本来なら、パリ・ロンシャンからもたらされる朗報で日本中が湧きたつはずだった、10月最初の日曜日。
大挙して4頭が遠征。それも決して数合わせではなく、今年のダービーを制したばかりの旬の3歳馬に、昨年の菊花賞馬&目下の国内古馬最強馬、さらに海外で実績のある曲者・ステイフーリッシュに、人気が落ちれば走るディープボンド。
「日本代表」を掲げて参戦するには、これ以上ないメンバーだったといえるだろう。
それが負けた。それも完膚なきまでに。
語られる敗因はいつもと変わらない。
常に「適性」が取りざたされる欧州の重い馬場、それがレース直前の雨でさらに悪化して、どの馬もいつもの走りができなかった・・・etc
だが、本当にそうなのか。
スタート直後から強引にハナを奪いに行ったタイトルホルダー。「援軍」になるはずのブルームに必要以上に絡まれた不運はあったが、明らかにオーバーペースに見える展開に、鞍上・横山和生騎手の繊細さが見て取れた。
ドウデュースが見せ場なく馬群に沈んだのは、後方から追い上げる脚質と馬場との相性を考えればやむを得ないとしても、ステイフーリッシュ、ディープボンドの道中のポジション取りには大いに疑問が残った。
結果、最高着順はタイトルホルダーの11着。「地の利」がないのは仕方ないとして、ならそれを覆すために何をするか、が見えないのは厳しい。
エルコンドルパサーが見せてくれた夢から23年。オルフェーヴルで”あと一歩”まで迫ってからも、もう10年経っている。その歳月の重みを感じられるレースが今年こそは見られると思ったのだが・・・。
この日、国内の秋のGⅠ・第1弾、スプリンターズSで、名だたる人気馬を蹴散らして戴冠となったのは、牡7歳馬のジャンダルム。
米国産だが、母の名を見ると、アルファベットで「Believe」。そう、海を渡って繁殖牝馬となった懐かしの「ビリーヴ」である。
2002年、小倉の準OP連勝から始まった快進撃は、秋の初重賞制覇、さらに新潟で行われたスプリンターズSを1番人気で制する、という快挙につながった。
今でこそ強い牝馬が毎年のように登場してきて、年度代表馬までかっさらっていく時代になっているが、当時はまだまだ牡馬の壁が厚かった時代。
そんな中、堂々と挑んでフラワーパーク以来6年ぶりに牝馬として優勝、さらに21世紀最初の牡馬混合GⅠを制した牝馬となったのがこのビリーヴという馬だった。
サンデーサイレンス産駒ゆえの宿命、”血の飽和”を懸念してか、海を渡って繁殖牝馬となり、はや19年。
初仔のファリダットが重賞戦線を賑わしていたのももう10年以上前のことになるのだが、自分も含めて、諸々記憶が薄れかけていたところで、念願の「親子制覇」。
前田幸治オーナーはじめ、様々な関係者の思いが込められたこの快挙に、自分はこの世界のブラッドストーリーの神髄を見る。そして、こうした血の積み重ねと執念が、いつか壁を打ち破ると信じて、それを救いにまた一年。奇跡ではない快挙、を待つことにしたい。