道を決めるのに急ぎ過ぎる必要はない。

聞くところによると、最近、新司法試験の合格発表から司法研修所入所までの数か月、というのが、いわゆる「弁護士事務所への就職活動」のピーク期、になっているらしい。

だが、そういう話を聞くたびに、何で皆そんなに急いでいるんだろう、と不思議な気持ちになる。


ちなみに、「弁護士」という、登録さえしてしまえば、いつでもどこでも使える資格を持っていながら、“就職”にあくせくしたくなる心理、というのが、自分はいまだに理解できないのだが(笑)、その点をさておいても、昨今の“企業法務系”を目指す法曹の卵たちの意識と、クライアント側で実務に携わっている人間の認識とのギャップには驚かされることが多い。

昔、ある学生に、

「四大法律事務所に入らないと、大手企業の案件を担当する機会なんて巡って来ないですよね?」

と言われてぶったまげたことがあったのだが*1法科大学院制度が定着して“卵”たちと法曹界の距離が近くなったように思える今ですら、その辺の彼/彼女たちの意識はあまり変わっていないようだ。

確かに、法律雑誌に論文書いてたり、名門大学系のロースクールに講師を派遣していたりする事務所は、華やかな看板を掲げている大手のローファームが多いから、その辺を勘違いしてしまう気持ちも分からないではない。

だが、今、実際に多くの大企業に食い込んで密接な関係を築いている事務所の多くは、せいぜい多くても4〜5人くらいの規模で回している中小規模の事務所である、という現実は厳然と存在しているし、当面はそのような状況が大きく変わることはないだろうと思う*2

だから、その辺を知らずに、ホームページで派手に求人かけたり、説明会を開いたりしている事務所ばかりを回って、それでうまく行かなくて、「企業法務系の弁護士になるのは無理だ・・・」なんて呟いている人を見かけると、何とも残念な気持ちになるわけで・・・。

良質な依頼者、良質な仕事を抱えて繁盛している腕のいい弁護士ほど、大々的に新人を募集したがらない、というのがこの業界の特性で、そういった入口の狭さゆえに、一見敷居の低そうなところに募集が偏在してしまうのかもしれないけれど、勝手に選択肢を狭めて、自分の進路まで狭めてしまうというのでは、身も蓋もないだろう。

数が増えた、とはいっても、依然、狭いコップの中で人が動きあう狭い業界であることに変わりはないのだから(クライアント側も含めて)、自分のこれまでの人生と、修習に入ってからの長い1年間のプロセスの中で培った人脈をフルに活用すれば、自分のやりたいことに近付ける“出会い”を見つけるのは、そんなに大変なことではないと思う*3

そもそも修習に入る前(現実の法曹の世界に浸る前)に抱いていたような、机上の“やりたいこと”にどれだけの意味があるのだろうか?

法曹の“卵”にとって、これからの時期でもっとも大事なのは、修習期間を通じて、自分のやりたいことを具体化・現実化させていくことで、道を決めるのはそこからでも全然遅くないと思うのだけど・・・。

道を決めるのに急ぎ過ぎる必要はない。

「弁護士」としてのクラシックな仕事に固執しさえしなければ、“司法試験合格”という肩書は、食い扶持を稼ぐには十分過ぎるほどの価値を未だ保っているのも事実なのだから、周りに急かされて焦って強引に進路を決めるより、修習後にじっくり構えて時を待つ方が、まだ健全だと自分は思うのである*4

*1:あれから5,6年経ったが、金融業界や外資系企業ならともかく、日本のクラシックな大手企業で「四大事務所」(あるいはそれに準じる大規模事務所)が最も密接な依頼先になっている、という会社は、今でもまだまだ少ないと思う。

*2:どんな会社だって、主力の事務所との関係では“オンリー・ワン”な存在であり続けたいと思うのが人情だし、それを大規模な事務所に求めるのは、ハナから無理だってことが分かっているのだから・・・。

*3:募集はかけていないが、教えがいのありそうな新人がいれば採用することはやぶさかではない、という「0.5人採用」ポリシーの有力企業法務系事務所は結構存在するし、現にそれで“就職”したケースも決して少なくはない。

*4:なお、修習も始まっていないこの時期に、「就職が決まらん」とあくせくして焦りを募らすくらいなら、「類型別」でもしっかり読み込んでおいたほうが、まだマシだ、と思う。老婆心ながら・・・。

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