「納得」の先にある不安。

年初の恒例となった前年度のJRA賞競走馬部門の受賞馬が今年も決まった。

www.jra.go.jp

圧倒的なインパクトを残した年度代表馬に3歳の三冠馬2頭、と波乱らしい波乱はほとんどなかった2020年度*1ほどではないが、今年も大半の部門では予想通りの結果になった、と言えるのではないかと思う。

年度代表馬は記者投票296票中、277票を集めた3歳牡馬・エフフォーリアが順当に受賞。

3歳牡馬三冠は最初の一つしか取れていないのだが、古馬に混じって秋の天皇賞を制し、さらに最後の有馬記念でライバルたちを完膚なきまでに打ちのめしたパフォーマンスは圧倒的なもので、これは最後のレースが終わった後に確信したとおり*2だったな、と思う。当然ながらエフフォーリアは最優秀3歳牡馬部門も満票で受賞、という結果だった。

同じく順当だな、と思ったのは2歳部門で、最優秀2歳牡馬朝日杯FS組のドウデュースが受賞したのは、ホープフルS組優勢だったここ2年の傾向からすれば”先祖返り”した感はあるが、今年に関しては勝ち負けを繰り返してタイトルにたどり着いたキラーアビリティより、”無敗”で制したこの馬の方はインパクトも話題性も大きかったように思う。

また最優秀2歳牝馬に関しては阪神JF優勝のサークルオブライフということでこれまた問題なし。

最優秀4歳牡馬がジャパンカップで有終の美を飾ったコントレイル(牡4)になった、というのも勝ったレースの格を考えればケチを付ける余地はないし、最優秀短距離馬部門でGⅠ2勝のグランアレグリア(牝5)が圧倒することも想定の範囲内

さらに、三冠全てで勝者が分かれていた最優秀3歳牝馬部門も、年間を通じての話題性とGⅡ・札幌記念古馬相手に勝った、という実績を踏まえればソダシが234票集めたのも順当な結果、と言ってよいだろう。

そうなると残された枠はあと3つ。

今年度の全ての部門の中でもっとも拮抗した争い、オジュウチョウサンとメイショウダッサイで票が二分された最優秀障害馬部門などは、正直どっちに取らせても良かったなぁ・・・ということでそこまで気にならなかったのだが、古馬牝馬が絡んだ2部門については、若干モヤモヤは残った。

まず最優秀4歳以上牝馬

海外GⅠでの実績を考慮してラヴズオンリーユー(牝5)が優勢かな、とは薄々思ってはいたものの、この馬が251票も集めて、続くグランアレグリア、クロノジェネシスに大差をつけたというのは、ちょっとした違和感もあった。

ドバイではクロノジェネシスに負けているし、札幌記念ではソダシにすら負けた。どちらも相手は同じ牝馬
国内のGⅠタイトルも今年は一つも手に入れることができなかったし、「出ていれば勝てた」というほど盤石なポジションにいた馬でもなかったことが、なおさら、である。

まぁそうはいっても、あのBCカップで日本調教馬初のタイトルを取ったのだから・・・と言って自分を納得させようとすると、次に気になるのは最優秀ダート馬部門の結果。

国内経験しかないテーオーケインズ(牡4)が240票も獲得した一方で、本場米国のダートGⅠを制覇したマルシュロレーヌにはたったの47票しか入っていない。

1月のキャロットの会報は、マルシュロレーヌの偉業を称える記事一色でいつも以上に分厚い冊子になっていたことからも分かる通り*3、彼女がデルマ―でやってのけたこと、というのが、それだけの快挙であり、それだけの奇跡だったはずなのだが、それが帝王賞チャンピオンズカップだけの馬にこんなに水をあけられてしまうと、何ともやりきれない気分になる。

それでもあえて納得できるような理由を探すとしたら・・・


21年度の受賞馬のうち、2歳馬、3歳馬以外の部門で受賞した平地の馬は、21年末をもってターフを去る。

コントレイル、グランアレグリア、ラヴズオンリーユー。

ついでに言えば、GⅠを4勝、うち3勝はグランプリ、という偉業を達成し、凱旋門賞にまで出走しながら一度もJRA賞の部門賞を受賞できなかったクロノジェネシスも21年限り。

それに加えて6歳3月、あと数か月で引退することが決まっているマルシュロレーヌが最優秀ダートホースに輝いていたとしたら、それこそ「そして誰もいなくなった」の世界になってしまう。

そうでなくてもこの2年の間に、一時代を築いた多くの馬がターフを去り、ぽっかりと穴が開いたようになっているのが今の古馬陣。

だから、せめてこの部門だけはまだ先がある4歳馬に22年以降の夢を託したのだ・・・、というのは考えすぎだろうか?


競走馬のライフサイクルが短いのは決して今に始まったことではない。
そして、一頭のスターホースが去った後にはまた新しい新星が登場する、というのもこれまでの歴史が証明していることでもある。

ただ、路線別の棲み分け戦略が進み、海外のレースまでローテーションに組み込まれる時代の中で、際立った馬が交わることなく点在し、重なり合う瞬間は一瞬しかない、という今の競走馬たちのカレンダーの中で、これだけ多くのタレントが抜けてしまった穴がすぐに埋まるのかどうか。

Number別冊のエッセイ集で自分の記憶を辿り、多くは一度読んだことのある記事なのに、改めていろんな思いが込み上げてきたのは年末のことだった(特に泣けるのはライスシャワーのくだりだったりする)。

あの頃に比べれば、時代ははるか先に進んでおり、競馬はビジネスとしても遥かに洗練された領域に入っているように見えるのだけれど、洗練されすぎたからこそ感じられなくなってしまったものはないか・・・

2022年がそれを実感するような年にならないことを今は願うばかりである。

google-site-verification: google1520a0cd8d7ac6e8.html