「法務部管理職」が今一度考えるべきこと。

元々の購入予定はなかったのだが、Twitter等での反応が興味深かった「2013法務の重要課題」という第一特集に惹かれ、結局今月も購入してしまった「Business Law Journal」2013年3月号。

BUSINESS LAW JOURNAL (ビジネスロー・ジャーナル) 2013年 03月号 [雑誌]

BUSINESS LAW JOURNAL (ビジネスロー・ジャーナル) 2013年 03月号 [雑誌]

既にこれまでの号の紹介の中でも触れたように、年々充実が図られてきていた記事の量・質のボリューム増は、今年の号に入ってから、また一段と顕著になっている。

今月号から定価が1,680円→1,995円に値上がりした中で、読者をつなぎとめておきたい、という切実な思いもあるのだろうが、個人的には、他誌と比較しても十分にお釣りがくるボリューム感だと思う。

第1特集「2013法務の重要課題」

さて、「法務部管理職はここに注目!」という副題がついている今号の第1特集。
BLJらしく、設定された各トピックに対して、「法務部門の部課長級の方々」が匿名で意見を述べる、という興味深い企画である。

そして、自分もなんだかんだ言って、一応、このカテゴリ―に属する立場、ということもあるので、掲載されているコメントを眺めつつも、自分ならどう答えるだろう、ということを考えながら読んでいた。

・・・で、そんな中、印象に残ったトピックをいくつか紹介しておきたい。

Section 1「各社が抱える実務・組織の課題」*1

BLJの分析によると、「海外に関わるコメントをした人」が67%、ということで、外資系の日本法人等、事業分野がドメスティックなところに限定される一部の会社を除けば、ほとんどの人が「グローバル」「海外」といったキーワードにまつわる回答をしていたようである。

もちろん、自分も、聞かれれば、多分同じような回答をしただろう。
ただ、「グローバル化」ばかりが叫ばれる中で、未だ自社のコア領域である「国内」が手薄にならないように・・・という、コメントもおそらく添えたとは思うけど。

「法改正への対応の必要性」*2

掲載されているコメントを見ると、最も関心が高いのは「消費者集合訴訟」で、「会社法については落ち着いた反応」、「民法については関心の高さがうかがえる」ものの、「様子見」的なコメントも散見・・・というところだろうか。

個人的には、消費者集合訴訟については、提出される法案の「条文の書きぶり」まで見ないことには何とも言えないなぁ・・・というのが正直なところで、置かれている状況としては切実なコメントを寄せている企業と共通するところは多いながらも、ちょっと“温度差”がある。

そもそも「規約作成のときに神経を使う必要が生じる」というのは、今回の集合訴訟制度に関して、というよりは、現行の消費者契約法の下でも既に問題になりうることだし、今後の法改正に関して言えば、むしろ債権法改正による「約款」規制の問題の方を心配した方が良いのではないだろうか。

また、民法改正について関心が高い方が多い、というのは、自分の問題意識とも共通するのだが、改正の動き自体は、まだ「中間試案に対するパブコメ」を控える、という段階なのだから、「対応しなければ・・・」とあたふたする前に、

「実務の見直しを余儀なくされそうなところは、パブコメでしっかり意見を出しておく」

ということがまずは重要だと思うし、そういった観点からのコメントがないのは、ちょっと寂しく感じられた。

「部門マネジメント上の課題」*3

ここは、会社ごとの事情が色濃く反映されるところなので、筆者自身のコメントは差し控えるが、掲載されているコメントの中で興味深かったのは、やはり、「日本語力」の重要性を説く、

「法務部門は他部門よりも言葉に敏感でなければならない。書く・話すにも言葉をもって相手を説得しなければならないし、読む・聞くにしても正しく理解するための前提となる」(製造)

くだりだろう*4

あと、

「40代の中堅層がまったく存在しない構成がとても痛い。」

という「リーダー後継者」不在を嘆くコメントにも、個人的には興味を魅かれた。
まぁ、きちんとしたスカウティングをして、優秀な人間を呼べるだけの条件を整えれば、決して「人材がいない」世代層ではないと思うので、そんなに嘆かなくても・・・というのが、個人的な感想ではあるのだが。

「企業内弁護士は増えるか」*5

このトピックに関しては、つい最近のBLJ誌(といっても半年近く前なのだが・・・)*6でも取り上げられていていたのだが、今回の特集では、「資格に対する積極的な評価」をするコメントもいくつか取り上げられており、ちょっと流れが変わったかな?という感はある。

中途採用に関する「ネガティブな見解」として取り上げられている、

「企業内でも十分活躍できるような人材は法律事務所内でも有為のポジションを占めていることが多く、あえて企業に就職する動機を持たないはずなので、企業に応募してくる人材は何らかの問題があるのでは」

というコメントなどを見てしまうと、まだまだ世間の情報から隔絶された会社はあるのだなぁ、という気にさせられてしまうが*7、企業内で働くことを志望する弁護士が増加し、実際に採用面接をしたり雇用したりする機会も増える中で、「新人採用」に対するコメントと合わせて、賛否のいずれの意見も、現実からそんなにはかい離したものではなくなっているように思われる*8

もっとも、

同一能力ならば積極的に資格保有者を採用したい」(IT・通信)

とか、

「新人については、修習を得た強みは入社後の伸びの速さに表れる。」(製造)

といったコメントなどは、「司法修習」や「法曹資格」に対する“幻想”が過ぎるんじゃないか・・・というのが、率直な感想ではあるのだけれど(笑)*9

Section 2「弁護士への満足度と改善要望」*10

続いて、特集は「弁護士と企業のかかわり」というテーマに移ってくる。
SNS界隈で、話題になっていたのも、専らこのあたりのトピックだ。

前半で取り上げられているフィーの話などは、以前にもどこかで話題となっていたような気がするし、法務担当者が3人集まれば、必ずネタの一つに出てくる(笑)話だから、そんなに真新しさはない*11

特に、「パートナーの先生にお願いしたら、たくさんアソシエイトが出てきてその分のチャージを請求される」なんて話は、だいぶ前から言われていることで、自分のところも含めて、事務所に率直にお願いしたり、それでも改善されない場合は(どんなに有名なパートナーだろうが)バッサリ切ったりして、自衛する努力をしてきている会社は多いと思うので、“まだそんな実態が残っているの?”というのが、率直な感想だったりもする*12

個人的には、「法律家」を養成することの難しさは良く分かるし、駆け出しの若手の分も人工に入れてフィーを請求する、というのは、他の士業やコンサル等でもやってるんじゃないか*13、と思うだけに、正直に『見習い弁護士分のフィー』の明細まで開示して請求した事務所(パートナー)だけをバッシングするのは、少々行きすぎではないかとも思うのだが、

「請求に乗せるなら、ちゃんとその弁護士の顔が見えるようにしてほしい」

というところだけは、言っておきたいなぁ、と思う*14

一方、「パフォーマンスに関する不満」というテーマについては、掲載されているコメントに、ちょっとした疑問もある。

「技術進化の速い業界なので、弁護士のスキルが陳腐化・劣化していることが本当に多い。」(IT・通信)
「最先端の知識をもっと貪欲に勉強してほしい」(IT・通信)

言わんとしていることは分かるし、これらのコメントを寄せた方々がどの程度の「知識の欠如」を問題としているのかが分からないだけに何とも言えないところはあるのだが、そもそも、「最先端の知識」、特に自らの業界の技術内容に関わるような「知識」を、「弁護士が全て知っていること」を期待すること自体がどうなのかなぁ・・・と。

これは、この後のテーマで出てくる、

「法律知識だけでなく、業界特有のビジネススキームや商慣行等についても理解を深めてほしい」(医薬品)

というコメントにも共通することだ。

もちろん、やたら細かい法令に至るまで精通している弁護士がいないわけではないのだが、「最先端」かつ「業界特有」の話となれば、本来はまず会社側できちんと情報を収集し、弁護士に状況をきっちり説明した上で、法律専門家としての経験と感覚に基づく「判断」を仰ぐ、というのが、本来の弁護士の使い方ではないか、と自分は思う*15

そして、「弁護士の知識不足」を嘆く前に、自分たちが弁護士に提供している資料、情報が不十分なのではないか、ということに思いをめぐらせ、「会社に法務部門が置かれている」意義に立ち返るならば*16、今抱いている不満の多くは解消されるはずである。

「外部弁護士に依頼する案件は増えるか」*17

さて、個人的に一番興味があったのは、このテーマである。

会社の法務部門に有資格者が次々と取り込まれ、有資格者以外の実務家のレベルも上がっている中で、これまでのように法律事務所への“丸投げ”をする会社は激減している、と思われる中、企業法務系事務所に依頼する案件の増減、という話は当然問題になってくる。

この点につき、BLJ誌に寄せられたコメントは、そのほとんどが「需要は増える」というものだったようである。

だが、自分は、むしろ「少数派」である「減っていく」というコメントの方が、共感できるところは多い*18

もっと正確に言えば、様々な新しい法的課題が惹起され、かつ、「弁護士に相談すること」への敷居が下がったために、各社の経営判断に影響を与えるような“No.1”事務所*19や、特定の分野で抜群の強みを持つ、あるいはニッチな得意分野を持つ事務所への依頼が大幅に増加する一方で、これまで“何となく”相談を受けて“何となく”返してもらっていた2番手以降の顧問事務所や、パートナーのネームバリューに頼って仕事をしている大手事務所への依頼は減少する、そして、依頼先のポートフォリオ見直し、効率化が進められる結果、トータルとしては需要が減る(少なくとも落ちるお金の総額は減少する)・・・といったところだろうか。

もちろん、ここ数年の採用抑制や、社会に供給される“法学部卒”人材の減少*20に伴い、“生え抜き人材”の確保が難しい現状に鑑みると、

「企業の法務業務全般を低コストで請け負う」

ような法律事務所が今後増加する可能性も否定できないわけで*21、そうなれば、社外に持ち出される需要が増えることになるのかもしれないが、既存の業態の企業法務系事務所にとっては、今後の市場動向は、決して芳しいものではないのでは?ということは、指摘しておきたいと思う。

「弁護士業界に望む変化」*22

最後に、様々な意見が飛び出している「望む変化」について。

報酬体系については、「より柔軟に」という意見が多いのだが、ここは今でも柔軟に、予算に合わせて対応してくれる事務所(ないしパートナーの先生)は結構ある。

自分としても、この特集に寄せられているコメントには、一定の共感はできるところであるが、その一方で、「この回答者は、お願いした弁護士に対して、これまで、きちんとフィーの交渉をしたことがあるんだろうか?」という素朴な疑問は出てくるところである。

また、あまりに辛辣すぎる表現ゆえに話題となった「コラム」での要望にしても、極端な事例だけを取り上げて“制度論”にまで踏み込むのは、いささか勇み足に過ぎるように思われるところであり、今回の企画に向けた“リップサービス”の意が含まれていることを差し引いても、同じ業界にいる者として、ちょっと眉をひそめたくなるところはある*23

ただ、

「自らの方向性について、総合化・専門化のいずれかを明確に示さない中途半端な事務所は、競争の荒波の中で苦しい対応を迫られると感じている」(製造)

というコメントについては、素直に賛意を表したい。

そして、もう一つ、自分の意見として付け加えるとすれば、

「法律事務所はこれ以上大規模化を目指すべきではない。「総合化」「専門化」のいずれを目指すにしても、弁護士一人ひとりの顔が見える規模にとどめるべきで、そういった良質な中小規模の事務所が増加することで、企業法務系法律事務所業界が活性化し、“斜陽化”も防げるはず。」

といったところだろうか。

今回の各社法務部管理職のコメントにも表れているとおり、一部の事務所が「規模の経済」を追求した結果、もたらされている弊害は既にあらわになっている、というべきであり、「高度な知識と経験」を資本とする“知的集約産業”ならではの業界の在り方を、当事者のみならず、クライアントのニーズも踏まえて考え直すべき段階に来ているのではないだろうか・・・というのが、今、“弁護士と法務担当者の間”で業界模様を眺めている、自分なりの感想である。

*1:BLJ2013年3月号・19〜23頁。

*2:前掲・20〜21頁。

*3:前掲・21〜22頁。

*4:もちろん、ここで言われているのは、「いくら英語ができても『日本語力』がなければダメ、というだけで、英語力の必要性自体を否定しているわけではないのだろうけど。

*5:前掲・22〜23頁。

*6:http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20120901/1347092971

*7:大手の企業法務系事務所から企業内への転職を図ろうとする弁護士の多くは、能力や人格に問題がある、というわけではなくて、単に、クライアントの首根っこ押さえて札束引っ張ってくるだけのアクの濃さがない(あるいはそれを潔しとしない)だけなんだろう、と自分は思っていて、同時に、そういう人の方が会社の中でやって行くには向いているだろう、とも思っている。受け入れる側の社風にもよるが、大手法律事務所のパートナークラスの人材を会社の中に引っ張ってきたところで、周囲と軋轢を起こしてスピンアウトするパターンの方が遥かに多いのではなかろうか。

*8:この点、経団連、経営法友会等でちらほら出てくるコメントは、結構時代錯誤だったりもする(おそらく回答しているのが、実務から遠いところの人々だから、という理由もあるのだろうけど)。今、全会員向けにアンケートを取れば、また違う回答になるのかもしれないが・・・。

*9:「司法修習」というのは、それまでの人生の中で身に付けた知識や経験を“法律家モード”に再構築する場であって、新たな知識や技能を“身に付ける”場ではなかった(新たに身に付けるには期間が短すぎる)というのが自分の感想で、ゆえに、実務経験が皆無(ないし乏しい)まっさらな合格者が修習に入ったところで、よほどセンスの良い人でなければ、「修習を経た強み」なるものをそう簡単に身に付けられる、とは思わない。もし、彼/彼女たちに“違い”があるとしたら、厳しい試験を勝ち抜き、「修習」というプロセスも経たことにより身に付いた「自信」の有無だけだろうが、それは良い方にも悪い方にも働きうる、というのは、「新人採用」消極派の方が書かれているとおりだと思う。

*10:前掲・24頁〜27頁。

*11:もちろん、これが活字として残されること自体に大きな意義がある、と個人的には思うけど。

*12:そもそも、メインに仕事を依頼するのは中小規模の老舗個人事務所が多いので、フィー自体がべらぼうに高くなる、というケース自体が少なかったりもする。回答した「法務部管理職」に新興企業の方が多い(?)せいなのか、記事を見る限りでは、大手法律事務所の報酬方式を念頭に置いたコメントが多いように思われるが、そもそも、そういった事務所を“メインの事務所”として、仕事を大量発注することが妥当なのかどうか、会社側で依頼先のポートフォリオを見直す必要もあるのではなかろうか。

*13:弁護士事務所の請求と違って、人単位の明細が示されることが少ないがゆえに、指摘されないだけで・・・。

*14:登録したての若い弁護士の場合、クライアントの前に顔を見せるのが、「最初の顔合わせの時」だけだったり、下手をすると、「メールのcc欄」に名前が出てくるだけだったりすることも多い。まともにコミュニケーションが取れるかどうかすら未知数の若い弁護士を前面に出さない、というクライアントへの“配慮”は理解できなくもないが、最初から最後までそれだと、さすがに払う方としては社内に説明できない・・・。

*15:自分の会社の顧問弁護士の中には、もう何十年もお付き合いのある弁護士もいるが、「業界固有、かつ最先端の知識」にまで精通している、と言える人はほとんどいない。それでも、前提やその背景にある考え方をきっちり説明して、「法律家の思考回路」に当てはめて考えていただけるような段取りを用意すれば、見事に説得力のある回答が返ってくるし、それによって最終的なジャッジを誤った、ということも皆無である。弁護士から納得がいくようなアウトプットが得られない原因は、弁護士の「知識」以前に、「相談の仕方」の方にあるのではないか、ということは指摘しておきたい。

*16:もし、業界固有の慣行から最先端の知識まで、何も言わなくてもすらすらと答えが返ってくるような弁護士がいたとしたら、もはや「法務」部門を社内に置く意義がないのでは?とさえ思う。

*17:前掲・25〜26頁。

*18:偶然だが、同じ3月号で、別の企画のインタビューに答えているエイベックス・グループ・ホールディングス株式会社の木内秀行法務部部長(弁護士)も、「法務部の新設によって法務業務が内製化され、かつ弁護士の選択を一元化して案件に即応した弁護士への依頼が可能になったことで、結果的にコストの削減が進んだのは間違いありません」とコメントされている(12頁)。

*19:既に述べたとおり、このタイプの事務所は決して大規模でも有名でもない個人事務所が多い。

*20:法科大学院ができて、定員の多かった名門大学が軒並み法学部の定員を削減したことは、法務業界にとっては致命的な人材供給難をもたらした。法科大学院人気がひと段落し、学部を出てすぐ就職する学生が増え始めたことで、ここ数年は若干の持ち直し傾向もあるようだが、法務業界が依然として「新卒よりも中途採用市場の方が枠が多い」数少ない業界であることは間違いない。

*21:27頁のコメント参照。

*22:前掲・26〜27頁。

*23:「依頼した仕事の納期を徒過しているのに、フェイスブックで楽しそうな写真を掲載していた」というのが、わざわざここで槍玉にあげるようなエピソードなのだろうか? 全体を見れば一理ある意見も書かれているとは思うが、弁護士側の「法務業界」に対する印象を害しかねないような偏屈さが文面からあふれているのが、個人的には気になるところである。

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