勝つことを「当たり前」にしてしまった人馬の強さと美しさ。

単勝1.1倍、誰もが勝つと信じた馬が順当に勝った、というただそれだけの話。だが、それを当たり前のようにやってのけたところに、今年の「三冠牝馬」の凄さはあった。

競馬に絶対はなく、どんな馬にも死角はある。

だからこそ、ずば抜けて本命視される馬がいるレースに「穴党」は惹かれるものなのだが、今年の秋華賞に関しては、最初から最後まで”神様の悪戯”が入り込むような余地はどこにもなかった。

しっかりゲートを出て前方に付け、馬群に包まれ過ぎることもなく、気が付けば進路を阻む馬は一頭もいない。

レース後公開された川田騎手のジョッキーカメラの映像を見ても、向こう正面を過ぎたあたりからは、視界を遮るものは何もなく、蹄音以外聞こえない”無音”の世界でゴール板に向けて歩みを進めるだけの波乱なき展開。

牝馬の世界で「三冠」というフレーズは最近では全く珍しいものではなく、2018年のアーモンドアイから数えて実に5年の間に3頭目という状況だから、その称号自体にレア感はない。

これまでの過程を見ても、3年前のデアリングタクトのように「無敗」の冠を背負っているわけでもなければ、アーモンドアイのような驚異的な爆発力、土壇場の大逆転、というドラマティックな過程を経ているわけでもない。

ただ、今日の勝利を目撃した今となっては、過去のどんな三冠馬にもなかった「何気なさ」こそが、リバティアイランドの強さの証明に他ならない、と自分は感じている。

デビュー戦以来、一度も譲ったことのない「1番人気」。しかも三冠レースではすべて単勝1倍台。

「マイル戦で最後方待機」という、ともすれば波乱を予感させるような展開の桜花賞ですら、上がり32秒台の脚で完膚なきまでに差し切って、危うさを微塵も感じさせなかったし、オークスの「6馬身差」は言わずもがな。

秋華賞では、最後の最後に上がり馬、マスクトディーヴァが怒涛の追い込みで突っ込んできたが、あれはどう見ても「2着にしかなれない」末脚で、少なくともあのシーンを現場で見た観客の中に「危なかった」を感じた人は誰一人いなかっただろうと思う。

これほど勝利を当たり前にして、GⅠレースを自分のソロライブにしてしまった馬が、これまでにいただろうか・・・。

浮ついた表情を一切見せない鞍上(川田将雅騎手)の冷静さが、実際の力差以上に勝利を「当たり前」に見せているところはあるだろうし、これから本格的に牡馬、古馬との対戦を迎える中で、1番人気を維持しながら圧倒的な勝利を続けることはそう容易なことではないだろう。

それでも今は、これまで誰も見たことのなかった世界をこの一頭の牝馬が切り拓いてくれるのではないか、という微かな期待がある。

そして、新型コロナ禍が明け、「大観衆の京都競馬場」が戻ってきたこの2023年に、そんな期待を抱かせる馬が降臨してくれた、ということに、理屈では言い表せないドラマ、を感じているのである。

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