残酷な世代交代絵図

普通に考えれば「無風」となるはずだった男子で、羽生結弦選手がまさかの欠場となり、俄然、“戦国”感が増した今年の全日本フィギュア。
初日のショートプログラムで、ベテランの無良崇人選手が宇野昌磨選手を抑えて首位に躍り出た時は、すわ大波乱か、と思ったものだったが、終わってみれば、フリーで宇野選手が調子が悪いなりに後半できっちり挽回する、というさすがの演技で、2位に30ポイント以上の差を付ける順当な勝利を収めた。

GPファイナルのネイサン・チェン選手の演技を見た時にも感じたことだが、今の男子フィギュアのフリーで表彰台に乗るためには、

・4回転ジャンプを2種類以上決めることは必須。
・4回転ジャンプのうち1つはコンビネーションジャンプにすることも必須。
・4回転コンビネーションを失敗したら、後半の時間帯で難易度の高い3回転コンビネーションを決めておかないと挽回不可能

という状況で、日本選手でそれができるのは、羽生選手と宇野選手だけ。
今年の全日本は、それを改めて思い知らせてくれる場、ということになってしまったと言える。

ショートプログラムで一世一代の演技を見せ、フリーでも立ち上がりはきっちり4回転を2度決めていた(4回転トゥループ、4回転-2回転トゥループ)無良選手が、演技後半の大崩れによって田中刑事選手の後塵を拝することになってしまった*1のは、非常に残念ではあるのだが、2018年の五輪まで見据えると、こういう結果になったこともやむを得ないというほかない*2

一方、女子の方は、ソチ五輪後に足場を固めつつあった若いシニア世代が、伸び盛りのジュニア世代をどう迎え撃つか、という点に注目していたのだが、こちらの方は、世代交代のスピードが想像以上。

「順当」という結果を残したのは、“狙って3連覇”の宮原知子選手のみで、樋口新葉選手は、昨年同様2位に入ったものの、ショートプログラム3位、フリーではパーフェクトな演技を見せた三原舞依選手、技術点で最高スコアを叩き出した白岩優奈選手の後塵を拝する4位、という厳しい結果に。
そして、一時期はポスト・ソチ世代の筆頭格とも思われていた本郷理華選手が、フリーのスコアの伸び悩みゆえ5位に転落し、五輪の前年に世界フィギュア四大陸選手権の代表を逃す・・・という波乱も生まれた。

2位の樋口選手から5位の本郷選手までのスコア差は5点少々、そして、演技内容で存在感を示したのは、これまでの代表選手たちではなく、ジュニア/シニアの境界にいる三原、白岩、そして本田真凜といった選手たちだった、ということに、男子とは異なる、今の日本女子の実力拮抗ぶりを見て取ることができる。

女子に関しても、

ショートプログラムでは後半に3回転-3回転のコンビネーションを入れないと上位に食い込めない。
・フリーの最初のコンビネーションは3回転ルッツ+3回転(基礎点10点強)が必須。
・さらに後半に高難易度の3回転ジャンプの組み合わせか、完璧な3連続ジャンプを入れないと上位に食い込めない。

というのが今の世界の潮流だけに、今回、宮原選手*3のほかにも、複数の選手がそのプログラム構成で勝負できる選手が出てきた、というのは嬉しいニュースだと言えるのだが、一方で、浅田真央選手を筆頭に、高い演技構成点を期待できるシニア世代の選手たちが技術面で厳しい状況に追い込まれていることは、世界での“究極のレベルでの勝負”を想定したときには、日本代表にとってはなかなか厳しい要素となるように思えなくもない*4

「最後の1枠」争いくらいしか見どころがない男子とは異なり、女子に関しては、来年の五輪選考で、今回選出されたシニアの世界選手権代表3名(宮原、樋口、三原)とジュニアの世界選手権代表3名(坂本、白岩、本田)が入り混じり、さらに実績のあるシニア勢がこれに加わって、想像を絶するような激しい戦いになることが予想される。

願わくば次のシーズン、浅田真央選手が「全日本一本」に絞って、混戦に割って入ってきてくれるようなことになれば、往年のファンとしては思い残すことは何もないのだけれど・・・。

*1:しかも、その結果、世界フィギュア、四大陸ともに代表入りを逃した・・・。

*2:田中選手には質の高い4回転サルコウという武器があるし、今後の伸びしろも期待できるので・・・。とはいえ、現時点では羽生、宇野両選手とのプログラムの質の差はまだまだ大きいな、と感じさせられたのもまた事実である。

*3:宮原選手自身は、フリーではコンビネーションジャンプでことごとく回転不足で減点を食らっており、決して盤石ではなかったが・・・。

*4:解説者が力説していたように、浅田選手のステップにはレベル4で2点以上の加点が付くし、演技構成点も60点台後半が期待できる。ただ、スピンやステップの評価がどれだけ高くても、高難度の3回転のコンビネーションジャンプがきれいに入らなければ表彰台はおろか、入賞すらままならない、というのが、今の世界の現実でもある。

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