セカンド・オピニオンの持つ意味

日経新聞の法務面で、「セカンドオピニオン」に関する特集が組まれている*1

「大手企業が自社の顧問以外の弁護士に「セカンドオピニオン」を求めるケースが増えている。国際事業などで企業が直面する法的課題が複雑になっており、判断を誤れば業績低迷や経営責任に直結しかねないからだ。法務のセカンドオピニオン経営判断に役立つ一方、会社を思わぬ方向に導いてしまう危険もあり、万能ではない。企業の意向に迎合する弁護士を生み出す懸念も指摘されている。」(日本経済新聞2010年5月3日付朝刊・第14面)

(昔のことはよく知らないが)少なくとも自分が法務の仕事をやるようになったこの10年くらいの間は、「顧問弁護士」という概念自体が揺らいできていた時代だったし*2、専門性の高い分野で、予防的観点からの法的助言が必要になったときに、(顧問弁護士ではない)その分野の権威のある弁護士にコメントを求めるのは、ある意味当然のことだ、というのが部内の共通認識になっていたから、

「顧問以外の弁護士に求めるのが「セカンド・オピニオン」である」

かのような、前記コラムでの定義には正直疑問がある*3


もっとも、以前なら、顧問弁護士か否かを問わず、「最初に相談に行った弁護士」のオピニオンを貰って安心していたところを、あえて「「2人目」、「3人目」の弁護士の意見も聞いてくる、というパターンがここ数年如実に増えているのは事実だ。


一昔前なら、

「自分が最初に相談を受けた案件を、他の弁護士のところに持って行くなんてけしからん」

と、青筋立てて怒る年配の弁護士の話なんかもちらほら聞いたのだが、最近の中堅・若手の先生方は、その辺は比較的ドライに割り切って対応しているようだし、「セカンド(サード)・オピニオン」という前提でペーパーを書いてくれる弁護士も、今は増えているのではないかと思う*4


前記コラムの中では、「セカンド・オピニオン」を活用することのメリットについて、具体的な事例を交えつつ紹介されているが、自分の意見としても概ね賛同できるところは多い*5


ちなみに、一点気になるところがあるとすれば、以下のくだりだろう。

「今回のアンケート調査によると、企業側はある程度、自社の方針に自信を持ったうえで、確認の意味を込めてセカンドオピニオンを求めるケースが多いようだ。」
「一部の弁護士の間には、企業の意見に「待った」をかけるよりも企業に都合の良い意見を出し、迎合した方が今後の仕事増につながる、との考えがあるともされる。企業が経営判断の法的な評価に迷う場合に、「適法」と言ってくれる弁護士を手当たり次第に探す“弁護士あさり”を招いてしまっては本末転倒だ。」

そもそも、弁護士に法律相談に行く段階で、自社の方針が「まっさら」だったとしたら、それは極めて重大な問題だ*6


土台のしっかりした会社であれば、法律相談に行く時点で、「現時点でベストと考える選択肢」、「2番目に良いと考える選択肢」・・・「やろうと思えばできないことはないが、できればそうしたくはない選択肢」くらいまで用意しておくのが当然だろうし、それを実行していると思う。


そして、相談を受ける弁護士が賢明な方であれば、そんなことは当然に分かっているはずで、最近では相談する側で、「現時点で考えている選択肢」を開示して判断を仰ぐことも増えているから*7、弁護士がクライアントに「迎合」しようと思えば簡単にできる土壌は、既に整っているといえる。


だが、本当にそれで「迎合」した弁護士の仕事が増えるか、といえば、そこには大きな疑問符が付く。


コストをかけて慎重にセカンド、サード・オピニオンを求めるような会社であれば、各弁護士の意見の「結論」だけではなく、「そこに至るまでのプロセス」を慎重に吟味するだろうし、そこで大した根拠もなく「会社に都合がいい(と弁護士が判断した)」意見などを出そうものなら、信頼が下がることはあっても、上がることは決してない。


また、セカンドオピニオンを要するようなシビアな相談の先には、必ずと言ってよいほど紛争リスクが付きまとうわけで、「Go!サイン」を出すからには、その後に襲いかかってくるかもしれない諸々を受け止める覚悟がいるし、逆にその「Go!サイン」を受け止めて走り出す会社の側にも、「いざという時に「Go!サイン」を出した弁護士(事務所)と心中する」だけの覚悟がいる。


「迎合」的な意見を出した弁護士が、そこまでの信頼に値しなければ(顧問弁護士等が「No!」と言っている案件の場合は特に)、そもそもその意見を受け入れるリスクを相談者側が負うことはないだろうし、仮に、相談者側がリスクを取ることによって、弁護士側にその後のトラブルに対応するという「仕事」が一時増えることがあったとしても、軽はずみな「迎合」で依頼者にリスクをとらせたツケは、どこかで回ってくることだろう。


ゆえに、少なくとも依頼者と弁護士の双方が、合理的な思考で動いている間は、「迎合」する弁護士が問題になるようなことはないだろうし、それを求めて「弁護士あさり」を行うクライアントが急増するようなこともないだろう*8。レアな弊害を怖れるあまり、せっかく浸透しつつある“セカンド・オピニオン”の慣行に水が差されるようなことになれば、それこそ“本末転倒”だと思う。


筆者としては、企業法務界の良き慣行として、これが定着することを願うのみなのであるが・・・*9

*1:これを読んでいて、数年前http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20071123/1195967343のようなエントリーを書いていたことを、ふと思い出した。

*2:自分の場合、「顧問契約はしていないが相談には頻繁に行く」という弁護士と会っている回数の方が、本来の顧問弁護士(顧問契約を締結している弁護士)と会っている回数よりも、はるかに多かった。

*3:もしその定義に則るのであれば、いまさら特集を組むまでもない話で、コラム自体の意義が問われることになるだろうと思う。

*4:以前は、相談には対応してくれるものの、同業者への遠慮か、それとも同業者同士での無用な争いを避ける趣旨か、後に残る形で見解を残すことは躊躇する、という先生が結構多かった。

*5:コラムの中ではあまり詳しく書かれていないが、特定の弁護士だけとやり取りしている中で陥りがちな「議論の前提となる枠組みの固定化」を避ける意味でも、他の弁護士に意見を聞く意味はあると思う。

*6:もしその会社に法務の担当者がいるとしたら、その担当者は職務懈怠の責めを問われても文句は言えないだろうと思う。

*7:以前は「結論が最初から決まっているんだったら、俺のところに来るな!」的な弁護士もいたことはいたが、さすがにここ数年、そういう方にはお目にかかったことがない。

*8:もちろん、世の中にはいろんな会社があるし、いろんな弁護士がいるから、そういった事例が全く生じない、とは到底言えないのだけれど、迎合=弁護士あさり的な兆候が主流になるような事態になることはあり得ない、と自分は思っている。

*9:なお、前記コラムの中では、KDDIによるジュピターテレコム株式取得事例が、「セカンド・オピニオンの失敗」ケースとして挙げられているが、これも本コラムの趣旨から外れた「蛇足」の感が強い(そもそも「適法」という見解が、KDDIにとっての“セカンド”オピニオンだったのかどうかも記事からは良く分からない。顧問弁護士等の反対意見をすっ飛ばして決断した、というような話ではなく、「専門の弁護士に聞いたらOKだったから、その手法でやってみた」というだけの話ではなかったのだろうか)。そもそも、この件に関しては、「株式取得手法の間違い」という法的判断の方ではなく、「他の株主(住友商事)の動きを読み切れなかった」という経営判断の方に、KDDIの最大の失敗があったんじゃないかと思う。

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