アジアをなめてはいかんのです。

初戦のベトナム戦、相手チームのベンチにあのトルシエ監督がいる、というのを知って嫌な予感がした。

一時逆転されながら、前半のうちにひっくり返して最後にダメ押しした試合運びはさすがだったが、この一戦に全力で挑み躍動するベトナムの選手たちの姿に、この先日本が進む道の多難さを感じたのは自分だけだっただろうか。

そしてイラク戦。

日本の試合では借りてきた猫のようになってしまうことも多い中東勢も、地元での試合となると俄然スイッチが入る。しかも4年に一度の伝統あるNations Cupの試合となればなおさら。

「アジアのローカル大会」と勘違いして地上波の中継すらサボる日本人には想像もできないような熱。試合会場を埋め尽くした敵方の圧倒的な応援との差が全てを暗示していた。

その結果としての、完敗。

才能ある相手方のMF・アリ=ジャシムに再三自陣の右サイドを破られ、何とかここで、という場面で追いつくどころか致命的な2失点目を喫する。

攻撃に力を割こうにも、相手の体を張ったディフェンスと球際の強さゆえ、ボールがなかなか前線に収まらないし、数少ないチャンスは”空砲”になって消えていく。

A代表経験の浅いGKに、吉田麻也も富安もいないDF陣となれば、アジア相手でもある程度失点することは覚悟で臨んでいたチームだったはず。それを「史上最強」と謳われる攻撃陣が派手にひっくり返す、というのが今大会の日本代表に期待されたサッカーだったはずなのだが、かつて「史上最強」といわれたチーム*1が繰り返してきたとおり、平時は面白いようにつながる攻撃連携もシビアな戦いの場ではしばしば機能しなくなる。

まさにイラク戦はそんな試合で、自分は前半が終わった時点で見るのをやめた。

その1時間後くらいに「敗戦」の報を聞いても意外感は全くなく、むしろ「よく1点返せたな」というのが正直な感想。そんな試合だったから、当然、SNSにも罵声があふれるし、そう叫びたくなる気持ちも分かる。

だが・・・


長い間この国の試合を、そして他の大陸の国々の試合もそれなりに見てきた者として思うのは、世界レベルで戦えるチームになり、選手たちが欧州トップクラスのクラブで活躍できるようなレベルにればなるほど、自大陸の大会では苦戦する、というのが欧州以外のすべての大陸に共通する話だ、ということだろうか。

今平行して行われているアフリカ大陸の大会などは、欧州序列の「前評判」が全くあてにならないくらい派手なサプライズが起きるし、南米ですらそう。

ましてや、今回のアジア大会は、欧州のシーズンの真っただ中に、十分なケアの時間も与えられないまま強行開催されているものだったりするから、前回W杯からの主力欧州組の中で、完全な状態で試合に出られているものはまだまだ少ない。

そんな状態で、この試合に全てを賭ける相手がぶつかってくるわけだから、まぁそんなに簡単に勝てるわけがなかろう・・・。

僅か1年ちょっと前、欧州の強豪たちを撃破したチームが、同じ地でイラク如きに負けるとは軟弱だ!と言いたくなる気持ちも分かるが、もし今行われている試合が、シーズン真っただ中にかき集められた欧州の代表チームとの親善試合だったとしたら、1年前よりもっと圧倒的なスコア差で勝てる可能性だってあるし、それが単純な戦力の合計だけでは勝敗が左右されない、フットボールという競技の奥の深さなのだろう、と思っている。

それにしても、冒頭で出てきた老師・トルシエとの再会といい、カタールの地でイラク選手に決められたヘディングシュートといい、往年のファンのトラウマをくすぐるようなエピソードが続くとは、何と趣き深い大会か。

オムラム選手のヘディングシュートの瞬間はもちろん、怒り狂っていたトルシエ監督の姿を見たことのある人すら、今応援に張り付いている人々の中では少数派になってしまっているのかもしれないが*2、なんだかんだと「あの時米国に行けなかったトラウマ」(サポーターとして)を未だに抱えて生きている者としては、イラクに勝てなくてもまだ次がある」という事実だけで十分だし、この先、正気に立ち還った森保采配が全く違う世界を見せてくれることをひそかに信じているのである。

*1:近いところでは2006年ドイツW杯、2014年ブラジルW杯あたり。いや、もう近くないが・・・。

*2:A代表チームにすら、日韓W杯を物理的に知らない選手たちが既に加わっている、という事実を知って、軽く衝撃を受けたばかりである。

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