世界との距離が再び縮まることを願って。

油断するとあっという間に月末。

年が明けて最初の月から早くもその状況に陥っているのだけれど、そんな1月最後の週末、飛び込んできたのが大阪国際女子マラソンでの前田穂南選手の日本新のニュース。

男子の方はここ数年、大迫傑選手が2時間6分の壁を、鈴木健吾選手が2時間5分の壁を・・・ということで次々と突破して、新しい時代に突入していたのだが、女子の方はと言えば、実に20年近くの間、野口みずき選手の「2時間19分12秒」という記録を誰も破れていなかった。

既におぼろげな記憶になっていたのだが、野口選手が日本新を出した時に「驚異的な」という枕詞はつかなかったように思うし、実際、2時間19分台は、野口選手の4年前にあの高橋尚子選手が同じベルリンで出している。

「超高速コース」と言われたベルリンマラソンでタイムを狙いに行く、というのは、21世紀初頭の定番で、(自分でもすっかり忘れていたが)野口選手が日本新を出す前年には渋井陽子選手が高橋選手の記録を5秒更新、そして日本女子2人目の五輪金メダリストとなった野口選手が五輪翌年にその記録を30秒弱更新、という流れできていたから、あの頃はいずれ野口選手自身か次の世代のランナーがすぐに記録を塗り替えるだろう、という雰囲気すらあった。

それが平成が終わって令和も6年になるまで残り続けていたとは・・・。

今回、前田穂南選手が大阪国際で叩き出したタイムは2時間18分59秒

日本屈指の実力派ランナーがペースメーカーに付いた、という環境の助けがあったにしても、長らく誰も破れなかった「2時間19分の壁」を破ったのはお見事の一言だし、それを国内の、それも、失敗が許されない五輪代表選考レースでやってのけた、というのは率直に称賛されるべきことだと思う*1

ただ、ここで考えないといけないのは、「世界との距離」。

2001年、高橋尚子選手が「2時間20分の壁」を破ったとき、その域に達していた女子マラソン選手は、世界中どこを見回してもいなかった

時はケニアのロルーペ選手がクリスチャンセン選手の世界記録を13年ぶりに破り、ようやく「2時間20分台」に突入してからまだ数年。
そこに、五輪チャンピオンの称号を手にしたばかりの高橋選手が参戦し、「記録狙い」に徹した結果、従来の記録を1分近く縮めたのだから、その衝撃は半端なものではなかった。

日本新世界新という誇らしき世界。

トラックから次々とスピード自慢の有望選手が参戦したことで、高橋選手の世界最高記録も一瞬で過去のものにされてしまったが、それでも五輪での勝負となれば日本選手が勝つ・・・そんな切磋琢磨で世界の頂点を争っていた21世紀初頭を思い返すと、この「失われた20年」は重く、既に「2時間11分台」の世界記録が誕生している今、「2時間18分台の日本新記録」というタイムだけで手放しで喜ぶわけにもいかないような気がする。

長きにわたって低迷し、高岡寿成選手の記録(2時間6分11秒)を16年塩漬けにし続けていた男子マラソン界が、設楽悠太選手の「5秒」を皮切りに、大迫傑選手、鈴木健吾選手、とここ数年で一気に「2時間4分台」まで持ってきたことを考えると、今日の「2時間18分台」を皮切りに続々と新しい記録が生まれ、世界との距離が再び縮まることも期待したいところではあるのだけれど・・・。

次の更なる一歩が、次の選考レースの名古屋なのか、それとも海外の高速レースなのか、は神のみぞ知ることではあるが、この先、

「後になって思えば、あの20年は『失われた時間』ではなく、次代の驚異的なブレイクスルーを生み出すための時間だったのだ」

と言われるような時代が来ることを信じ、全てを賭けている選手たちの努力が少しでも報われることを願って、ここからの歴史的なシーズンを見守れれば、と思っている。

*1:先述のとおり、過去に2時間19分台が出たレースはいずれもベルリン。国内ではタイムが出にくいとされていた名古屋で日本新を塗り替え、暑いバンコクでさらに記録を更新していた高橋尚子選手だけは別格だが、その高橋選手ですら、「記録より勝負」が原則の五輪国内選考レースでは、そこまで突き抜けたタイムは出していない。

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