社名に「グループ」が付いた。それだけで、今日のクリムゾンレッドのネタとしては十分なはずだった。
それがまさかまさかの展開で、こんな話が正夢になろうとは。
「プロ野球楽天は28日、米大リーグ、ヤンキースからフリーエージェント(FA)となっていた田中将大投手(32)と2年契約で入団に基本合意したと発表した。推定年俸は9億円プラス出来高払いで、契約を更改した巨人の菅野智之投手の8億円を超えて日本球界最高となる。8年ぶりの楽天復帰となり、背番号は「18」に決まった。」(日本経済新聞電子版2021年1月28日18時17分)
「8年ぶり」と簡単に言うが、記憶を紐解けばギネス記録の開幕24連勝と、日本シリーズ終盤での魂の連投。"神がかっている"とまで称されたエースの力投が名実ともに神話となったのがあの2013年シーズンだったわけで、それが、今や創設から16シーズンを経過した楽天球団にとって唯一の優勝を飾ったシーズンでもある。
そこから流れていたのが「8年」という歳月。
これまで、鳴り物入りでメジャーリーグに挑んだものの、様々な違いに適応できず、早々に引き上げてきた選手は星の数ほどいるし、現地で確固たる地位を築きながらも最後はケガや年齢の壁にぶち当たり、選手生活の最終盤を日本で迎えるために戻ってきた選手もいた。
だが、田中投手の場合、NYヤンキース入団1年目から2ケタ勝利。「7年」という大型契約に守られたシーズンのうち6年は、ほぼコンスタントに先発ローテーションを守って2ケタの勝ち星を重ね、ワールドシリーズにこそ縁がなかったものの、ポストシーズンでも4シーズン出場して5勝を挙げる、という安定感。
昨シーズンは新型コロナの影響があった上に、オフに入ってからもリーグ自体がまだ混乱の渦中にある、ということで、ヤンキースからの再契約はかなり厳しい状況にあったのは確かだが、まだ32歳、という年齢を考えれば、他のメジャー球団で先発ローテーションに食い込んで活躍できる可能性は十分すぎるほどあった。
それなのに、何でこのタイミングで戻ってくるんだ・・・というのが、自分の偽らざる思いだったりする。
自分は最後の最後までメジャーリーグのマウンドだけを追い続けた野茂英雄選手、というパイオニアに心の底から畏敬の念を抱いていたから、松坂大輔選手がケガでボロボロになって戻ってきた時も、上原浩治選手がなんか”らしくない”選択だなぁ・・・という感じでまさかの古巣に戻ってきた時も複雑な思いで見ていたのだが、今回の話を聞いた時に感じた複雑な気分はこれらの比では到底ない。
東日本大震災から間もなくちょうど10年。今は日本中が別の災厄と戦っているとはいえ、彼の地にとっては依然として深く刻まれた歴史の節目の年である。
さらに言えば、あの2011年、今は亡き星野仙一監督の下、19勝を挙げて投手タイトルを総なめし、初の沢村賞を獲得した入団5年目の若きエースは、間違いなく復興のアイコンの一人だった。
だから日本に帰ってきて開幕戦で「国内100勝」の節目の勝利を挙げ、さらに快投を続けてチームに勢いを付け、8年ぶりの優勝に向けてチームも杜の都の人々も盛り上げる・・・
そんな出来すぎたストーリーにでもなれば、メディアは大喜びすることだろう。
それでも、本当にこれでいいのか? という思いは消えない。
自分がメジャーから帰ってきた選手の中で、唯一いろんな意味で「ベスト」だったな、と思っているのは、田中選手とニューヨークで1年だけ重なった黒田博樹選手で、彼の場合は、古巣に復帰した結果、最後のシーズンを25年ぶりのリーグ優勝で飾る、という実に美しい花道を自力で作り上げることができた。
その意味で、単にユニフォームが同じだった、というだけでなく、メジャーで主力選手として活躍し続け、惜しまれながら戻ってきた、という点でも今回の田中選手の復帰は、6年前の黒田選手のそれと重なって見えるところが多い。
ただ、田中選手の場合、「花道」というにはまだ若すぎるし、一方でここから何シーズンか日本で過ごした場合、「再挑戦」するには年齢が微妙、ということにもなりかねないわけで、もっともっと長く頂点で活躍してくれることを願っていた者としては、何とも言えない気分になる。
今の世の中の空気を読まずに本音を言えば、「日本国内での田中選手の雄姿」は今年限りであってほしい。
そして、新型コロナの脅威も去った来シーズンは、何事もなかったかのように再び、メジャーリーグのマウンドに立つ田中選手の姿を見たい。
それこそが、一ファンとしての自分の率直な思いだ、ということを、ここに残しておければ、と思っている。