初めての「緊急事態宣言」で誰もが混乱に陥った4月頃は、まぁそういう見立てになっても不思議ではない状況ではあったのだが、全産業を視野に入れれば、最初のショックが収まって以降は、そこまで悪い状況にはなっていない、というのが率直な見立てではないかと思う。

自分がそれに気づいたのは、各社の4-6月期決算の数字が出始めた昨年の夏頃で、ロクロク数字も見ずに悲観的な声ばかりが大きくなっていることに辟易して書いたエントリーが以下のもの。

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その後も、時計の針が3月、4月の頃の状態で止まったままのような報道は多かったのだが、昨年後半の異常な株価高騰で日経紙がトーンを変え始めたのが、昨年の晩秋くらいだろうか。

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そして、各社の10-12月期決算の数字が出始めた今週、日経紙のトーンがさらに変わったような気がする。

日本企業の業績格差が一段と広がっている。2度目の緊急事態宣言を受けて、鉄道や外食では最終損益(略)がさらに落ち込む企業が出始めた。電子部品や海運では2020年10~12月期に想定以上に回復し、通期見通しの上方修正が目立つ。回復基調が続き、来期の急回復を織り込む株価と業績との間には乖離(かいり)があり、指標面での割高感につながっている。」(日本経済新聞2021年1月30日付朝刊・第1面、強調筆者、以下同じ。)

バッドニュースを前面に出した方が読者の目を引き付けるからなのか、あるいは何かに忖度しているのか、なぜか「最終損益がさらに落ち込む」企業の話からスタートしているのだが、記事の中では、

日本経済新聞社が29日までに決算発表をした3月期決算企業430社(新興や親子上場の子会社、変則決算を除く)を対象に集計した。10~12月に増益だったのは254社で、減益・赤字は176社だった。通期予想は152社が見直し、上方修正は131社と下方修正の21社を大きく上回った。上方修正のうち6割超を製造業が占める。」(同上)

と、明らかに潮目が変わってきたことが伝えられている。

こういうことを書くと、”つかの間”の平和な時期だった10-12月期だけ見てあれこれ言うな、という突っ込みもありそうだが、この四半期の決算発表前半戦では最大のヤマ場だった29日の開示資料を調べれば、80社以上の3月期決算会社が4~12月期ベースでも増収増益、という結果になっており、9月期決算会社等も含めると、約4分の1近い会社が「プラス」基調の数字で推移している、という状況になっていることが分かる。

それ以外の会社も、前年度の4Qや、1Qほどの大きな落ち込みはもはや見せておらず、前年比トントンくらいのところまで巻き返してきている会社は多い。

そして、多くの会社がこの緊急事態宣言下でもリモート勤務体制で十分仕事が回せるようになってきていることや、週末街に出れば、日中から夕方にかけての時間帯は、どこのお店もそれなりに人でにぎわっている、という状況を考えれば、この4Qも昨年ほど数字が落ち込むことはもはやないだろう・・・ということで、最終的には3月期決算会社のうち、3~4割の会社が増収増益、残る4~5割くらいも、可もなく不可もなく、といったところで落ち着くことになるのではなかろうか。

そう、負け組はほんの一握り、というのが、今この国に突き付けられている残酷な状況なのだ。

これまでこのブログでも何度か書いてきたとおり、飲食業に関しては依然としてどうしようもない*1状況があるし、旅客輸送や旅行業、ホテル・旅館業へのダメージも依然として続いている。それ以外だと、オフィス街に大量出店している小売チェーンや百貨店、土産物を製造している一部の菓子メーカー、業務用の食品・飲料メーカー、さらには催事の興行収入が収益源となっているサービス事業者も、まだまだ回復に向かうには遠い道のりがある。

ただ、挙げるとしてもそれくらい。

さらに言うと、これらの苦戦を強いられている業種の中でも10-12月期に持ち直したところと、より傷口を広げたところが二分化している、そんな状況すらあったりする*2

これまで世に飛び交っている言説の多くは、閉店した飲食店や、閑散としたターミナル駅の姿など、目に見えるもの、分かりやすいものだけにフォーカスして「経済へのダメージ」を強調する傾向があったような気がする。

でも、少なくとも、今出てきている数字を見る限り、ありとあらゆる業界とそこで働く人々に公的資金を投入してまで支援するような必要性は全くないし、「苦しい」とされている業種ですら、そういった一律の救済策はもはや馴染まない。

個人でも会社でも、この1年近い歳月の間に学んだことを、きちんと事業に反映している事業者は強い。

昨年の春に一時休業まで余儀なくされた飲食店でも、その後(早いところでは4月、5月の休業期間中に)、内装とメニューを個人向けに刷新し、テイクアウトやデリバリーを地道に強化してきたことで、今回の緊急事態宣言下でも昼は満席、テイクアウト待ちの行列はやまず・・・で、これなら大丈夫だろう、と思えるお店はそれなりにある*3

努力した者は生き残り、そうでない者は淘汰される。その結果、嵐が去った後、生き残った者が生存者利益を満喫できる。

もちろん、そこで雇われていた人や、事業を営んでいる「人」としての経営者個人を、その理屈だけで切り捨てるわけにはいかないし、そこには社会保障の枠組みの中でしっかりとセーフティネットを張るべきだと思っているのだが、こと「事業」に関して言えば、先ほどの理を徹底して不断なき新陳代謝を促すのが、資本主義の世の中の正しい在り方だと自分は思っている。そして、今起きつつあることはまさにそれ。

自分は、元々参入障壁がそこまで高くない業界に対して、安易に補助金だの支援金だのを投入するのは大反対だったりもするのだが、冒頭から述べているとおり、「目に見えないところで経済は着実に動いている」ということが明らかになってきている今、国庫の補助を正当化する理由として、「経済を回す」という理屈はもはや使えないし、使うべきでもない。

そして、限られた財源の使い道としては、補助を出すにしても事業転換支援のために出す形にするとか、あるいは本当に窮している「個人」への保障に財源を充てる、といったやり方にした方がどれだけマシで効果的か・・・。

声の大きい方へ引っ張られ、振り回されているようにしか見えない今の政権の下でそんな冷静な政策転換ができるとは到底思えないし、仮に今、政権がドラスティックに変わったとしても、おそらく今の政権の次に来るであろう人々が”悪役”にされかねないような損な役回りを演じられるかどうかも結構微妙だったりはするが、それでも改むるに如くはなし。

歪んだ資金注入が、経済の基盤から事業者のモラルまでぶち壊してしまう前に、物事を動かせる立場にある人がきちんと判断してくれることを、今は願ってやまないのである。

*1:最近の感染者数報告の傾向を見ていると、たかだか「20時まで」の営業時間制限でも、拡大抑止には絶大な効果があることが分かってしまった以上、この規制が緩むことは当分ないのではないかな、と思ったりもする。

*2:特に旅客輸送各社に関しては、空でも陸でも、この半年の経営の巧拙が、かなり数字に出始めているな、というのが率直な印象で、この点についてはまた機会を改めて、と思っている。

*3:こちらも年明け以降慌ただしい日々が続いていたせいで、なかなかこれまでのようには様子伺いにも行けていないのだが、そのうちの一軒のオーナーは、行列ができている店の前を通りがかった時に偶然目が合って、満面の笑みを返してくれた。

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