クライアントから見た「ビジネス弁護士」

黒猫先生のブログ『黒猫のつぶやき』の中の、
「「ビジネス弁護士」「渉外弁護士」の幻想」という記事*1について。


幸か不幸か、自分自身、
世に言う「ビジネス弁護士」の先生方の財布の中身をのぞいたことはないし、
仕事で寝食をともにした(笑)経験もない。


なので、あくまでクライアントとして接した、
あるいは、かつての同級生や、ゼミ等の先輩・後輩から、
セミ・プライベート”な場で話を聞いた経験に基づく
コメントでしかないのではあるが、
「労働時間の厳しさ」や、「昇進競争の厳しさ」という点については、
黒猫先生のご指摘に近い感想を抱いている。


会社の帰り際、終電間際に送ったメールの返信が、
午前3時、4時に返ってくるというのは日常茶飯事だし、
事務所訪問を担当している某大手事務所の後輩は、
“残業時間”の多さを「いかにして“法曹の卵”たちに伝えないか」
に細心の注意(笑)を払っているのだ、と真顔で語る。


年賀状に、「人間関係に疲れました。春から転職します。」
と書いてきた同級生もいたし、
法務業界の人間の間でも、時々“きなくさい”話は流れてくる。


もっとも、これはあくまで“理想的な弁護士像”との比較の話で、
比較の視点を変えれば、たいした“デメリット”ではない、
という見方もできるだろう。


「弁護士になるまでの労力と費用」を鑑みれば、
一介の企業法務担当者と比較するのは失礼に過ぎるだろうが、
俗に言うステータスの高い職業*2と比べた場合でも、
彼・彼女達の勤務環境なり待遇なりが劣っているか、と言えば、
決してそんなことはないはずだ。


オーナー企業の一人息子や代議士の二世、三世でもない限り*3
楽してステータスのある地位に付ける者はそうそういない。


「昇進競争」の話にしても、
大概の“組織内エリート”が組織を離れれば“ただの人”になるのに対し*4
弁護士は、事務所を辞めても「弁護士」であることに変わりはない。


たとえ僅かなものに過ぎないとしても、
自分の腕で「リベンジ」できる可能性が「ゼロ」ではない、
という点において、資格職としての「弁護士」には決定的な違いがある。


そして、想定されている“理想的な弁護士像”が、
決して現実的なものではないことを考えると*5
たとえ人間よりパソコンに向かっている時間の方が長くても、
主な業務が「一般企業の仕事と変わらない企業法務の仕事」だったとしても*6
現実的な選択肢として「ビジネス弁護士」を目指そうとする学生が増えるのは、
決して不自然なことではないだろう。


もちろん、世間に作り上げられた“イメージ”から紡ぎだされる“幻想”を
取り払う試みが必要なのはいうまでもないことであって、
その点において、黒猫先生の問題提起は十分に意義のあるものだと思う。


都内のローで教壇に立たれている先生方の多くは、
いわゆる「四大」「準大手」事務所に所属されているパートナー級の先生方で、
そういった先生方は、事務所にとっては一種の「広告塔」にも
なっている方々だから、
弁護士を目指している学生たちを前にして、
“ネガティブ情報”をそうやすやすと公表するはずがない*7


上記のような“広告効果”が、
決して楽ができない環境に、「楽してお金持ちになりたい」という
“幻想”を抱く学生たちを挑ませる「実態」を招いているのだとすれば、
それは事務所にとっても、クライアントにとっても、
そして何より本人にとって、不幸なことと言わざるをえない。


メディアには滅多に登場しないような中小・個人事務所の先生方でも、
いつも非常に貪欲に新しい知識を吸収されていて、
地道な、でもクライアントにとってはとても「大きな」仕事を
いくつもなさっている、という実態を目にしてきた自分から見れば、
「大手事務所に所属していなければビジネス弁護士にあらず」的な風潮が
生じること自体、嘆かわしいことだと思う*8


だが、クライアントの眼から見れば、
「ビジネス弁護士」も決して“悪い仕事ではない”と思うのである。
(的確な情報に基づいてその道を選ぶのであれば、という条件付きだが)


ちなみに、自分が知る限りにおいて、
「お金持ちになりたい」「華やかな仕事がしたい」という理由だけで、
「四大事務所」に“実際に”入った人(かつ、そこで働き続けている人)は
皆無といって良いのではないかと思う。


良く見かけるタイプ*9としては、

①「就職活動」型
 在学中に司法試験に受かって、新卒者の就職活動と同じ感覚で“大企業”のステータスに憧れて大事務所に就職するタイプ。ある意味、安定志向ゆえのとても素直な選択だと思う。「一般企業と同じような仕事」だからこそ就職した、とも言えるのであって、このタイプの方から不満の声を聞くことは少ない(もちろん「隣の芝は・・・」的な感想を漏らす人はいるが、そのような悩みは、「青くない」ことを悟った瞬間に容易に解消する(らしい))。


②「燃える大志」型 
「お金持ちになりたい」「華やかな仕事をしたい」という理由に加え、「バリバリ仕事をする」「厳しい競争を勝ち抜く」ことに執念を燃やすタイプ。かつて、大企業や官公庁を目指していた人々とキャラクター的にはかなりかぶる。当然ながら「現実」に直面して、不満の声を漏らす方々は多いが、簡単には辞めない(辞められない)という“根性”の強さゆえ、根強く組織の中で生き残っている。人間的には決して嫌いになれないタイプなのだが、時折“棘”があるのが玉にキズ。


③「学究・研究志向」型 
大学在学中に先端的な法領域(そしてそれを扱う実務家の先生方)に触れ、その分野のエキスパートとなって活躍したい、という意欲を持って就職するタイプ。在学中合格、かつ成績も超優秀、という方が多く、将来的には論文を執筆して大学の教壇にも立ちたい、という願望を抱いており、少々仕事がきつくても、仕事を通じて自分の専門分野の勉強ができることに喜びを見出している方が多い。

といったものが挙げられるだろうか*10


このうち、どのタイプの方が将来的にその事務所のパートナーとして
活躍できるのか、は自分に予測できる範囲を超えるが、
少なくとも、①〜③の要素のいずれかを備えていないと、
大事務所の中で生きていくのは、少々骨が折れるのではないかと思う*11


以上、老婆心ながら、
“幻想”が消えた後の、現実的な進路選択の一助としていただければ・・・
といってみるテスト*12

*1:http://blog.goo.ne.jp/tbinterface.php/c9b2a78103f67193ab316db53529478d/0b

*2:霞が関のキャリア官僚」、「大手銀行・商社の幹部候補生」、「成功しているベンチャー起業家」などなど

*3:こんなことを書くと、「俺達も人知れない苦労を味わっているのだ」という反論が聴こえてきそうだが、ここは物の例えとしてご容赦いただければ幸いである。

*4:ゆえに、意に沿わぬ地位に甘んじてでも、組織にしがみつかなければならない、という現実がある。

*5:中小事務所や個人事務所にイソ弁として勤務したり、独立開業したりしたとしても、報酬、ボス弁やクライアントとの人間関係、仕事の充実感、といった点において、すべて「満たされている」と言い切れる人は稀だろう。むしろ、上記のような環境で仕事をする同世代の先生方の“嘆き”の数の多さは、大事務所のアソシエイトの方々のそれをはるかに上回る。

*6:この点については、いろいろと引っかかるところはあるが、本エントリーの趣旨から外れるため割愛する。

*7:企業の採用説明会において、人事部長が語る「わが社の実態」の多くが、嘘とは言わぬまでも一面的な“虚飾”に過ぎないことを考えれば、容易に想像はつく(笑)。

*8:掲示板における議論等は、微笑ましく見守らせていただいているが・・・(笑)。

*9:ここで取り上げるのは、あくまで、自分と同世代か、それより若手の部類に属するアソシエイトの方々を対象とした“分析”であることをあらかじめお断りしておきたい。パートナーをお務めの方々のパーソナリティに“講釈”を加えるような真似は、恐れ多く・・・以下略)

*10:あくまで、一部の“サンプル”を元にした、自分の独断・偏見に基づく分類に過ぎないし、①〜③のいずれかにきっちりと分かれる、というものでもないのだが・・・。

*11:そもそも、それ以前に事務所の採用方針にマッチしない可能性が高い。

*12:まさに現実的な選択を迫られている方及び関係者の方は、あくまでネタとしてお楽しみください(笑)。

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