昔から「強い馬が勝つ」と言われ続けてきたのが牡馬三冠最後の一戦、菊花賞。
とはいえ、芝3000mという競走条件の設定がサラブレッド界のトレンドから乖離して久しい今となっては、(三冠がかかった馬を除けば)「本当に強い馬」は天皇賞やらマイルCSやらの古馬混合戦に流れ、残ったメンツで「クラシック王者の称号最後の一枚」を争うレースになってしまっていた、というのが現実だった*1。
ところが3年ぶりの京都開催、新装なった競馬場で、という舞台設定が味方したのか、あるいは、「未だ世代No.1の決着付かず」という世のムードに背中を押されたのか、今年の第84回菊花賞は、皐月賞馬・ソールオリエンス、東京優駿馬・タスティエーラが揃い踏みし、ファントムシーフ、ハーツコンチェルトといった脇役陣も勢ぞろい*2。
サトノグランツ、サヴォーナといったトライアル上位組も不気味な存在感を発揮していたし、破竹の4連勝中の上がり馬・ドゥレッツァもいたが、こういう「春の主役級」が揃ったレースでは、主役同士の一騎打ちで最後の一冠が決まる、というのが昔からのお約束だったはず。
だが、そんな予定調和への期待は、いとも簡単に打ち砕かれてしまった。
そもそもスタートした直後、お約束の逃げを打つと思われたパクスオトマニカを交わして、かかり気味のドゥレッツァが先頭に立ち、陣営も想定外だった「逃げ」戦法に打って出たのが波乱の幕開け。
ルメールが落とし込んだスローなペースを嫌気したのか、向こう正面で池添騎手のサヴォーナが仕掛けたのをきっかけに、菊花賞にしては短い隊列に凝縮された馬たちがそれぞれの動きで仕掛けどころを伺う落ち着かない展開となり、1番人気で本命視されていたソールオリエンスすら、最後のコーナーを回るあたりでは外側から一歩先んじて仕掛けるような動きを見せる。
そして、そんな混戦の中、最後の直線で抜け出したのは、周りの馬の仕掛けに動じることなく、スタートから一貫して気持ちよく走り続けていたドゥレッツァだった。
先行争いで消耗して後退していく馬たちをしり目に、逃げていた馬とは思えないような鋭い脚で上がりタイムも最速。後続を3馬身以上ぶっちぎる形で5連勝を果たし、初重賞挑戦でGⅠ勝利、という偉業をいともあっさり成し遂げてしまったのだから、もう脱帽するほかない。
続いて追い込んできたのも、モレイラ騎手の手綱で終始中団に控え、ソールオリエンスの早仕掛けにも惑わされずにベストコースをしっかり回ってきたダービー馬・タスティエーラで、結果、キャロットファームのワンツーフィニッシュ。
もちろん、道中で仕掛けた側にもそれなりの理屈はある*3のだろうが、ソールオリエンスが直線で伸び切れず、最後の最後に逃げた馬を交わしてかろうじて3着だった、という現実と、今回の上位2頭のレースぶりを比較すると、軽々しく動かないことこそがここで求められる「強さ」だったりもするのかな、と何となく思えてきたりもするわけで・・・。
かくして”三つ巴”となり、クラシックレースの舞台で真の決着が付くこともなかった今年の3歳牡馬陣。
おそらく、年度表彰の3歳牡馬部門の投票先も、ここから年末にかけての戦績次第でいかようにでも変わる可能性はあるだろうから、それを楽しみに、今日この舞台に立っていた馬たちをもう少し見守りたいと思っているところである。