レース前から「混戦、混戦」と念仏のようなフレーズが飛び交っていた今年のオークス。
現・3歳牝馬陣に関しては、元々、抜けた存在の馬がいなかったうえに、一冠目の桜花賞でそれまで実力上位と思われた人気馬たちを差し置いて、重賞未勝利のスターズオンアースが7番人気で勝ってしまっていたことが、予想者たちの思考回路をより複雑なものにしていた。
もっともそうはいっても堅く収まるのがオークス。
過去10年のうち8回は1番人気の馬がきっちりと馬券圏内に入っていたし、1番人気、2番人気の馬がともに馬券圏内に入ったのもそのうち5回。
この時期の府中の2400mを走って力を出せるのは、本当に地力のある馬だけ。だから、少なくともここで1番人気に支持されるような馬がそう簡単に着外に飛ぶことはないと自分は思いこんでいたし、今年その地位に立ったのが2歳女王・サークルオブライフ、ということであれば、少なくともワイド軸はこの馬で決まり。
あとは、武兄弟の悲願を乗せたウォーターナビレラや、トライアルで強さを見せたエリカヴィータ、そして巻き返しを期すナミュールあたりを押さえておけば十分だろう、と内心ほくそ笑んでいたところもあった。
それが一体全体どうしたことか・・・。
ゲート入りどころかファンファーレすらまだ、というタイミングでサウンドビバーチェがまさかの逸走。
捕まえるのに時間を要したこともあって、馬体検査が終わるまでの時間は実に10分くらいあったし、そこからスタートに向けた段取りが再開されるまでの間にヒートアップしそうになっていた馬も多かった。
その結果生まれたのが、発走後の壮大なカオス。
テンションが上がり過ぎたのか、大きく出遅れてしまったサークルオブライフ。
ウォーターナビレラも桜花賞とはうって変わって中団の後方で動けないまま。
代わりにここぞとばかりに大逃げを打ったのが、三浦皇成騎手操る14番人気のニシノラブウインクだったのだが、物凄い加速で引き離し・・・と見せかけて、1000㎡の通過は60秒を上回るスローペース。
こうなると、中団から後ろの馬が見せ場を作る余地はもうほとんどなかった。
さらに、せっかく好位に付けていた2番人気・アートハウスも直線に入って伸び悩む中、唯一「もう一伸び」で粘ったレーン騎手のスタニングローズと、中団から差してきた馬たちのマッチアップ。
結果、最後にゴールを駆け抜けた馬は、よく見たら桜花賞馬、のスターズオンアースだった。
既に一冠を制し、鞍上にはルメール騎手、という名手を配しながら、大外枠&川田騎手はわざわざ別の馬に乗り換えた、というところがマイナス材料になって、この日は3番人気にとどまっていたのだが、上がりの脚は別次元。紛れもなく強かったこの馬が「二冠馬」となったのは必然だったのかもしれない。
ちょっと前に見た記事で、川田騎手が2012年のオークスで、後の三冠馬・ジェンティルドンナに騎乗して勝った時のエピソード*1が紹介されていて、そこに書かれていた「自分が騎乗することになったためにオークスでは1番人気にならなかったが、そのおかげで開き直って乗れて勝てた」的な回顧が(その後の川田騎手の躍進ぶりも踏まえながら読むと)実に印象的だったのだが*2、あれから10年後、その川田騎手がまさに逆の立場で「二冠馬」の誕生を見届けることになってしまうのだから、この世界は面白いというかなんというか・・・
さすがに「二冠馬の背にまたがっていたのは岩田望来騎手!」というようなベタなドラマ仕立てにはならなかったのだが、今シーズンここまで重賞未勝利、いろいろあって勝ち星も伸び悩んていたルメール騎手にGⅠタイトルがプレゼントされた、というのもそれはそれでドラマである*3。
そして、過去10年のうち、1番人気が馬券に絡まなかったたった2回のうち1回が、あの2012年のオークスだった、ということ*4、例外となった2回ではいずれも「3番人気」の馬が勝っている、ということにこの日のレースが終わるまで気付かなかった、ということに、まだまだな自分を感じた、ということも申し上げておきたい。