プライムより、プレミア?

月初めの記事*1でも触れたところだが、10月に入り、いよいよ来春の東証新市場区分に向けた様々なリリースが世に出てくるようになってきている。

今ちょうどピークを迎えつつある2月期決算会社(含む5月期、8月期、11月期・・・)が、決算短信発表に合わせて市場選択手続き完了のリリースを出すパターンもあれば、通常の取締役会のタイミングに合わせて公表する会社もあり、また、選択する市場もプライムからスタンダード、グロースまで実に様々。

ざっと見た限りでは一部基準不適合を表明している会社は全体の1割程度*2で、残りの9割方の会社は、淡々と「東証の一次判定結果を踏まえて、○○市場を選択しました」というリリースを出している。

ただ、注目すべきは、ここに来て「東証第一部」所属の会社ながら、「スタンダード市場」を淡々と選択する会社もチラホラみられるようになってきたことで、9月初めの日本基礎技術㈱を皮切りに*3、既にこのパターンの会社は10社を超えてきている。

そういった会社の中には、(6月末に比べれば、全体的に株価水準が上がっている)現在の株価を基準としても、この時価総額だとちょっときついかな・・・という会社もあれば、日本オラクルのように時価総額は申し分ないが会社の位置づけ上、流通株式比率を増やすわけにはいかない、という会社や、基準はクリアできてもあえて「プライム」に移行する意義を見出さなかったのだろうな、と思えるような会社もある。

「今、東証一部にいる会社なら、計画書さえ整えれば、余裕でプライムに移行できる」というムードも漂う中、相当数の株主も抱える会社が、あえてスタンダード市場を選ぶのはそれはそれで勇気のいる話だと個人的には思うのだが、そこからうかがえるそれぞれの会社の”思想”に思いを馳せることで、「会社は何のため、誰のために存在しているのか?」という永遠に答えが出なさそうな大命題の解にも多少は近付くことができるかもしれない。

で、そんな中、昨日11日に、興味深いリリースを出して注目されたのが、↓の会社である。

www.nikkei.com

何が凄いのかと言えば、

「当社は、2021年7月9日付で株式会社東京証券取引所より、「新市場区分における上場維持基準への適合状況に関する一次判定結果について」を受領し、新市場区分における「プライム市場」並びに「スタンダード市場」の上場維持基準に適合していることを確認いたしました。 この結果を踏まえ、当社グループの持続的な成長と中長期的な企業価値向上の観点から新市場区分の移行先を検討した結果「スタンダード市場」を選択する旨の決議をいたしました。」(強調筆者、以下同じ。)

と、最終的に目的地とした「スタンダード」だけでなく、「プライム」の基準適合まで確認した上で「スタンダード」に行く、と宣言したことで、これは先日のジュリストの論稿にも書かれていた「あえてスタンダード市場を選択した方が、企業価値向上にはむしろプラスになる会社もある、と理論的にはいうことができる」という理論をまさに地で行くようなもの。

時価総額は現時点で700億円を超える規模ではあるものの、株主構成をみると創業者一族の保有比率が相当高かったり、主力事業(スポーツクラブ、ホテル等)が新型コロナの影響を受けていたり、と、そういった様々な事情を踏まえての判断だと思われるが、先ほどのリリースを改めて見返すと、昔時々いた「名門○○大に受かったけど、将来のことを考えると○○の方がよいので、私はあえて行きません」的な雰囲気すら感じられて、なかなか粋だな、と思った次第である。

ちなみに、先ほどのリリースには、以下のような「なお」書きも付されている。

「なお、2022年4月4日に移行が予定されている株式会社名古屋証券取引所の新市場区分における当社株式の上場市場については、自動的に「プレミア市場」へ移行する予定です。」

この会社の本社所在地は安城市三河安城

思えば先月にも、名古屋市中村区に本社を置く東証名証1部上場のソフトウェア会社が、「スタンダード市場」を選択した上で「名証では『プレミア』です。」とさりげなくアピールしているのを見て*4、愛知県出身の友人が、「こっちの人間はとーだいよりみゃーだい」と言ってたことを思い出したりもしたのだが、それを再び目にすることになるとは・・・。

証券取引市場の東証一極集中が進み、市場区分の変更一つで振り回される多くの関係者を嘲笑うかのように、「地元じゃプレミア」に誇りを持つ会社が出てくるのは決して悪いことではないと思う*5

そして、全く同じタイミングで市場区分の変更がなされる、という状況の下で見比べた時に、東証が行ったネーミングよりも、名証のそれの方が、より新市場区分のコンセプトを明確に示しているといえるのではないかな*6、ということも、ここに書き残しておくことにしたい。

www.nikkei.com

*1:k-houmu-sensi2005.hatenablog.com

*2:「一次判定では一部項目が不適合だったけど我々はあきらめません!今後12月末に向けて「上場維持基準の適合に向けた計画書」を準備します」とする会社がほとんどだが、中には早々と「計画書」を公表している会社もある。

*3:同社のリリースはhttps://www.jafec.co.jp/info20210903a.pdfである。

*4:リリースはhttps://ssl4.eir-parts.net/doc/4430/tdnet/2024084/00.pdf参照。

*5:「世界で戦える市場を!」ということで東京と大阪をくっ付けて市場を巨大化させたことを無闇に批判するつもりはないが、内に目を向ければ、国内での”市場”間競争ももう少し活発化した方がよいのではないか、と思うことは多い(懐かしい資料だがhttps://www.jftc.go.jp/dk/kiketsu/toukeishiryo/mondai/h24jirei10_files/h24jirei10.pdfも参照)。この先も、「うちは東証プライムはもういいです、アンビシャスでやりますんで」とか、「グロース市場よりQ-boardで」みたいな会社がもっと出てくると面白くなるのであるが・・・。

*6:特に真ん中のクラスを「メイン」としたあたりは、秀逸だな、と。

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