ミステリアスな反応。

我が国有数の公共輸送機関ゆえ、特例に特例を重ねる形で救済が図られ、あっという間に、再上場にこぎつけようとしている日本航空

最近の業績回復があまりに目覚ましいがゆえに、“利権の再取得”をもくろむ政治方面の声だけでなく、競合する同業者である全日空からも激しい批判が浴びせられている中、もうひとつの同業者から、あっと驚くような見解が示された。

スカイマークは13日、9月に控える日本航空の再上場について「業界安定のため歓迎する」との意見書を国土交通相に提出した。再上場に反対している全日本空輸の姿勢を「企業間競争のなかでの論理であり、業界全体の安定を考慮しているものではない」と批判。「企業の競争論理に巻き込まれることなく、航空輸送を第一に考えてほしい」と要請した。(日本経済新聞2012年7月14日付け朝刊・第9面)

確かに、スカイマークといえば、JALコードシェア便を運航していたこともあるし、空港内のカウンターの位置からしても“JAL寄り”(笑)の会社なのは間違いない。

だが、それにしても、「企業間競争の中の論理」を否定し、「業界全体の安定」などというあたかも“霞が関の中の人”のような物言いを、「会社の見解」として堂々と表明する、というのは一体どういう了見なのだろうか。

しかもこの会社、先日の「サービス・コンセプト」問題では*1、一企業として可能な範囲でのサービスに専念する、という趣旨で、文字通り「企業としての論理」を前面に出していたはずなのに・・・。

どうやら、スカイマークという会社は、自分が想像していた以上に、ミステリアスで、エキセントリックな会社なのかもしれない。

個人的には、いかなる業界であっても、業界の中で健全な競争環境が設定されて初めて、まっとうな業務遂行が可能になる、と思っていて、航空輸送についても決してそれは例外ではない、と思うだけに、ここ1,2年の間、必死の経営努力を経て、対JALの関係でも気を吐いているANAの足を引っ張るようなことはして欲しくないなぁ・・・と、思うところである。

何とも微妙な公取委の「注意」

以前、優越的地位の濫用規制が適用されるのかどうか、ということで注目して取り上げた「東電電気料金値上げ」事件*1

その際に、あまり前例がないからどうなるか分からないねぇ・・・という類のコメントをしたのであるが、公取委が早々と判断を示したことで、「前例」が作られることになった。

だが、その内容といい、ニュースになった経緯といい、どうも腑に落ちないところは多い。

公正取引委員会は22日、東京電力が企業向け電気料金の値上げを一方的に通告したのは、独占禁止法違反(優越的地位の乱用)につながる恐れがあったとして、東電に文書で注意した。値上げなどの際には必要な情報を十分に開示して内容を説明するよう求めた。」(日本経済新聞2012年6月23日付け朝刊・第38面)

公取委の22日付けのリリースはこちら。
http://www.jftc.go.jp/pressrelease/12.june/12062201.pdf

で、これによると、公取委は、

(1) 東京電力は,東京電力の供給区域(注2)における自由化対象需要家(注3)向け電力供給量のほとんどを占めており,一方,当該供給区域における特定規模電気事業者(注4)の電力供給の余力は小さい。これらの事情から,東京電力と取引しているほとんどの自由化対象需要家にとって,東京電力との取引の継続が困難になれば事業経営上大きな支障を来すため,東京電力が当該需要家にとって著しく不利益な取引条件の提示等を行っても,当該需要家がこれを受け入れざるを得ない状況にあり,東京電力は,当該需要家に対し,その取引上の地位が優越していると考えられる。
(注2)「東京電力の供給区域」とは,茨城県,栃木県,群馬県,埼玉県,千葉県,東京都,神奈川県,山梨県
静岡県富士川以東)の区域をいう。
(注3)「自由化対象需要家」とは, 契約電力が原則として50キロワット以上の需要家をいう。
(注4)「特定規模電気事業者」とは,自由化対象需要家の需要に応ずる電気の供給を行う事業者であって,一般
電気事業者を除く者をいう。

といった事実から、東電の需要家に対する取引上の地位の優越性を認め、さらに、

(2)東京電力は,東京電力の供給区域において,東京電力と取引している自由化対象需要家に対し電力供給を行うに当たり,平成24年1月頃から同年3月頃までの間,東京電力と当該需要家との間で締結している契約上,あらかじめの合意がなければ契約途中での電気料金の引上げを行うことができないにもかかわらず,一斉に同年4月1日以降の使用に係る電気料金の引上げを行うこととするとともに,当該需要家のうち東京電力との契約電力が500キロワット未満の需要家に対しては,当該需要家から異議の連絡がない場合には電気料金の引上げに合意したとみなすこととして書面により電気料金の引上げの要請を行っていた事実が認められた。

という2つの事実(契約期間中の料金一斉引上げと、一方的な書面送付による合意みなし)を認定して、

「前記(1)を踏まえると,東京電力の前記(2)の行為は,独占禁止法第2条第9項第5号(優越的地位の濫用)に該当し同法第19条の規定に違反する行為につながるおそれがある。」

と判断したのである。

東電の地位が「優越的」なものであることは疑いがない上に、「値上げ」という行為も取引相手に不利益を与える行為であるのは明らかである以上、それが「一方的な通知」によって進められる、しかも、「一方的な書面送付による合意みなし」によって進められる、となれば、確かに「優越的地位の濫用」の疑いが濃くなってくることは避けられない。

ただ、優越的地位に基づいて、相手方にとって不利益となる条件での取引を行おうとしたからといって、直ちに優越的地位の濫用に該当することになるわけではない、というのは前回のエントリーでも指摘したとおり。

「優越的地位の濫用」というためには、東電が示した対価が「著しく高い」といえるかどうか、という点を検討する必要があるし*2、今回の値上げが「正常な商慣習に照らして不当に」とまでいえるかどうかについても、もう一段踏み込んだ検討が、本来なら必要なはずである。

東電の市場における支配力があまりに大きい、ということや、需要家側に選択の余地を与えないかのような方法で事を進めようとした、という問題が非常に重大、と判断したゆえに、公取委としてもあっさりと「おそれあり」との心証を示したのかもしれないが*3、なかなか先例がないタイプの話だっただけに、たとえ通り一辺倒でも、要件一つひとつにきちんと目配りしたほうが良かったのではないか、という思いは残るところである。

そして、もっと引っかかったのは、以下のくだりである。

「注意の事案については公表しないのが通例だが、今回の電気料金値上げは『公益性が高い』として公表した」(同上)

公取委の資料にも記載されているとおり、上記(2)の事実は、値上げに向けた動きが出始めた頃の話で、メディアで激しいバッシングを受けた3月下旬以降は、以下のような運用に改められている。

「なお,東京電力は,本件に係る経済産業省の指導等を踏まえ,平成24年3月下旬頃以降,東京電力と取引している自由化対象需要家に対し,契約期間満了までは契約中の電気料金での取引の継続が可能であることを伝えた上で,電気料金の引上げの要請を行うとともに,当該需要家のうち東京電力との契約電力が500キロワット未満の需要家に対する電気料金の引上げの要請に当たっては,書面に加え,電話や訪問により口頭で電気料金の引上げ理由等について説明している事実が認められた。」

調査が始まった当初は独禁法違反に当たる余地があっても、調査が行われている過程で運用面等を改善し、あるいは改善する姿勢を示すことによって、「注意」等の行政指導にも当たらない緩い措置に収まる、というのは、良くある話だ。

そして、この場合、事業者名が公表されることはほとんどない。

だが、本件については、「公益性が高い」という理由で、事業者名はもちろん、事案そのものの内容まで公表されてしまった。しかも、「注意」という非常にモヤモヤした結論とセットで・・・。

このことをどう評価するか、は、それぞれの拠って立つ立場によっても異なってくると思うのだが、東電にしてみれば、せっかく考えて改善したのに・・・という思いがあるかもしれないし*4、、需要家の側にしてみれば、さらに踏み込んで責任を追及しようと思っても、「注意」ではどうにもならないじゃないか、という声が出てきても不思議ではないように思うところである。

もちろん「注意」であっても、そのような結論を導き出した過程をきちんと示すことによって、今後の同種事案に対する判断が明確になる、というメリットはあるのは分かるのだけれど、何となく違和感が拭えない、そんな展開になってしまっているだけに、この先もまた、気になるところである。

*1:http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20120412/1334458614参照。

*2:値上げ幅自体は大きいし、規制部門と違って公的な認可を受けているわけではないとはいえ、部門別収支について当局からチェックを受ける立場にある電力会社が、度を越した対価を設定しているとは考えにくい。

*3:しかも、あくまで「おそれ」であって、「優越的地位の濫用」にあたる、とまで断定しているわけではないから、その分判断のハードルは下がる。

*4:もっとも、東電については今さら事業者名等が公表されても低下するレピュテーションなどないくらいのヒドイ状況に追い込まれてしまっているから、本件に関しては、公表されたことによる実害はほぼ皆無と言っても良いのかもしれない。

“大逆転審決”の核心にあるものとは?

2月に「排除措置命令がひっくり返る」という仰天ニュースが飛び込んできて以来*1、出るか出るか・・・と待ち構えていたJASRAC事件の審決が、ようやく6月12日付で出されたことが、公取委から発表された*2

審決全文は、こちらのリンク(http://www.jftc.go.jp/shinketsu/itiran/h24.html)から入手できる。

竹島委員長を含めて5名いるはずの公取委委員の名前が、審決には4名しか書かれていない、ということからも、苦渋の判断だったのだろう、ということは推察されるのだが、それでも、公取委が一度出した命令を自らひっくり返した、という事実は重い。

以下、どのような理屈で、JASRAC著作権管理事業をめぐる“世紀の大逆転”が生まれたのか、ということを、簡単に追ってみることにしたい。

事案の概要/争点

審決は、まず、平成13年10月1日に、著作権等管理事業法が施行され、それまでの「仲介業務法」が廃止され、著作権管理事業が“自由競争”の時代に入ったこと、及び現行法の下での仕組みに触れた上で、本件で問題とされたJASRACとイーライセンスの著作権管理事業の概要を淡々と綴っていく。

それまで、事実上、独占的な管理事業者として、各放送局と利用許諾契約を交わしていた立場を背景に、新法施行後もNHK、民放連といった事業者と速い段階から利用許諾契約を交わしていくJASRACに対し、平成17年になってようやく放送等利用に係る協議の開始を申し入れ、平成18年になってようやく使用料徴収等の条件について合意に達したのがイーライセンス、という対照的な構図。

それでも、JASRACの管理制度に不満を抱いていたエイベックス・グループが、平成18年9月末ごろ、イーライセンスに60曲の楽曲の管理を委託したことにより、JASRACの有力な「競争相手」として市場に登場するかに思われた、だが、同年12月末に、エイベックス・グループが解約して・・・というところまでが前提事実となっている。

そして、双方の主張を読むと、上記のような前提の下で、

1 JASRACの包括徴収方式による利用許諾契約締結及びそれに基づく利用料の徴収行為(以下「本件行為」)が、放送等利用に係る管理楽曲の利用許諾分野において他の管理事業者の事業活動を排除する効果を有するか
2 本件行為が、正常な競争手段の範囲を逸脱するような人為性を有するか
3 本件行為が、一定の取引分野における競争を実質的に制限するものか
4 本件行為が、公共の利益に反するものか

といった点を中心に激しく争われており、特に、当時、エイベックスの看板アーティストの一人であった、大塚愛の「恋愛写真というイーライセンス委託楽曲の放送をめぐる経緯や、エイベックス・グループが管理委託契約を解約するまでの経緯について、双方の言い分が激しく対立していることが分かる。

これまで、「音楽を流すときはJASRACに配慮しておけばよい」という安心運用にどっぷりつかっていた放送局の現場が、「イーライセンス」という“異端児”の登場に伴って、多かれ少なかれ混乱したであろうことは、当事者の主張の共通部分からも十分伝わってくるわけで、あとは、それが、「包括徴収」というJASRACのシステムそのものに起因する問題なのか、それとも、単にイーライセンスの管理体制等が不十分であったことに専らの原因があったのか、が問題になっている・・・本件の争点をごくおおざっぱにまとめると、そういうことになるだろうか。

多少の見解の相違はあるものの、「包括徴収方式」が、「当該年度の前年度の放送事業収入に一定率を乗ずる等の方法で放送等使用料の額を算定するもの」であり、その時々の楽曲の利用状況によって対価が変動するシステムにはなっていない、ということについては、当事者間にもほとんど争いがない(審決41頁参照)。

ゆえに、そのような方式が採用されていることによる、放送局側の他の管理事業者との“新規契約のしづらさ”が、どこまで競争に直接的な影響を与えているか、という点の評価がまさに問われていた、本件はそんな事案であった。

審判官の判断 〜崩れた審査官主張の根拠

審判官は、41頁から始まる「判断」理由の章の冒頭で、まず以下のように述べている。

「放送事業者は,被審人の管理楽曲を利用する限り,上記算定基準に基づく定額の放送等使用料を支払うことで足り,それ以上の費用負担は存しないが,被審人以外の管理事業者の管理楽曲を利用すれば,その管理事業者との利用許諾契約に従って別途放送等使用料を支払うことになるのであるから,放送事業者が被審人以外の管理事業者の管理楽曲を利用するかどうかを決定するに当たっては,別途の放送等使用料の負担を考慮する必要がある。その意味で,被審人が上記の内容の利用許諾契約を締結して放送等使用料を徴収すること(本件行為)は,放送事業者が他の管理事業者の管理楽曲を利用することを抑制する効果を有し,被審人が,放送等利用に係る管理楽曲の利用許諾分野において,平成13年10月1日の管理事業法施行の前後を通じて,一貫してほぼ唯一の事業者であったことを併せ考えると,本件行為が他の事業者の同分野への新規参入について,消極的要因となることは,否定することができない。
「そして,被審人が,管理事業者の新規参入を可能にした管理事業法の施行後も,新規参入について消極的要因となる本件行為を継続し,上記第3の6(2)のとおり,平成18年9月まで放送等使用料を徴収して管理事業を行う事業者が現れなかったことは,本件行為が他の事業者の上記分野への新規参入を困難にする効果を持つことを疑わせる一つの事情ということができる。」(41〜42頁、強調筆者・以下同じ)


ここまで読めば、そのまま排除措置命令維持、という結論になっても不思議ではないところだが、どっこい、これに続いて、

「他方,証拠(略)によれば,放送事業者が音楽著作物を放送番組において利用する際には,放送等使用料の負担の有無及び多寡は考慮すべき要素の一つであり,番組の目的,内容,視聴者の嗜好等を勘案して適切な楽曲を選択するものと認められる。また,楽曲の個性や放送等使用料の負担をどの程度考慮するかについては,放送等使用料の負担を考慮して楽曲を選択することは考えられない旨述べる者もあれば,カウントダウン番組(CDの売上げ,視聴者のリクエスト等を基に楽曲の順位を発表する番組)のように必然的に特定の楽曲を利用する場合を除き,幅広い選択肢の中から楽曲を選んで利用すると述べる者もあって,放送事業者や番組の内容により大きく異なると認められる。そして,本件行為が独占禁止法第2条第5項にいう「他の事業者の事業活動を排除」する行為に該当するか否かは,「本件行為・・・が,・・・自らの市場支配力の形成,維持ないし強化という観点からみて正常な競争手段の範囲を逸脱するような人為性を有するものであり,競業者の・・・参入を著しく困難にするなどの効果を持つものといえるか否かによって決すべきものである」から(前記最高裁平成22年12月17日第二小法廷判決),上記のとおり被審人の本件行為が放送事業者による他の管理事業者の楽曲の利用を抑制する効果を有し,競業者の新規参入につき消極的要因になることから,放送等利用に係る管理楽曲の利用許諾分野における他の管理事業者の事業活動を排除する効果があると断定することができるかどうかは,本件行為に関する諸般の事情を総合的に考慮して検討する必要がある。」
「上記の諸般の事情としては,放送等利用に係る管理楽曲の利用許諾分野における市場の構造,音楽著作物の特性(代替性の有無,その程度等),競業者の動向,本件行為及びその効果についての被審人の認識,著作権者から音楽著作権の管理の委託を受けることを競う管理受託分野との関連性等,多様な事情が考えられるが,審査官は,イーライセンスが平成18年10月に放送等利用に係る管理事業を開始するに際し,被審人の本件行為が実際にイーライセンスの管理事業を困難にし,イーライセンスの参入を具体的に排除した等として,それを根拠に本件行為に排除効果があったと主張するので,以下,その主張の成否を検討する。」(42〜43頁)

と述べることにより、再び議論はスタートラインに。

そして、これに続いて、「FMラジオ局を中心とした放送事業者によるイーライセンス管理楽曲の利用回避の有無」について、大塚愛の「恋愛写真*3を素材に、放送局側の混乱を受けたイーライセンスの「無料化措置」の前後での放送回数等を比較しながら、以下のような結論を導いている。

大塚愛の「恋愛写真」については,それと同時期にCDが発売されて同程度のヒットとなった他の楽曲及び大塚愛自身の他の楽曲と比較して,遜色のない形で放送事業者による放送番組において利用されており,放送事業者に対する無料化措置の通知の前後において,その利用状況に格別の変化はなかったものと認められる。」(49頁)

さらに、これに続いて、

「イーライセンス管理楽曲全体について,平成18年10月から同年12月にかけて,広く利用されており,放送事業者に対する無料化措置の通知の前後において,その利用状況に特別な変化はなかったものと認められる。」(50頁)

という評価が下されたことで、審査官側の主張の論拠はかなり揺らいだ、といっても過言ではないだろう。

そして、これにとどめを刺したのが、JASRACのホームページや、各種報道でも伝えられた、「放送事業者の役職員の供述」の“コペルニクス的転回”である。

元々、問題とされていたのは、各放送局で、イーライセンス管理楽曲の使用について「使用料が別途発生する」ことについての注意を促す書面が配布されたことが、各担当者がイーライセンス楽曲を利用することに消極的な効果をもたらした、ということだったのだが、供述調書の中では「上記の『連絡票』の配布により,イーライセンス管理楽曲を放送で利用する場合には,番組制作費から放送等使用料を支出する必要があることが周知されたため,番組制作担当者に対してイーライセンス管理楽曲の利用を差し控えさせる効果があったことは結果として否定できない」と述べていたはずのテレビ朝日の担当者が、

(1)上記「連絡票」の趣旨は,イーライセンスが新たに放送等利用に係る管理事業を開始すること及びイーライセンス管理楽曲を利用する場合の具体的な手続等をあらかじめ社内に周知させ,番組制作担当者がイーライセンス管理楽曲を利用する場合に混乱が生じないようにする点にあった
(2)番組制作現場においてどの楽曲を利用するかは演出上の問題であり,それについて自分の地位にある者には口出しする権限はない
(3)「連絡票」により番組制作担当者がイーライセンス管理楽曲の利用を差し控えることはないと思う

と審判段階の陳述書、及び参考人審尋で供述するなど、放送局側の供述に基づく「利用が差し控えられた」という主張の根拠は、ことごとくひっくり返された(51〜59頁)。

唯一、利用を回避した、と認められたのはNACK5だったが、これについては、「イーライセンスが事前に挨拶に行かなかった」という「経営者間の軋轢」が利用回避の一因として認定されてしまっている(59頁)。

客観的な利用状況に加えて、放送局側の主観的な“証言”の信用性まで否定されてしまっては、もはや審査官としては立つ瀬がない*4

審判官はさらに畳み掛けるように、イーライセンスの管理楽曲の利用が進まなかった理由として、以下のようなストーリーを描いている。

「(1)イーライセンスが放送等利用に係る管理事業を開始した平成18年10月1日の時点では,民放連との合意ができておらず(形式的に合意書が作成されていないばかりか,実質的にもラジオ局の放送等使用料の額について合意できていなかった。),個々の放送事業者との間で利用許諾契約が全く締結されていなかったこと,(2)イーライセンスと民放連は平成18年10月31日にようやく合意書
を締結したが,その時点では,後に覚書で決定する予定の取扱基準,報告事項,放送事業者の類別等の内容について全く定まっておらず,したがって,この段階でも個々の放送事業者との利用許諾契約の締結は事実上不可能であったこと,また,個々の放送事業者の放送等使用料の額も定まっていなかったこと,(3)イーライセンスは,民放連に加盟する放送事業者に対し,同月上旬,民放連との合意に基づいて作成したとされる契約書案を送付したが,各放送事業者別の放送等使用料の額は定まっておらず,また,全曲報告が義務化され,報告義務に違反すると多額の放送等使用料を徴収すると記載されていたが,利用楽曲についての報告の様式も決まっていなかったこと,(4)他方,民放連は,(3)と同じ頃,各放送事業者に対し,イーライセンスとの合意書について交渉中である旨の文書を送付したこと, (5)イーライセンス管理楽曲のリストについても,短期間の間に,民放連に加盟する放送事業者に対して58曲リスト,60曲リスト,67曲リストの3種類が順に提示され,その中には管理楽曲に含まれるかどうかが予定や未定とされる楽曲が含まれていたほか,人気のある楽曲が差し替えられていたことが認められる。 」
「これらの事情及び証拠(略)によれば,多くの放送事業者は,平成18年10月1日以降,イーライセンスが放送等利用に係る管理事業に参入したことを知ったが,同年10月の時点では,イーライセンス管理楽曲の範囲が明確ではなく,これらを放送した場合の放送等使用料の額が不明であり,全曲報告に必要な報告の様式も定まっておらず,報告漏れがあった場合に高額の放送等使用料の支払義務を負う可能性があったことから,相当程度困惑し,混乱しており,それが前記(2)オの放送事業者によるイーライセンス管理楽曲の利用についての慎重な態度(ただし,前記のとおりNACK5を除いては,実際にどの程度利用が回避されたかは,証拠上明らかではない。)の原因となったことが認められる。」
「以上によれば,放送事業者がイーライセンス管理楽曲の利用につき慎重な態度をとったことの主たる原因が,被審人と放送事業者との間の包括徴収を内容とする利用許諾契約による追加負担の発生にあったと認めることはできず,むしろ,イーライセンスが準備不足の状態のまま放送等利用に係る管理事業に参入したため,放送事業者の間にイーライセンス管理楽曲の利用に関し,相当程度の困惑や混乱があったことがその主たる原因であったと認めるのが相当である。」(70〜71頁)

本件審判の直接の当事者ではないイーライセンスに関して、ここまでの事実を認定してしまうと、後々禍根を残すのではないか・・・ということすら気になってしまうような(イーライセンスにとっては)厳しい指摘なのだが、これもJASRAC側の執念の主張立証のたまものなのだろう。

かくして、審査官の主張の核心部分は完膚なきまでに打ち砕かれ、審判は、

「本件行為は,放送事業者が被審人以外の管理事業者の管理楽曲を利用することを抑制する効果を有し,競業者の新規参入について
消極的な要因となることは認められ,被審人が管理事業法の施行後も本件行為を継続したことにより,新規参入業者が現れなかったことが疑われるものの,本件行為が放送等利用に係る管理楽曲の利用許諾分野における他の管理事業者の事業活動を排除する効果を有するとまで断ずることは,なお困難である。」
「上記1のとおり,本件行為が他の管理事業者の事業活動を排除する効果を有することを認めるに足りる証拠はないから,その余の点について判断するまでもなく,本件行為が独占禁止法第2条第5項所定のいわゆる排除型私的独占に該当し,同法第3条の規定に違反するということはできない。」(80〜81頁)

と、微妙な留保を付しながらも、「排除措置命令を取り消す」という結論に一直線に向かうことになったのである。

未だ残るささやかな疑問

審査官が排除措置命令の最大の根拠とした、と思われる、「恋愛写真」等々の楽曲利用に係る事実がことごとくひっくり返ったこと、審査官が関係者の供述等から描こうとしていたストーリーが、審判廷でのJASRACの必死の主張立証の前に通用しなかったことが、上記のような結論をもたらした、そのこと自体には全く異論はない。

一方的な“取調べ”の下でなされる処分が、審判廷で公平な主張立証の機会を与えられることによって覆される、それこそが、本来の行政審判のあるべき姿だと思うし、そのような戦略を確実に遂行し、貼られそうになったレッテルを自らの手ではがしたJASRACに対しては、素直に称賛の声を送るべきだろうと思う。

ただ、裏返せば、上記のような主張立証の攻防と、それによる“逆転劇”があまりに鮮烈だったゆえに、本来、違反要件該当性を判断する上で考慮されるべき、他の要素(本審決においても、審判官の判断の冒頭部分で上げられているいくつかの要素)に対する言及が、いささかさらっとしたものになり過ぎている感があることは否めない。

例えば、イーライセンスの「その後」について、審決では「エイベックス・グループがイーライセンスに対する管理委託契約を解約した平成18年12月31日以降も、着実に管理楽曲数を増やしている」として、あまり問題意識を示していないが、委託契約を結んでいる音楽出版社はわずか6社、楽曲数も3,600曲程度(平成22年9月30日時点)で、代表曲が「まねきねこダックの歌」、というのでは、JASRACと到底まともに対抗できる状況とは言えないだろう*5

また、イーライセンス以外の管理事業者が放送等利用に係る管理事業に参入していない理由についても、

「放送番組における楽曲の利用形態が数秒の利用から1曲の利用までまちまちであること,放送事業者が多数存在し,放送事業者同士で放送番組の譲渡や系列局への配信などが行われていること,放送事業者の楽曲の管理の電子化は余り進んでいないことから,放送等利用に係る楽曲の管理は非常に煩瑣で費用がかかることが認められ,これが管理事業者の放送等利用に係る管理事業への参入を控えさせる効果を有していると認められる。」(78頁)

といったごくシンプルな検討だけで、JASRACの包括徴収方式との因果関係を否定しているように読める。

本件で争われた排除措置命令に対しては、「管理事業者が複数乱立することによって、一体誰が得をするのか?JASRACに一元化されていた方が、煩雑な事務手続も最小化できるから良いのではないか?」という「利用者側」の根底的な疑問が生じる余地があるように思われるし、そういった需要者サイドの思いが、「審査官の思惑を打ち砕く新証拠」として審判廷に出てきた、ということは否定できない事実であろう*6

それゆえ、本件に対する結論としては、これで良かったのではないかな、と思う一方で、純粋な独禁法的見地からの検討としては、いささか物足りない、というか、肩透かし的な印象を受けたのも確かで、今後、この審決が、著作権管理事業全般に関する前例になってしまうと、ちょっとどうなのかなぁ・・・と思うところはある*7

審決が断じたように、包括徴収方式が、他の管理事業者の市場参入を妨げる決定的な要因ではなく、将来的にイーライセンスやその他の管理事業者が、JASRACと互角に(かつ利用者にストレスを与えることなく)競争できるような時代が来れば、この審決も過去の懐かしい思い出として、振り返ることができるのだろうけど・・・。

*1:http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20120203/1328459438

*2:http://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/h24/jun/120614.html

*3:具体的な楽曲名をくどいくらい出してしまっているが、それくらい本審決において「恋愛写真」のインパクトは強いし、結論に与えた影響も大きい。まさか大塚愛も、こんなところで自分の名前が出てくるとは想像もしなかっただろうが・・・。

*4:ついでに言えば、当時はイーライセンス側にいたエイベックスの担当者も供述の信用性を自ら減殺する供述を、新たに提出した陳述書の中で行っているようである(60〜61頁)

*5:仮に平成18年時点の管理体制に問題があったとしても、その後4年経っている現時点では、もう少しましな状況になっていても不思議ではないはずなのだが・・・。

*6:JASRACの包括徴収方式が廃止されてしまうと、困る放送事業者やその他関係者は世の中にたくさんいるのである。あらゆる場面において、独禁法原理主義的な思考が常に優先することが良いことだとは、自分は思わない。

*7:本件はあくまで事実認定がメインの「事例審決」だから、別の場面で争われた場合には、また異なるアプローチで判断が下されることになるのだろうが・・・。

「下請法違反」多発の背景にあるもの。

ジュリスト6月号の特集「優越的地位の濫用とは?」がなかなか面白かったので、ご紹介しようと思っていたところで、タイミング良く日経紙の「法務インサイド」で「下請法」に関する記事が掲載された。

「小売企業が公正取引委員会から下請法違反で勧告を受ける事例が相次いでいる。ほとんどが「プライベートブランド(PB=自主企画)」商品の発注を巡るもの。発注が下請法の製造委託にあたることを知らず、通常取引と同じように発注後に値引きを求めた例が多い。中小企業を不利な取引から守る下請法について、小売りでは認知度が低いためだ。」(日本経済新聞2012年5月28日付け朝刊・第15面)

確かに、最近、小売業者の取引をめぐって、「下請法違反」の見出しが新聞上を賑わせることが最近とみに増えたし、データを見ても、2011年度中に公取委から勧告を受けた企業は18社、「代金減額」違反で、下請会社に返還されたのは、総額15億円超にも上るとのことである。

そして、上記記事の中では、「東京靴流通センター」のチヨダや、タカキュー等、勧告を受けた企業のコメントが紹介されるとともに、問題の本質を、

「小売業者の無知」(チヨダ取締役のコメント)

や、

「価格競争が進み、小売りがメーカーに独自商品を直接発注するという取引構造の変化の中で起きた現象の一つ。古い商習慣が時代と合わなくなっている面もある」(一橋大大学院・矢吹公敏弁護士のコメント)

という点に求めようとしている。
だが、本当にそういった事業者・業界側の構造的な問題だけに、最近の“不祥事多発”の原因は求められるものなのだろうか?

冒頭で紹介したジュリストの特集号記事を見ると、そんな一面的な見方にも疑念が湧いてくる。

ジュリスト6月号の特集で描かれている「規制」の姿

Jurist (ジュリスト) 2012年 06月号 [雑誌]

Jurist (ジュリスト) 2012年 06月号 [雑誌]

今年に入って、ビジネスロー専門誌の様相を呈し出したジュリスト・・・ということもあり、今号の特集も独禁法分野の中から特に、直近の改正で課徴金制裁が導入され、一躍実務での注目度が高まった「優越的地位濫用規制」にターゲットを絞ったものになっている。

そして、恐らくこの企画を取りまとめられたであろう、白石忠志東大教授のテーマへの問題意識がもっとも的確に反映されているのが、「優越的地位濫用をめぐる実務的課題」というタイトルの鼎談である*1

今や独禁法弁護士の第一人者として、華々しい活躍を遂げられている長澤弁護士が、規制に晒される企業側を代弁する形で論陣を張り、一方で任期付雇用で公取委実務を経験された伊永准教授が規制側の立場から論陣を張る、という分かりやすいコントラスト。そして、そのやりとりを通じて、下請法も含めた優越的地位濫用規制の目的と現状の問題点が浮き彫りになってくる、非常に有意義な座談会記事だ。

詳細については、直接購入して読んでいただくとして*2、ここでご紹介したいのは、独禁法上の「優越的濫用規制」と「下請法」の規制との関係に関する以下のくだりである。

独禁法の『濫用』の要件と下請法(下請代金支払遅延等防止法)4条の違反要件との間には違いがあるようです。」

と水を向ける白石教授に対し、長澤弁護士が、

「いちばん大きいのは、優越的地位濫用では相手方の意思に反しているかどうかが重要であるのに対し、下請法では相手方の意思が基本的には考慮されないという点だと思います。」
「下請事業者の責に帰すべき理由がない限りは、下請代金の減額は一律違法だという取扱いがなされています。相手方が真の自由意思に基づいて減額を了解している場合には、独禁法上は違法とはならないでしょうが、下請法では、いくら下請事業者の意思によるものであっても、代金の減額は違法となるのです。この問題について公取委と折衝していても、「『下請事業者の責に帰すべき理由』がない限り違反は違反です」と聞く耳を持ってくれないと言ってもいいぐらい、議論が噛み合わないところです。」
(以上、前掲22〜23頁)

と硬直的な公取委の運用を嘆くくだり・・・。
これは、今の下請法の実態を如実にあらわしている象徴的な場面だといえるだろう。

長澤弁護士はさらに、

「下請事業者が購入する原料価格が下がったこと等を受けた単価改定の合意に基づき、過去の取引に改定単価を遡及適用するケース」*3

や、

「取引の最初に締結した取引基本契約書の約定に基づき、一定の金額を手数料などの名目で代金から控除するケース」*4

といった、形式的に法令違反を問うような状況ではない場面でも、「公取委が一切抗弁を許してくれない」といった問題点を指摘している(前掲23頁)。

そして、白石教授がそれを引き取って、

独禁法の『濫用』の要件と下請法4条の禁止行為の要件を比べた場合、独禁法のほうが合理的に、様々な要素を考慮して答えを出すことになっているのに対して、下請法のほうが杓子定規というか、広めに硬い違反要件になってしまっているということですね。私も、例えば、公取委ウェブサイトの「東日本大震災に関連するQ&A」の問4で、親事業者の工場等が滅失した場合でも受領拒否は下請法違反だと書いていることに違和感を覚えました。」(前掲24頁)

とまとめている。

もちろん、下請法は、独禁法の下位規範というわけではなく、独立した立派な法律として存在するものだから、独禁法の違反要件とその違反要件が完全に合致する必要はないし、下請法において「下請事業者の保護」という(極めて政治的な要素を含む)独自の政策目的を踏まえて違反要件を定めることが法規制のあり方として誤っている、とまで言うことはできない*5

また、下請法第4条の条文を見ても、第1項では、「親事業者は、下請事業者に対し製造委託等をした場合は、次の各号(役務提供委託をした場合にあつては、第一号及び第四号を除く。)に掲げる行為をしてはならない」と一切の留保なく禁止行為を定める建てつけになっているし、第2項では「下請事業者の利益を不当に害してはならない。」という規制範囲を画する条項が一応入っているものの、少なくとも当事者の認識で適用の有無を決めるような立てつけにはなっていない。

そう考えると、「独禁法そのものとは違う法律なんだから、しょうがないでしょ。形式違反でもアウトなんだからつべこべ言わずに制裁受けて頂戴。」という公取委の言い分も理解できなくはない。

だが・・・

この座談会の中でも何度かでてくるように、「優越的地位濫用」類型の問題というのは、「本来は私人間の問題」であり、「裁判所で解決されるべき問題」だということに、疑いはないところだろう。

そして、長澤弁護士が主張されているように、

「(行政機関の父権的な)介入がお節介になりすぎると、本来の私的自治の大原則が制約されすぎてしまうという問題も他方で出てくるのではないか」(前掲17頁)

という危惧も当然出てくるところである*6

同じ特集の中で、これまた企業側の独禁法代理人として名高い多田敏明弁護士が、違反予防の観点から企業側に警鐘を鳴らしているように*7、「下請事業者=単なるコスト」という見方や、親事業者側のある種の甘えが、結果的に「うっかり違反」につながる、という側面があることは否定できないとしても、そもそも長年積み重ねられてきた企業間取引の実態とは合致しない「規制」を、さほど大きな議論も経ないまま、「下請法」というマイナーな法律(の改正)で導入してしまったことの問題点には、もう少し目を向けても良いのではなかろうか。

そして、(さすがにジュリストの特集の中ではここまで書く人はいなかった・・・、が)そういった規制が、親事業者にとってある種の「トラップ」として機能するたびに、結果として、「弱きを助け強きをくじくヒーロー」としての規制当局の権威強化が図られていく・・・ということも、看過されるべきではない。

下請法のみならず、優越的地位濫用、というか、独禁法そのものが十分に理解されておらず、「談合」、「カルテル」から、「下請いじめ」まで、とにかく“悪の権化”のようなフレーズと一緒こたにして認識されがちな世の中では、このジャンルの「違反」行為が報じられると、被疑企業側が必要以上に甚大なダメージを受ける、という現実もあるわけで、そういった観点からも、もっと規制のあり方をしっかりと考えていくべきではないかなぁ、と思わせてくれたジュリスト6月号の特集。

せめて「優越的地位濫用」のところだけでも問題意識を共有していただくべく、企業法務サイドの方々はもちろん、「報道」に携わる方々にも是非お勧めしたいところである*8

*1:白石忠志=長澤哲也=伊永大輔「優越的地位濫用をめぐる実務的課題」ジュリスト1442号16頁(2012年)

*2:ちなみに、この座談会以外にも、特集の多くが、多田敏明弁護士、平山賢太郎弁護士、梅澤拓弁護士、秋吉信彦裁判官、といった実務家の論稿で占められている、というのが、実務先行で動いているこの業界を象徴するようで、興味深いところである。

*3:この場合、原料価格低下の恩恵を受けている下請事業者自身も、当然だと思って合意するケースが多い。

*4:下請事業者の側も、当然控除されることを織り込んだ上で、単価を決めている。

*5:その意味で、かつて公取委が所管していた時代の景品表示法に近い位置づけの法律だといえるだろう。

*6:今号の特集の中では、これからの優越的地位濫用規制をめぐる「裁判所に対する期待」が随所に織り込まれているのだが、こと下請法に関しては、上記のような硬直的な法解釈が取られ続ける限り、裁判所への期待もへったくれもないだろう・・・と思う。

*7:多田敏明「下請法違反の予防のポイント」ジュリスト1442号38頁。どちらかといえば淡々と法令を順守するための注意点を記載しているこの稿だが、ところどころに、当局に対するチクリとした皮肉も入っており、これはこれで興味深い論文である。

*8:「法務インサイド」の記事が載った日の朝刊1面に「ジュリスト」の広告を載せている某紙の場合は特に・・・(笑)。

“エア規制”がもたらした結末〜ソーシャルゲーム業界の長い長い5日間

連休の間に書いた「コンプリートガチャ」関連のエントリー*1へのアクセスが、気がついたら物凄いことになっていて、改めてネット上の情報の伝播力の強さを思い知らされた*2

拙いエントリーに目を通していただいた皆様には、ただただ御礼を申し上げるほかないのだが、そうこうしているうちに、事態は風雲急を告げ、一気に決着を迎えようとしている。

ソーシャルゲーム(交流ゲーム)大手のディー・エヌ・エーDeNA)やグリーなど6社は9日、自社ゲームで「コンプリート(コンプ)ガチャ」と呼ばれるアイテム商法を5月末までに廃止すると発表した。消費者庁景品表示法に抵触する可能性を検討しているため。」(日本経済新聞2012年5月10日付け朝刊・第1面)

グリー、DeNA以外に名前が挙がったのは、ドワンゴミクシィといった「交流ゲーム運営4社」と開発会社2社だが、そんな運営会社らが、自ら「コンプリートガチャ」のシステムを廃止する、という急転直下の展開となった。

元々、世の中的には眉をひそめる人が多かったのがこの種の商法だけに、レピュテーションも考慮した経営判断として、ゲーム会社らが出した結論自体は理解できるところだが、一連の動きの中での消費者庁の動きには、いろいろ突っ込みどころがあるように思われる。

奇しくも、「全面廃止」のニュースが出される数時間前、9日の朝には、老舗ブログ「企業法務マンサバイバル」に、「コンプリートガチャ問題に対する行政指導のあり方について」というエントリー(http://blog.livedoor.jp/businesslaw/archives/52250075.html)がアップされていた。

ブログ主であるtac氏が自らのご経験も踏まえて書かれたであろう、“当局の恣意的な指導”への批判には、感じ入るところも多いのであるが、このブログでも、少し違う視点から、「5月5日の報道」以降の動きを追ってみることにしたい。

5月7日(月)

この数カ月の間、ずっとくすぶっていたネタとはいえ、

「『コンプガチャ』は違法なので行政指導します。もしかしたら、行政処分までしちゃうかも・・・って、消費者庁がそろそろ言いそう・・・」

という5日の各メディアの報道には、相当なインパクトがあった。

読売新聞の報道を皮切りに、テレビメディアから日経紙まで追随した5日〜6日にかけての報道の状況を見れば、上記報道の「確度」はかなり高いように思われたし、事柄のインパクトを考慮すれば、おそらく連休明け早々に、消費者庁から何らかの形で見解が示されるのだろう、というのが、一連の報道に接した自分の率直な印象だった。

だが、連休明けの7日。
朝から晩まで、関連する報道やらブログのエントリーやらが飛び交う中でも、一向に消費者庁の公式な動きは見えてこない*3

そして、そうこうしているうちに、ソーシャルゲーム二大巨頭のグリー、DeNAの株は猛烈な売り浴びせを食らうことになった。

運悪く、この日は、フランスとギリシャの不吉な選挙結果に脅えた米欧市場の煽りを受けたこともあって、日本の株式市場全体がヒドイ有様だったのだが(日経平均-2.78%)、それに輪をかけたストップ安。

グリー 1651円 ▼500円
DeNA  1990円 ▼500円

オリンパスの時もそうだったが、市場というのは、「何らかのマイナス要素がありそうだけど、どの程度の規模になるか分からない」という状況を一番嫌う。
そして、その結果、多くの個人投資家が、何もできないまま、指を加えて5万円吹っ飛んでしまうのを眺めるしかない・・・というツライ状況を生み出すことになってしまった。

5月8日(火)

続いて翌8日。

朝の時点での動きは、日経紙の朝刊の記事に、情報をリークしたと思われる消費者庁の担当者のお名前が乗ったことくらいだったが、昼前にかけて、松原仁内閣府特命担当大臣閣議後の記者会見のニュースが流れた。

今日アップされたと思われる当日の大臣の会見要旨(http://www.caa.go.jp/action/kaiken/d/120508d_kaiken.html)を見ると、実のところ、この時点では、大した発言は出ていない。

問「携帯電話のソーシャルゲームコンプリートガチャ」というものが問題になっていますけれども、消費者担当大臣としてのこれについての御認識を教えてください。」
答「まず個別の事例についてのお答えは基本的には差し控えておきたいと思っておりますが、一般論で申し上げますと、インターネット上のカードを複数揃えるとレアカードが当たる仕組みについては、これまで景品表示法に基づく措置をとった例はなく、景品表示法の規制が及ぶことを明確に示す運用基準等も存在をしておりません。そこでまず、本件に係る景品表示法上の考え方を可能な限り早期のうちに明らかにすることにより、事業者及び一般消費者に対し注意喚起をすることを検討いたしております。」

問「違法と、そして規制すると、そういう方向での検討ということでよろしいんでしょうか。」
答「まだそこの段階まで申し上げているわけではなくて景品表示法上の考え方を可能な限り早期のうちに明らかにして、事業者及び一般消費者に対し注意喚起することを検討しているということで、まず段取りとしては、そういった中で、様々な事業者から聞くというふうな作業もあろうかと思っております。」

問「景品表示法のカード合わせ、禁止されているカード合わせに当たるんじゃないかという見解を先般消費者庁長官が示しましたけれども、それについては大臣はどういうふうにお考えですか。」
答「その可能性はあるというふうに思っております。景品表示法では、二つ以上の種類の文字、絵、符号等を表示した符票のうち、異なる種類の符票の特定の組合せを提示させる方法、いわゆるカード合わせの方法を用いた懸賞による景品類の提供について、景品類の価額の大小を問わず禁止しております。一般論として、カードは有体物かインターネット上のものであるかに関わらず、カードを複数揃えるとレアカードが当たる仕組みについては、一般消費者に提供されるレアカードは、カード取引に顧客を誘引するための手段として、事業者が自己の供給するカードの取引に付随して相手方に提供する経済上の利益として、景品表示法の景品類に当たると認められます。その提供は、告示で禁止されているカード合わせの方法を用いた懸賞によるものであれば景品表示法上禁止される行為、つまりカード合わせの方法を用いた懸賞による景品類の提供に該当すると考えております、ということであります。」

問「そうすると、ただいまネット上に問題になっているコンプリートガチャはカード合わせに当たると考えていいんですよね。」
答「大体そういうことになろうかと思います。ただ、どちらにしても、もう少し会社側に対して調査といいますか、聞き取りをして判断をしていくということになろうと思います。」

とにかく、『コンプガチャは違法だ!』と大臣に言わせたくて必死な記者に対し、「一般論としては・・・」、「もう少し事業者に話を聞いてから・・・」と繰り返す大臣。

この後に続く記者の質問もかなり醜悪で、「何かのゲームで無駄金つぎ込んじゃった腹いせで質問しているのでは?」(笑)と揶揄したくなるような代物なのであるが、いずれにせよ、このトーンなら、事業者のヒアリングをして初めて“規制するかどうか”という話になるんじゃないの・・・?と思いたくなるような展開だった*4

だが、一部のメディアはそれでも「大臣が『コンプガチャ』の違法性に言及」という見出しを付けて情報を流す。

そして、その日の午後に行われたグリーの決算発表では、経営陣がもっぱら防戦一方。

業績的には、大幅な増収増益で、本来晴れやかな会見の場となっても不思議ではなかったのに、「CNET JAPAN」に掲載された会見録(http://japan.cnet.com/news/business/35016845/2/)によると、

記者:消費者担当大臣から、(コンプガチャは)射幸心をあおるという話が出たが、どのように受け止めているか。
山岸氏:現在消費者庁と連絡を取っている。詳細についてはコメントを差し控えさせていただきたいが、弊社としては、何らかの示唆や意見を頂いた場合は真摯(しんし)に対応していきたい。
田中氏:現在消費者庁はじめ関係団体と話させてもらいながら、何らかのご指摘、示唆があれば真摯(しんし)に対応したいと考えている。

記者:コンプガチャ以外にもいろいろな形態のガチャがある。何が問題と考えているか。
山岸氏:今消費者庁に問い合わせているので、コメントは差し控えさせていただく。ただ、ガチャ自体(コンプガチャだけではなく、ガチャという仕組み全体を指して)の問題ではない。

記者:違法性が示された場合、返還訴訟のリスクがある。これについてどう考えているか。
山岸氏:仮定の議論なので、現段階ではコメントを差し控えたい。

と、“憶測”に基づいた質問攻めの前に、閉口し気味な経営陣の様子が目に浮かぶようなやり取りになっている。

ソーシャルゲームに関しては、以前から「表示」規制に関する問題等もあったから、グリーと消費者庁の間には、それなりの連絡ルートはあったのだろうが、大臣の会見録を見ても、上記グリーの会見録を見ても、やはり5日の報道が“急転直下”だったのは否めないように思われるわけで、連休明けの1日ちょっとの間に確認できた情報だけで、決算発表会見に臨まなければいけなかったグリー関係者の気苦労は、察するに余りあるところ。

個人的には、いくら四半期決算の発表だとはいっても*5、『ガチャ』がこれだけ大きな話題になっている状況なのだから、せめて、説明資料にだけでも、もう少しリスク要素への説明を取り込んでも良かったのではないか、と思うところだが、自分が同じ立場だったら果たしてどこまで準備できたか・・・。

この危機的状況下で、挑発的な記者の質問を冷静にしのいだグリー経営陣には、敬意を表さねばならないように思う*6

結局、この日の株価は、

グリー 高値1727円 安値1380円(年初来安値) 終値1650円 ▼1円
DeNA 高値2043円 安値1700円(年初来安値) 終値1961円 ▼29円

と、激しく乱高下する展開になっている。

5月9日(水)

このような状況で迎えたのが、ソーシャルゲーム業界にとって大きな転機となったであろう、「5・9」である。

日経紙の電子版が、朝一番の配信で、「消費者庁、来週にも「コンプガチャ」違法見解」というタイトルで、消費者庁が「違法」と判断した根拠をかなり詳細に報道し、

「待ちの姿勢はDeNAも同じで沈黙を保っている。9日には福嶋浩彦消費者庁長官の会見があり、より踏み込んだ発言が予想される。同日はDeNAの決算発表の日でもある。創業者の南場智子取締役から手綱を受け取った守安功社長も「真摯に対応する」と繰り返すだけなのだろうか。その発言と対応が注目される。」

と、まるでDeNAを“挑発”するかのような記事を掲載していたのだが、そのような流れの中でDeNAは動いた。

この日、年度決算の発表日だったDeNAは、任意開示資料の1頁目に、「最近の報道に関して」という話題を持ってきて、現状(消費者庁から正式な要請等は受けていないが担当者レベルで意見交換中)及び今後の対応等に言及し*7、さらに「コンプガチャ」を順次する方針を明らかにしている。

さすがに、決算短信には間に合わなかったようで、「リスク要素」としても「後発事象」としても挙げられていないが*8、グリーよりも一日準備に時間が取れた、ということが、上記のようなささやかな“サービス”につながったのだと思われる。

そして、その後の大きな動き・・・。

グリーのHPに行くと、「コンプリートガチャの取り扱いに関するお知らせ」という2つのプレスリリースが掲載されている。

1つは、「6社共同」で発表されているリリース*9
そして、もう1つはグリーが単独で発表したもの。

中止の方針と、協議会でガイドラインを作るといった話を淡々と記載している6社共同プレスとは異なり、グリー単独のリリース*10には、

「当社としては、現行法上コンプガチャについては、ただちに違性があるものとは考えておりませんが、多くのお客様にご利用いただくサービスを提供する社会的責任を負う企業として、各方面からのご示唆を受けて、真摯に検討した結果、お客様に対するサービス内容の向上を図るため、停止することと致しました。」

と無念さを滲ませるようなコメントも載せられている。

この日行われた福嶋消費者庁長官の定例会見で、

「子どもが月数十万円も請求された例もある。一定の規制をしなければならない」

と、前日の大臣会見よりもさらに踏み込んだ話が出ていることを考えると、消費者庁との意見交換の中でもかなり強いトーンの“予告”がなされていたと思われるし、そのような状況では、自ら「中止」という判断をせざるを得なかったのだろうが、5日の報道から一週間の経過も待たないうちに、ここまであっさりとサービス中止の決断をするとは・・・と、何とも拍子抜けな展開だったのは間違いない。

ちなみに、この日の日中の株式市場では、

グリー 高値1607円 安値1460円 終値1491円 ▼159円
DeNA  高値1960円 安値1853円 終値1935円 ▼26円

と、再び株価下落に向かう雰囲気でもあったのだが、投資家にとっての“見えない不安”も、これでようやく収まることになった*11

おわりに

結局、消費者庁は何一つ具体的な規制・処分を行わないまま、運営事業者が自ら退場する、という極めて美味しい展開の恩恵に与ることになった。

事業者の「コンプガチャ」中止発表後も、「ガチャ自体が違法だ」と煽る雰囲気はまだ残っているから、今後の展開(消費者庁が予告している「見解発表」の中身も含め)については、まだ多少読めないところはあるが、少なくとも「ガチャ」そのものを、現在の日本の景表法(景品規制)の解釈で違法とするのは無理だと思われるから*12、今回の「中止発表」で消費者庁がもくろんでいた“規制”の目的は、事実上、ほぼすべて達成された、ということになる。

“やるぞやるぞ”とチラつかせたまま結局動かない、という今回の消費者庁の対応は、多少デフォルメされた言葉で表現するなら、まさに“エア規制”ということにでもなろうか。

もちろん、消費者庁とて、“ネコパンチ”で事業者をやっつけようと思っていたわけではなく、リークした時点でかなり綿密な理論武装ををしていたに違いない、と信じたいところではあるが、それでもこの数日間、情報が定かに見えない中、大手2社の株価が大きく下落したことなどを考えると、もう少し丁寧な進め方もあったのではないかな・・・と思うところは多々ある。

そして、今回の消費者庁の規制強化の方針については一応是認できるとしても、今回のようなやり方が踏襲されるような事態は、願わくば避けてほしい・・・というのが、消費者向けのビジネスを行っている事業者の共通する思いではなかろうか*13

規制するなら、正々堂々と手続きに則って調査を進め、法的根拠をしっかり示した上で、行政指導なり行政処分なりを出せばよい話なのであって、今回のようなやり方では、ユーザーにも株主にも混乱をもたらすだけ。
結局、誰も得をしないことになる・・・と思うので。

*1:http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20120505/1336243138

*2:ブックマーク数も、これまでの最多だった「鑑定証書事件」関連エントリーに対するそれ、を大きく超えてしまった・・・。

*3:ソースは定かではないが、一時「当局が報道を否定した」との情報も飛び交っていた。

*4:そして、こんなに何度も「事業者から話を聞く」という姿勢をアピールするのであれば、最初から唐突なリーク記事を出させるような真似はするなよ・・・という突っ込みも当然入れたくなるところである。

*5:同社は我が国では珍しい6月決算の会社なので、このタイミングで出たのは第3四半期決算である。

*6:なお、上に挙げた質問の中で、記者は「返還訴訟のリスク」を指摘しているが、まだ消費者庁の見解すら公式には示されていない段階で、何を答えろ、というのだろう。しかも、これまでの伝統的な考え方に則って考えるならば、景品表示法に違反したといっても、行政取締法規違反に過ぎないから、私法上の契約が無効となって、不当利得返還請求ができる、という結論が直ちに導かれるはずもない。

*7:http://v3.eir-parts.net/EIRNavi/DocumentNavigator/ENavigatorBody.aspx?cat=ir_material&sid=15330&code=2432&ln=ja&tlang=ja&tcat=ir_material&disp=simple&groupsid=4652

*8:http://v3.eir-parts.net/EIRNavi/DocumentNavigator/ENavigatorBody.aspx?cat=tdnet&sid=971067&code=2432&ln=ja&disp=simple

*9:http://www.gree.co.jp/news/press/2012/0509_02.html

*10:http://v3.eir-parts.net/EIR/View.aspx?cat=tdnet&sid=971483

*11:その結果、10日の株式市場では、両社とも大きく値を戻すことになった。

*12:「射倖性があるから」どうこう、という議論は良く見かけるが、今の日本では「射倖性がある」という一事をもって規制の対象とするようなことにはなっていない(それを言ったら、そもそも全ての「懸賞」に認められる余地がなくなってしまう)わけで、射倖性がある類型の中でも、特に政策的な必要性が認められるものだけを規制しているに過ぎない。そして、普通の「ガチャ」は少なくとも景表法上は「政策的な規制」の対象とはなっていない。

*13:リークで世論と相場を操るのは警察と検察だけで十分だ。

景表法は変質したのか?〜「コンプリートガチャ」規制をめぐって。

「こどもの日」に合わせるかのように、突如ニュースが流れた「『コンプリートガチャ景品表示法違反」問題。

読売新聞のニュースサイトによると、

「携帯電話で遊べる「グリー」や「モバゲー」などのソーシャルゲームの高額課金問題をめぐり、消費者庁は、特定のカードをそろえると希少アイテムが当たる「コンプリート(コンプ)ガチャ」と呼ばれる商法について景品表示法で禁じる懸賞に当たると判断、近く見解を公表する。」

http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20120504-OYT1T00821.htm


ということで、

「同庁は業界団体を通じ、ゲーム会社にこの手法を中止するよう要請し、会社側が応じない場合は、景表法の措置命令を出す

方針ということだから、ことは穏やかではない。

当事者企業にとっては、ビジネスモデルが揺らぐような一大事であるにもかかわらず、法令上の根拠も明示されないまま、“観測記事”が乱れ飛ぶ*1というのは、あまり好ましいこととは思えないのだが、前々から随所で指摘されていた話、ということもあるので、そこはひとまず置いておく。

問題は、今回報じられている規制が、どういう根拠に基づき、何を目的に行われるものなのか、ということだ。

コンプリートガチャ」規制の法的根拠

この点については、ネットユーザーの関心が高いゲームに関する話題、ということもあり、以前から、既にあちこちのブログ等に分析記事がエントリーされているのを見ることができる*2

そして、そこで多くの方々が分析されているとおり、景表法第3条に基づく「懸賞による景品類の提供に関する事項の制限」という告示*3の中の、

1 この告示において「懸賞」とは、次に掲げる方法によつて景品類の提供の相手方又は提供する景品類の価額を定めることをいう。
一 くじその他偶然性を利用して定める方法
二 特定の行為の優劣又は正誤によつて定める方法
(中略)
5 前三項の規定にかかわらず、二以上の種類の文字、絵、符号等を表示した符票のうち、異なる種類の符票の特定の組合せを提示させる方法を用いた懸賞による景品類の提供は、してはならない。

という規定に着目して、

コンプリートガチャ」は、「二以上の異なる種類の符票の特定の組み合わせを提示させる方法を用いた懸賞(偶然性を利用して景品類の提供の相手方・価額を定めること)による景品類の提供」に該当する → ゆえに違法

という論理で規制する、という考え方は、大方間違いではないように思われる。

もちろん、この点については、「カードを揃えてもらえるアイテム等が、そもそも『景品類』にあたるのか?」という有力な反論もあることは周知のとおりで、先月日経紙で特集が組まれた際にも、

「アイテムは経済上の利益ではなく、景品に該当しない」

というゲーム会社側の声が紹介されていた*4

だが、景表法第2条3項*5を受けて出されている「不当景品類及び不当表示防止法第二条の規定により景品類及び表示を指定する件」という告示*6及びそれを受けて出された通達である「景品類等の指定の告示の運用基準について」*7の、

5「物品,金銭その他の経済上の利益」について
(1) 事業者が,そのための特段の出費を要しないで提供できる物品等であっても,又は市販されていない物品等であっても,提供を受ける者の側からみて,通常,経済的対価を支払って取得すると認められるものは,「経済上の利益」に含まれる。ただし,経済的対価を支払って取得すると認められないもの(例 表彰状,表彰盾,表彰バッジ,トロフィー等のように相手方の名誉を表するもの)は,「経済上の利益」に含まれない。

といった記載を見る限り、ゲーム会社側の弁解は少し苦しいのでは?と言わざるを得ない*8

また、「レアアイテム」そのものは「景品類」だとしても、それを得るための「カード」は取引によって「購入」するものであって「景品類」ではない、と考えれば、「景品類の提供」に「偶然性」が入り込む余地はなく*9、「コンプリートガチャ」は「懸賞による景品類の提供」にあたらない、という理屈を立てることも一応は可能かもしれないが、それが実態にあっているかどうかは、疑問もある。

上記日経紙の記事にもあるとおり、ここは、

「何が『本来の取引』か、『経済上の利益』をどう考えるかで結論が変わってくる」

ということになるため、最終的には当局の公式発表を待たないことには何とも言えないのだが、いずれにせよ、ここしばらく騒がれ続けていたモバイルゲームの「高額課金」問題に、景表法(景品規制)的アプローチから消費者庁が規制をかける姿勢を明白にした、という事実に変わりはない。

そして、なぜ消費者庁が景表法を発動することになったのか、というのが次のポイントである。

景表法による規制の目的はどこにある・・・?

さて、この「コンプリートガチャ」問題が景品規制の文脈で話題にされ始めた頃に自分が思ったのは、

「そもそも景表法って、何のために景品規制をかけているんだっけ?」

ということ。

「高額課金問題」と合わせてよく指摘されるのは、「賭博」性の強さだが、当然ながら「賭博」を規制するのは警察の仕事であって、景表法の領域でどうこういう話ではない。

また、「射倖心を煽ることを防ぐ」というレベルであれば、当然景表法の規制目的に入ってくるのであるが、かつて、景表法の第1条の条文が、

「この法律は、商品及び役務の取引に関連する不当な景品類及び表示による顧客の誘引を防止するため、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和22年法律第54号)の特例を定めることにより、公正な競争を確保し、もつて一般消費者の利益を保護することを目的とする。」

と定められていた頃*10であれば、

「不当景品類が規制される趣旨は、独禁法において不正手段が規制される趣旨と同様である。すなわち、競争とは供給者の価格や品質などの競争変数が需要者にありのままに伝わることを大前提としているのであって、景品類が需要者の射倖心を煽ってその判断力を麻痺させ需要者が商品役務の競争変数を見ながら冷静に判断できなくなることは、防止されなければならない、ということである」(白石忠志『独占禁止法』168頁(2006年、有斐閣))

と、あくまで「供給者側の競争」を意識した上での解釈が有力だったから*11、どこか一社が導入してからあっという間に競合他社にまで広まった*12、「コンプリートガチャ」のような景品提供システムの場合、

「供給者側の参入コストが必ずしも大きなものではないため、仮に「需要者の射倖心が煽られた」としても、供給者側の競争条件はそんなに変わらない。」
  ↓
「むしろ、ゲームの一部としての「レアアイテム」の稀少性を競い合うことによる供給者間の“競争促進的な効用”すら期待できるため、景品規制の対象とするのは適切ではない」*13

といった議論すら、出てくる余地があったのではないか、と思われる*14

だが、どうも時代は変わったようだ。

景表法の所管が消費者庁に移り、第1条の条文も、

「この法律は、商品及び役務の取引に関連する不当な景品類及び表示による顧客の誘引を防止するため、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれのある行為の制限及び禁止について定めることにより、一般消費者の利益を保護することを目的とする。」

と、専ら消費者の利益保護のみをカバーするかのような内容に改められた。

「改正後も規制の実質的な対象範囲は変わらない」というのが当局の公式見解のようだし*15、先に規制の根拠として挙げた「告示」等は、公取委が所管していた時代のものから、改められたわけではない。

しかし、「高額の料金を請求された」という当局の申告部署への苦情、そして、未成年への課金制限等の流れと歩調を合わせるような形で、短期間の間に今回の「景品規制」の話が出てきたことを考えると、

「規制の網が敷かれている様々な景品類のうち、何をターゲットにして規制をかけるか?」

という点における当局のマインドは、やっぱり変わっているのかな・・・? と思わざるを得ない。


所詮は、多くの会社のビジネスには無縁な「ゲーム」の中の“あまり美しくないシステム”の話で、利害関係を有している会社も産業界に味方が少ない新興ネットゲーム会社(&その外注先)くらいだ・・・と割り切って考えてしまえば、今回のニュースも、傍観者として拍手を送るか、あるいは“ネタ”として聞き流すくらいのものにしかならないのかもしれないけれど、

「消費者保護」を錦の御旗とした“不意打ち規制”*16、いつ何時行われるか分からない

という事例として見た時には、明日は我が身、ということもある。

それゆえ、今後の展開について、それを伝えるメディアの動向ともども、もう少し見守っていきたいところである。

*1:読売、産経に続き、日経までほぼ同内容の記事を流しているので、おそらく当局サイドの確かな筋からの情報なのだろうが・・・。

*2:中には、Q&Aサイトを使って、「なぜ違法でないのか」から「なぜ違法となるのか」の立論まで一人でやってしまっている御方までいる(笑)(http://www.mag2qa.com/qa7458988.html)。

*3:http://www.caa.go.jp/representation/pdf/100121premiums_8.pdf

*4:日本経済新聞2012年4月16日付け朝刊・第19面。

*5:「この法律で「景品類」とは、顧客を誘引するための手段として、その方法が直接的であるか間接的であるかを問わず、くじの方法によるかどうかを問わず、事業者が自己の供給する商品又は役務の取引(不動産に関する取引を含む。以下同じ。)に付随して相手方に提供する物品、金銭その他の経済上の利益であつて、内閣総理大臣が指定するものをいう。」

*6:http://www.caa.go.jp/representation/pdf/100121premiums_6.pdf

*7:http://www.caa.go.jp/representation/pdf/100121premiums_20.pdf

*8:「レアアイテム」の流通市場が存在して高値で取引されているような場合はもちろんのこと、そういう場合でなくても、“普通にゲームをしているだけでは入手できないもの”で、“仮に市場が存在したら有償で取引される”ようなものであれば、社会通念上「何らかの経済的対価を支払って取得するもの」と認められるのではないかと思われる。

*9:この場合、必要なカードを全て「購入」するという条件を満たして初めて景品類との引き換えが可能になるため、「懸賞」ではなくむしろ「ベタ付け」の景品類と位置付けられる、と考えることになろう。

*10:http://warp.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/286894/www.jftc.go.jp/keihyo/files/1/keihyohou.html

*11:実際に処分が出されることはめったにないが、一見需要者にとっては美味しいことだらけのように思える“高額景品“に対しても規制が設けられている(金額上限等についても告示等で明確に定められており、大盤振る舞いで顧客を誘引したい事業者にとっては結構厳しい)のは、その辺りの精神に由来するものであることは明らかであろう。

*12:最近では、SNSゲーム大手だけでなく、“国盗り”のような、ほのぼのとした動きの少ない携帯サイトでも似たような企画が導入されている。

*13:白石教授は、上記制度趣旨の解説に続いて「立法論的には、需要者が冷静さを失うことが少なくなったという認識が強くなったり、景品類を付けることによる競争促進的な効用が重視されるようになったりした際には、景品類の規制は緩和されることになる」と書かれている(168頁)。

*14:そこまで極端な話にはならなくても、当時の公取委であれば、直ちに景表法で規制すべし、という話にはならなかったのでは?という気がしてならない。

*15:http://www.caa.go.jp/representation/pdf/090927premiums_3.pdf

*16:文言解釈としての妥当性はともかく、告示が出された時に存在していなかった態様の「景品提供システム」に対して、これまで突き詰めた議論がそんなに行われてきたわけでもない「カード合わせ」に関する規定が適用される、ということのリスクについては、一度冷静に考えてみた方が良いように思う。

寝た子を起こしてしまった東電値上げ騒動。

先日、いろいろと問題点を指摘した東京電力の値上げ問題だが*1、約款取引に関する問題点だけでなく、独禁法上の問題にまで踏み込んだ議論が広まっていく気配を見せている。

「川口商工会議所(埼玉県川口市、児玉洋介会頭)は11日、東京電力独占禁止法に違反(優越的地位の乱用)しているとして公正取引委員会に申告した。東電が優越的地位を利用し、企業などに対して電気料金を一方的に引き上げたことが不公正な取引行為に該当すると主張している」(日本経済新聞2012年4月12日付け朝刊・第5面)

これに遡ること数日前、公取委の方でも「電力市場における競争実態」について、意見募集を開始したばかり。

思えばこの業界、かつての独禁法改正で、独禁法適用除外の対象から「電力事業」が除かれ、競争法の規律が適用されるようになって以降も、長らく各事業者が「地域独占」の恩恵を享受していたように思う。

もちろん、形式的には自由化部門における他の電力事業者との「競争」が存在するし、“オール電化”のような分野での他のエネルギー事業者との「競争」も存在する。

しかし、一般電気事業者が圧倒的に大きなシェアを握っている状況において、本来の意味での“競争”が成り立っている、と言い切れるかは疑問もあった中で、「料金値上げ」をめぐる一連の経緯が、この業界における「独占」の弊害に改めて目を向けさせ、独禁法上の様々な問題点に目を向けるきっかけを招いてしまった・・・というのは、何とも皮肉なことというほかない。


ちなみに、記事によれば商工会議所は、「電気料金の一方的引き上げ」を「優越的地位の濫用」に関する違反被疑事実として「申告」したようであるが、元々、法2条9項5号に定められた以下の違反要件に、今回の値上げがあてはまるか、といえばよく分からないところもある。

5.自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して、正常な商慣習に照らして不当に、次のいずれかに該当する行為をすること。
イ 継続して取引する相手方(新たに継続して取引しようとする相手方を含む。ロにおいて同じ。)に対して、当該取引に係る商品又は役務以外の商品又は役務を購入させること。
ロ 継続して取引する相手方に対して、自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること。
ハ 取引の相手方からの取引に係る商品の受領を拒み、取引の相手方から取引に係る商品を受領した後当該商品を当該取引の相手方に引き取らせ、取引の相手方に対して取引の対価の支払を遅らせ、若しくはその額を減じ、その他取引の相手方に不利益となるように取引の条件を設定し、若しくは変更し、又は取引を実施すること。

おそらく、問題になるのは「ハ」の要件で、公取委が出している「優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」(平成22年11月30日付)*2の以下の記載が解釈の参考になると思われる。

(5) その他取引の相手方に不利益となる取引条件の設定等
 前記第4の1,第4の2及び第4の3(1)から(4)までの行為類型に該当しない場合であっても,取引上の地位が優越している事業者が,取引の相手方に正常な商慣習に照らして不当に不利益となるように取引の条件を設定し,若しくは変更し,又は取引を実施する場合には,優越的地位の濫用として問題となる。
 一般に取引の条件等に係る交渉が十分に行われないときには,取引の相手方は,取引の条件等が一方的に決定されたものと認識しがちである。よって,取引上優越した地位にある事業者は,取引の条件等を取引の相手方に提示する際,当該条件等を提示した理由について,当該取引の相手方へ十分に説明することが望ましい。
ア 取引の対価の一方的決定
(ア) 取引上の地位が相手方に優越している事業者が,取引の相手方に対し,一方的に,著しく低い対価又は著しく高い対価での取引を要請する場合であって,当該取引の相手方が,今後の取引に与える影響等を懸念して当該要請を受け入れざるを得ない場合には,正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることとなり,優越的地位の濫用として問題となる(注25)。この判断に当たっては,対価の決定に当たり取引の相手方と十分な協議が行われたかどうか等の対価の決定方法のほか,他の取引の相手方の対価と比べて差別的であるかどうか,取引の相手方の仕入価格を下回るものであるかどうか,通常の購入価格又は販売価格との乖離の状況,取引の対象となる商品又は役務の需給関係等を勘案して総合的に判断する
(注25)取引の対価の一方的決定は,独占禁止法第2条第9項第5号ハの「取引の相手方に不利益となるように取引の条件を設定(中略)すること。」に該当する。
(イ) 他方,(1)要請のあった対価で取引を行おうとする同業者が他に存在すること等を理由として,低い対価又は高い対価で取引するように要請することが,対価に係る交渉の一環として行われるものであって,その額が需給関係を反映したものであると認められる場合,(2)ある品目について,セール等を行うために通常よりも大量に仕入れる目的で,通常の購入価格よりも低い価格で購入する場合(いわゆるボリュームディスカウント)など取引条件の違いを正当に反映したものであると認められる場合には,正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることとならず,優越的地位の濫用の問題とはならない。
<想定例>
(1)多量の発注を前提として取引の相手方から提示された単価を,少量しか発注しない場合の単価として一方的に定めること。
(2)納期までの期間が短い発注を行ったため,取引の相手方の人件費等のコストが大幅に増加したにもかかわらず,通常の納期で発注した場合の単価と同一の単価を一方的に定めること。
(3)通常の発注内容にない特別の仕様を指示したり,配送頻度の変更を指示したりするなどしたため,取引の相手方の作業量が増加し,当該取引の相手方の人件費等のコストが大幅に増加したにもかかわらず,通常の発注内容の場合の単
価と同一の単価を一方的に定めること。
(4)自己の予算単価のみを基準として,一方的に通常の価格より著しく低い又は著しく高い単価を定めること。
(5)一部の取引の相手方と協議して決めた単価若しくは不合理な基準で算定した単価を他の取引の相手方との単価改定に用いること,又は取引の相手方のコスト減少を理由としない定期的な単価改定を行うことにより,一律に一定比率で単価を引き下げ若しくは引き上げて,一方的に通常の価格より著しく低い若しくは著しく高い単価を定めること。
(6)発注量,配送方法,決済方法,返品の可否等の取引条件に照らして合理的な理由がないにもかかわらず特定の取引の相手方を差別して取り扱い,他の取引の相手方より著しく低い又は著しく高い対価の額を一方的に定めること。
(7)セールに供する商品について,納入業者と協議することなく,納入業者の仕入価格を下回る納入価格を定め,その価格で納入するよう一方的に指示して,自己の通常の納入価格に比べて著しく低い価格をもって納入させること。
(8)原材料等の値上がりや部品の品質改良等に伴う研究開発費の増加,環境規制への対策などにより,取引の相手方のコストが大幅に増加したにもかかわらず,従来の単価と同一の単価を一方的に定めること。
(9)ある店舗の新規オープンセールを行う場合に,当該店舗への納入価格のみならず,自己が全国展開している全店舗への納入価格についても,著しく低い納入価格を一方的に定めること。
(10)取引の相手方から,社外秘である製造原価計算資料,労務管理関係資料等を提出させ,当該資料を分析し,「利益率が高いので値下げに応じられるはず」などと主張し,著しく低い納入価格を一方的に定めること。
<具体例>
X社は,年2回行われる特別感謝セール及び年間約50回行われる火曜特売セールに際し,一部の店舗において,売上げ増加等を図るため,当該店舗の仕入担当者から,仲卸業者に対し,当該セールの用に供する青果物について,あらかじめ仲卸業者との間で納入価格について協議することなく,例えば,火曜特売セールの前日等に,チラシに掲載する大根,きゅうり,トマト等の目玉商品を連絡し,同商品について仲卸業者の仕入価格を下回る価格で納入するよう一方的に指示する等して,当該セールの用に供する青果物と等級,産地等からみて同種の商品の一般の卸売価格に比べて著しく低い価格をもって通常時に比べ多量に納入するよう要請している。この要請を受けた仲卸業者の多くは,X社との納入取引を継続して行う立場上,その要請に応じることを余儀なくされている(平成17年1月7日勧告審決・平成16年(勧)第34号)。

これを見ると、確かに「高い対価での取引要請」が「優越的地位の濫用」に該当する余地はあり、電力事業者との取引の必要不可欠性や、“対価が一方的に決定された”というこれまでの一連の経緯も、該当性を裏付ける要素となりうると考えられるものの、一方で、対価の引き上げが全ての大口需要家を対象としていることや、値上げそのものに発電コストの上昇や需要逼迫等を踏まえた相応の根拠があること*3、といった要素が逆方向に働く可能性もあるように思われ、直ちに結論は出しづらい*4

何より、これまで「優越的地位の濫用」事例において問題とされてきたのは、いわゆる“買い叩き“事例であったり、本来的な取引に付随する商品・役務の提供、といった事例であり、本件のような「値上げ」事例が取り上げられたケースを目にすることは少ない、ということが、公取委の最終的な結論を見えにくくしているように思う。

過去に公取委経産省が出している「適正な電力取引についての指針」という独禁法上のガイドライン*5においても、問題視されているのは専ら競争相手となる独立系小売電力事業者を排除するための「不当廉売」や「(料金引き下げ方向での)差別的価格設定」だったりするわけで、大手電力事業者が「値上げ」する、ということは、むしろ“新規事業者参入の好機”ということで、独禁法当局的には歓迎(?)されていたきらいもある。

問題の本質は、東電の料金大幅引き上げ、という事態になっても、その間隙を埋めるような独立系事業者が市場で十分な存在感を発揮できていないことにあり、今後の公取委の介入も、そういった“競争環境の整備“に焦点を当てて行われるのではないか、と思うのだが、そのような観点から、上記のような商工会議所の「申告」をどのように位置づけるか、というのは難しいところだろう。

これだけ大々的に報道されている以上、おそらく公取委の側でも何らかのアクションをせざるを得ないだろうが、「安定的な電力供給」と、「需要家の保護」/「競争事業者の保護」のバランス、という国の行く末を左右するような大問題に対して、当局がどのような裁きを見せるのか、注目したいところである。

*1:http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20120328/1333188920

*2:http://www.jftc.go.jp/dk/yuuetsutekichii.pdf、21〜23頁。

*3:この点については、あくまで東電が合理的な根拠の存在を立証できれば、という前提付きだが。

*4:そもそも、契約条件の決定においては、事業者の自由が何よりも尊重されるべきであり、安易に外側からの規制を及ぼすべきではない、というのは当然の理であろう。約款による取引を行っている以上、“一方的決定”のような様相を呈することになってしまうのもやむを得ない、という側面もある。この辺りは、先日のエントリーで取り上げた約款取引そのものの妥当性の議論につながる可能性もあり、事業者としては悩ましいところなのは間違いないところだが・・・。

*5:http://www.meti.go.jp/press/20090331015/20090331015-2.pdf、平成21年3月31日改訂。

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