まだ続いていたのか・・・というニュース。

「グレーゾーン解消制度」に投げ込まれたストレートな問いかけに対し、法務省が発したごく自然な回答によって法務クラスタの一部が大騒ぎしたのはもう1年以上も前のことだ。

当時の騒動の様子は、↓のエントリーに生々しく記したのだが、自分の中ではもうとっくに過ぎ去った昔の話だった。

k-houmu-sensi2005.hatenablog.com

だが、ここにきて再び「契約書AI審査」をめぐる話題でメディアが盛り上がり始めている。

先週末に見かけたのが、法務省によるガイドライン作成の動きを伝えた朝日新聞の↓の記事。
digital.asahi.com

そしてこの記事をさらに上書きするように日経電子版が週末に発した記事が、今朝の法税務面にも掲載された。

www.nikkei.com*1

法務省指針案は「不十分」

という見出しだけで何だかワクワクしてしまうのだが、実際、最初の段落から、

契約書を人工知能(AI)で審査するサービスに関する法務省の指針案に、政府の規制改革推進会議が「内容が不十分」と懸念を示していることがわかった。同省の原案は「適法」と明確にする範囲が狭いため、「既存サービスですら『グレー』と受け止められかねない」と問題視しているもようだ。推進会議が直接、法務省に事情を聞くことも検討する。同省は原案の修正を求められそうだ。」(日本経済新聞2023年7月24日付朝刊・第15面、強調筆者、以下同じ。)

と規制改革推進会議の動きを前面に出したなかなかアグレッシブな記事となっている。

そして、

「関係者によると、法務省の原案はまず、親子会社間やグループ会社間の契約書などをAI審査の対象とする場合は問題ないと指摘。さらにAIで契約書の作成や審査をする場合、「個別事案に即した表示」をすると弁護士法に抵触する恐れがあるが、契約書のひな型や一般的な内容を表示するなら適法と整理した。」(同上)

と指針案の具体的な内容に踏み込んだうえで、

「ただビジネスの現場で多い一般の会社間の取引契約については、AI審査の対象にできるか原案は触れていない。審査結果の表示などが、どこまで詳しいと「個別事案に即した」としてクロ判定になるかの基準もない。弁護士資格がない法務担当者がAI審査を利用できるかも不明確だ。原案について、規制改革推進会議内で「クロやグレーのままの部分が多すぎて、既存サービスですら問題だと解釈される恐れがある」と懸念が強まった。」(同上)

と生々しく法務省が突き付けられた「NG」の中身を伝えており、なかなか読み応えのある記事ではあった。

で、これに対して自分がどういう感想を抱いたか、ということであるが・・・


「原案」として紹介されている法務省の案に関して言えば、これまでの「グレーゾーン解消制度」への質問に対して示された回答*2を眺めていれば、概ね予想される範囲内のものだったといえるだろう。

「所管官庁」といっても、法務省は弁護士を”監督”する立場にはないし、それゆえ「弁護士法」それ自体を法務省がどこまで「当事者」意識をもって取り扱っているかもいささか怪しいところはある。だからこそ、一連の回答のように、無理に実質論に踏み込まず、これまで表明してきた見解の範囲内の回答を貼り合わせ、余計なことにはコメントしない、というスタンスがとられることに対してもそこまで違和感はない。

過去の議論を通じて問題ないと言える類型については「白」と言い、これまた過去の議論から弁護士法違反が疑われる類型については「黒」であることを示唆する。

そのどちらでもないものについては「黒」とも「白」のいずれに寄せるのも難しいから個別の場面での具体的な判断に委ねて言及しない、少なくとも「黒」と言っていないのだから、後は好きにやってくれ・・・というのが、中の人々の本音だと思われるし、個人的にもそれで十分だろう、と思う。

一方で、「契約書AI審査」を大々的に宣伝して飯のタネにしようとしている人々が、それでは困ると憤るのも理解できなくはない。

そしてその結果、様々な方面から霞が関&永田町にアプローチした結果が今回のような話につながっているのだろうし、それ自体を間違ったアプローチなどと言うつもりはないのだけれど・・・。


気になるのはこの1年、あるいはもっと前から似たような議論を繰り返す中で、「契約書AI審査」のプロダクト自体が果たしてどこまでの進化を遂げてきたのか?ということである。

繰り返されるたびに議論は洗練され、巧みなレトリックと場合分けによって「AI審査」の活躍の場が理論上広がっていく、ということも近い将来起こり得るのかもしれないのだけれど、少なくともここ数年の進化の”緩さ”を見る限り、現実に「弁護士法72条」との緊張関係を生み出すようなプロダクトが近い将来この国に出現するとは到底思えない・・・というのが、大なり小なりこの種のサービスに接してきた者が共通して抱く感覚ではなかろうか*3

もしかしたら、ここからの飛躍的なブレイクスルーによって、良い意味で期待が裏切られることもあるのかもしれないが*4空中戦の末に出来上がった舞台に立つ者は誰もいないという事態は、もはやお笑いコントでしかない。

そして、ここで大事なのは、「業界」の声ではなく「ユーザー」の声だ、ということも、改めて強調しておきたいと思っている。

*1:紙面に掲載された内容とは微妙に異なっているが電子版記事のリンクがこちらである。

*2:冒頭のエントリーで紹介したものに加え、昨年秋にはhttps://www.meti.go.jp/policy/jigyou_saisei/kyousouryoku_kyouka/shinjigyo-kaitakuseidosuishin/press/221014_yoshiki1.pdfのような見解も出されている。いずれも回答のポリシーとしては一貫している。

*3:あえて擁護するなら、これは法律系AIの話に限ったことではなく、世の注目を集めた多くの技術がたどってきた道でもある。派手に注目を集めたものに限って実際のインパクトは小さく、逆に、真の世の中の変革は、いつのまにか、だが着実に浸透した技術によってもたらされる、というのが、この10年、20年の間に皆が学んだことではなかったか。

*4:日経紙の前記記事には、毎度の定番の如く「一部の弁護士には法律業務の質の維持や弁護士の職域が奪われることへの不安もある」というフレーズが出てきているが、本気でそう思っている弁護士とは自分はまだ遭遇したことがないし、そこに不安を感じるくらいなら違う仕事やった方が良いのでは・・・というのが、その類の「不安の声」に対する率直な感想である。

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