瞬く間の頂点。

宝塚記念」といえば、有馬と並ぶ夏のグランプリレース、とされながらも、春から秋にかけての微妙な時期に設定されていることもあり、ファン投票上位の人気馬が回避し、どことなく寂しいメンバーで構成されることが多いレースだった。

2020年、2021年と連覇したクロノジェネシスが、その間の有馬記念も含めてグランプリレース3連勝、という偉業を成し遂げていたにもかかわらず、JRA賞の受賞は特別賞1度だけ、というのも、このレースの価値がそこまで高く評価されていなかったことの裏返しだったといえる。

だが、今年は、そんな「夏の裏GⅠ」を取り巻く状況もかなり変わった

タイトルホルダー、ポタジェ、と、春の2大古馬GⅠの覇者がいずれも出走登録。

さらに大阪杯でこそ大敗を喫したものの、昨年の年度代表馬、エフフォーリアも挽回を期して出走を表明し、昨年の有馬から堅実な走りを続けるディープボンドや一昨年の三冠牝馬・デアリングタクトといったファン投票上位馬もこぞって参戦。

中東で名を上げたオーソリティ、ステイフーリッシュ、パンサラッサといった馬たちもそれに加わり、出走馬はフルゲートの18頭。いつになく面白いメンバーが揃う戦いとなった。

当日1番人気に推されたのがファン投票1位に輝いたタイトルホルダーではなくエフフォーリアだったのは意外でも何でもなく、ここ数年、このレースで力を発揮しているのがもっぱら大阪杯組のほう、ということや、2018年生まれの同期であるこの2頭の力関係が、昨年一年間の戦いの中で明確に定まっていたように見えた*1ことを考えると、今回もこの距離ならエフフォーリアの方が強いだろう、というのが当然のファン心理だったといえるだろう。

逃げて勝つここ2戦の競馬、特に春の天皇賞での圧勝劇は、タイトルホルダーと鞍上の横山(兄)を春の主役に押し上げるに十分なものだったが、一方で、昨年、横山(弟)がこの馬で何度も勝ちながらもこの馬を選ばず、選んだエフフォーリアの方で勝ち星を重ねた、という記憶は未だに残っているだけに、「中距離」に戻り、しかも同型の強力な逃げ馬がいるこのレースにまで、”春の旋風”が持ち込まれることはさすがに想像できなかった。

にもかかわらず・・・


スタートしてハナを切ったのは予想通りパンサラッサ。

スタートで少し後手に回り、タイトルホルダーと競り合いながら先頭を奪ったという流れもあって、最初の1000mは57秒台、というひっくり返りそうな高速時計。

そうなると、前に行ったタイトルホルダーにとっても厳しい流れとなり、最後は後方で脚を溜めたエフフォーリアの餌食になる、そんなシーンを道中ずっと思い浮かべていた。

ところが、向こう正面から4コーナーを回っても、タイトルホルダーの脚は一向に衰えを見せず、下がっていく逃げ、先行馬をしり目に直線でも勢い持続。

そして、先行集団の後ろの方に付けていたヒシイグアスやデアリングタクトが猛烈な脚で突っ込んできた時には、その一歩先でレコードタイムまで更新してタイトルホルダーがゴールしていたのである。

これで今年に入ってから堂々の3連勝。さらに1年前、いや半年前の時点ですら大きく水をあけられていたエフフォーリアを、実績でも賞金でも逆転して手に入れた勝利、となれば陣営の喜びも格別だろう。

もちろん、そんな同期の間での勝ち負けなど、世界の競馬の世界の中では些末な話に過ぎなかったりもする。

加えて、連勝記録もいつかは止まるわけで、この先一頓挫でもしようものなら、たちまち勢いを取り戻したエフフォーリア以下の馬たちの逆襲を食らうことも覚悟しなければならない。

だが、それでも、「強くて速い」の一言ですべてをまとめられたこの一戦でのタイトルホルダーの輝きは、決して将来まで色あせるものではない、と今は信じている。そして、ここをステップとして、秋にロンシャンに乗り込む日本馬たちの大将格としてこの馬が大舞台に挑む日が来るのであれば、そんなに素晴らしいことはないだろう、と思えるだけに、このまま順調に夏を越してくれよ~ と、ただひたすら願うここからの数か月。

それが無事すぎた時、今年の秋は、いつもよりちょっと良い光景が見られるかな、と思っているところである。

*1:皐月賞でワン、ツー決着となったのを皮切りに、ダービー、有馬記念と戦い続けたが、いずれもエフフォーリアが完膚なきまでに相手を叩きのめしている。

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