「日本勢圧勝」で気付く”いないもの”の存在感

4年ぶりに日本国内で行われたフィギュアスケートの世界選手権。

一時に比べればかなり熱は冷めてしまっているとはいえ、開幕早々から日本勢の華々しいニュースを目にすれば結果が気にならないはずがない。

ペアの 三浦璃来・木原龍一組を皮切りに、女子、男子とショートプログラムで次々に報じられる好成績。

そして、フリーに入っても、三浦・木原組が遂に115年の歴史上初の日本勢優勝を、これまた日本勢史上初のシーズングランドスラムで飾ったかと思えば、女子シングルでは坂本花織選手が日本勢史上初の連覇。その興奮も冷めやらぬまま迎えた競技最終日には、宇野昌磨選手が日本勢男子初の連覇、という、いくら地元とはいえちょっと出来すぎな結果となった。

浮かれすぎないように・・・ということで言うならば、今回の日本勢の好成績の背景には、「冬季五輪の翌シーズン」であるにもかかわらず五輪に出場したエース級の選手たちがこぞって第一線での競技活動を継続した、という”特殊事情”があることは否定できない。

男子に関しては、羽生結弦選手こそ競技者としての一線を退いたものの、五輪2大会連続メダリスト&前年世界覇者の宇野選手が満身創痍の中でも現役を続行。

前々回五輪直後の世界選手権から北京五輪まで、無敵を誇ったネイサン・チェン選手が休養に入り、まだまだ伸び盛りだった鍵山優真選手もケガで小休止となれば、実績的には圧倒的に上位、という状況だった。

またペアと女子シングルに関していえば、「ロシア勢の不在」が圧倒的な追い風になったことも否定はできない。

ペアに関しては、北京五輪で2位~4位を占めていたロシア勢が姿を消し、金メダルと5位入賞だった中国ペアもいなくなったから、三浦・木原組より上位で残ったのは五輪6位の米国・アレクサ・クニエリム、ブランドン・フレイジャー組だけで、昨年の世界選手権で自分たちの前に立ちはだかったこのペアとの序列をひっくり返せば、頂点が見える状況だったと言えるし、現にそうなった。

また女子シングルは、今回の世界選手権のフリーの演技を久々にじっくり見たのだが、とにかくロシア勢がいない、というのが新鮮で新鮮で・・・

浅田真央選手が制した2014年・ソチ五輪直後のさいたまスーパーアリーナでの世界選手権以来、五輪前年までの6大会でロシア勢の優勝は5回*1、しかもうち3回は表彰台に2名ロシア選手が立ち、五輪前年の2021年に至っては表彰台をシェルバコワ選手以下、ロシア選手が独占する、という状況だった。

五輪を制した選手が翌シーズンから休養に入ってもすぐに下の世代が次々と台頭し、よりグレードアップした演技で優勝争いに絡む、というのが、この10年くらい女子フィギュア界を席巻してきたロシア勢の凄みだったから、ドーピング問題もウクライナ戦争もなければ、今年の世界選手権の主役も間違いなくロシア勢だっただろう。

だが現実にifはなく、今年の世界選手権は派手な高難度ジャンプ合戦とは無縁の、表現力重視のプログラムで競い合う展開となった末に、スケールの大きい演技で魅せた坂本選手に凱歌が上がったのである。

もちろん、フィギュアスケートは、単に「実績」だけでスコアを稼げるスポーツではないし、ロシア勢以外にも世界中で常に新しい世代の選手たちが登場する新陳代謝の激しい競技でもあるから、今回頂点に立った日本選手たちが、それにふさわしい努力を積み重ねてきたことは疑いないことだと思う。

ただ、いたらいたで憎らしいが、いないと物足りなさを感じるのが、ロシア勢の華たるゆえん。

今回、坂本選手が優勝を決めたフリーの演技を滑り切った時、何とも言い難い安堵感を抱いたのは自分だけではなかったと思うが、鉄壁のロシア勢の一角を突き崩した北京五輪での奇跡のスケーティングと比べるとインパクトに欠けるところは確かにあって、強い好敵手がいてこそだな・・・という思いも完全に拭うことはできなかった。

1年後、順当に進めば三浦・木原組が連覇を、宇野選手と坂本選手が「3連覇」を賭けて挑む大会にロシア勢は戻ってくるのかどうか。

仮に戻ってこなかったとしても、ペアでは伝統国の巻き返しが当然予想されるところだし、男子には若干18歳の4回転アクセルジャンパー、イリア・マリニン選手がいる。そして女子は躍進著しい韓国勢が、キム・ヨナ時代からさらに数段グレードアップして日本勢を猛追してくることだろう。

そんな状況の中で、「北京五輪組」が築いた城を守り切れるのか・・・。

幸いにも、今の日本には、ジュニア世界選手権を男女制覇できるだけの層の厚さもあるだけに、たとえ今の第一人者たちが躓いたとしても、それを乗り越えてさらに・・・という展開はまだまだ十分に期待できるのだが、一歩歯車が狂いだすと取り戻すのがなかなか難しいのもこの世界だったりするわけで*2、今はちょっとした弾みで悪い方向に向かわないことをただ願うばかりである。

*1:唯一の例外は、平昌五輪後、メドベージェワ選手が欠場し、ザギトワ選手もまさかの失敗でメダルを逃した2018年(カナダのオズモンド選手が優勝)だけである。

*2:コンスタントに世界選手権で表彰台に立ってきた男子(今年で9大会連続、誰かしらは表彰台に立っている)はともかく、女子は浅田真央選手、鈴木明子選手が現役第一線を退いた後、苦戦するシーズンも多かった。

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