市場を壊したのは誰か?

前日のエントリーに関連して、
興味深い記事を見つけた。
http://www.mainichi-msn.co.jp/today/news/20060119k0000e030045000c.html

「東京発の記事は、日本のテレビや新聞が株式市場を駆使して急成長したライブドア堀江貴文社長を「成り上がり者」とみていると指摘。捜査について「市場に横行する『灰色手法』に、司法の観点から明確な線を引く端緒になることを期待したい」と評した日本の新聞記事を引用した。」
「さらに、ライブドアによるニッポン放送株をめぐるフジテレビとの争奪戦などで「日本のビジネスリーダーから激しい批判が起こった」と指摘。多くの日本人が「捜査の背景について、エスタブリッシュメント(既成体制)に挑戦しようとする成り上がり者を懲らしめようとする政治的意図があるのではないかと考えている」と分析した。」(毎日新聞)(太字筆者)

これは、ニューヨーク・タイムズ紙の記事を紹介したものだが、
フィナンシャル・タイムズ紙にも
「堀江氏のような人、日本には必要」という社説が掲載されていたようである。
http://markets.nikkei.co.jp/special/sp020.cfm?id=d2m1800l18&date=20060118
日経新聞社のサイトより)


自分が指摘したのは、まさにこの「政治的意図」だったのだが、
日本のメディアの中に、この視点から問題を分析しようとする姿勢が
あまりに乏しい、という現実が残念でならない。


新聞には「買収めぐり虚偽公表」「ライブドア粉飾決算
といった派手な見出しが載るが、
肝心の記事の中身になると、そもそもどのような手口が使われたのか、
いい加減な解説しかなされていない。


後述するように、今回問題になっている取引は、
法規制を上手くかいくぐった非常にテクニカルなものである。
この手の取引に関しては素人の新聞記者が、
どこまで問題の本質を理解しているかは疑わしい。


各紙とも内容に大差ないところを見ると、
おそらく当局が小出しにしている情報を
一方的に垂れ流しているだけなのだろう。


テレビに至ってはもっと酷い。
取材する側も素人なら、スタジオコメンテーターは“ど素人”である。


株式交換」の意味すら分かってないと思われる人々が、
「胡散臭いヤツだと思ってたがやっぱりとんでもない奴だった」
粉飾決算なんて悪質なことをするのは許せない」的なコメントを
垂れ流しているのを見ると、虫唾が走る。


エスタブリッシュな面々は、
皆、市場が壊れた責任をライブドアに押し付けようとしているが、
果たしてそうだろうか?


「経営陣が逮捕されれば」「事実関係が明らかになれば」
「いつでもライブドア上場廃止にできる」
と豪語した、東証西室泰三会長兼社長。


どうも、ライブドア上場廃止にしたくて仕方がないらしい。
所詮は、大企業・東芝出身のエスタブリッシュメントだから、
ある意味当然なのかもしれない。


だが、18日午後の売買全面停止を招いた原因は、
明らかに東証のシステムの脆弱性にある。
中途半端に売買停止をちらつかせて、
かえって狼狽売りを加速させた責任は重い。
それを棚に上げて、ライブドアの批判などしても始まらない。


そもそも、取引所のトップが「上場廃止」という
センシティブな問題について、軽々しく発言をすること自体問題だろう。
余計に素人投資家をパニックに起こさせるだけだろうに・・・。


数多ある証券会社に責任はないのか?


大して資産も持っていないのに信用取引に手を出していた
投資家については、「自己責任」という言葉があてはまるにしても*1
一時的な“暴落”局面で株式を売ってしまった*2
投資経験の乏しい個人投資家たちをミスリードしたのは、
騒ぎに乗じて売りを浴びせた証券会社のディーラー達ではないか?


昨日までの暴落と今日の急騰の流れに上手くのって、
密かに自己売買部門を潤わせた証券会社は多数あるはずだ。
だが、なけなしの資金を失った個人投資家は、
そう簡単に市場には戻ってこれないだろう。


東京地検


今報道されている事実より、
もっと大きな“疑惑”を押さえている可能性はあるから、
現時点で、地検に対する批判をするのは筋違いなのは承知している。


落合弁護士のブログ(http://d.hatena.ne.jp/yjochi/)に、
「国滅ぶとも正義は行われるべし」という言葉が引用されているが、
実際、そうあるべきだと自分も思う*3


だが、なぜ、強制捜索に入ったのが月曜日の夜だったのか?


本件のような、市場に大きな影響を及ぼすことが予測される事件であれば、
金曜日の15時以降、週末にかけて捜査を開始するのが常道ではないのか?


市場に及ぼす影響にまで思い至らなかったのであれば、
「世間知らず」との批判を浴びても仕方ないだろう。


一部では、ヒューザー社長の証人喚問のニュース性を殺ぐために*4
あえてここに捜査をぶつけた、という陰謀論までささやかれている。


検察の方々には、「正義を貫く」以外の意図はなかったとしても、
そのような「正義感」が、良からぬ思惑を抱く者達に利用されるおそれが
ないとはいえない。


少なくとも、ライブドア・ショックで、
多くの人々がパニックに陥っていた裏で、
笑っていた者は少なからずいたはずだ。


こう考えていくと、
ライブドアが市場を壊した」という批判は、
必ずしも的を射たものとはいえないように思われる。


決してメディアに取り上げられることはないのかもしれないが、
世の潮流に対するささやかな抵抗として、
以上、記しておくことにする。

*1:一部では、ライブドア株の担保価値をゼロにしたマネックス証券を批判する声もあるようだが、信用力の乏しい個人を相手にする中小証券会社としては、やむを得ない選択だったといわざるを得ない。

*2:実体経済が悪化したわけではないのだから、じっとしていれば損失は最小限に食い止められただろうに・・・。

*3:仕事がら、「会社滅ぶとも正義は行われるべし」とでも言い換えたいところだ。

*4:次期首相候補の秘書の名前が挙がって騒がれる事を防ぐ等々の目的が指摘されている。

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