法務からの『改善要望』への応答の試み。

いつもは、「法務担当者」側の視点と切り口で、有益な情報を提供してくれるBLJだが、創刊からはや5年を迎え、新たな読者層の開拓(?)をも視野に入れたのか、

「問われる法務部のあり方」

というテーマで、「社内クライアント」や「弁護士」といった、法務担当者から見ればカウンターパートに当たる側からのコメントで誌面を構成する、という大胆な企画を組んできた。

BUSINESS LAW JOURNAL (ビジネスロー・ジャーナル) 2013年 05月号 [雑誌]

BUSINESS LAW JOURNAL (ビジネスロー・ジャーナル) 2013年 05月号 [雑誌]

この企画に関しては、営業的な側面だけでなく、固定読者層に対しても、たまには“耳の痛い話”を聞いてわが身を振り返ってみましょう、という暖かい編集サイドの親心もあるのだろう。

だが、企画趣旨に見合うだけの中身のある記事が揃っていなければ、そんな親心も生きないし、我々法務サイドからの「応答」もしようがない・・・というわけで、個人的には、いつもより厳しめ(?)に一連の特集を眺めてみた。

以下は、その感想である。

弁護士から見た法務への改善要望

一番“イタイ”記事が多いのではないか、という前評判もあったこのコーナーだが、これについては、思いのほか“ためになる”コメントが多かったかのではないかな、というのが率直な感想である。

例えば、最初に登場する「個人事務所経営」の弁護士が言われているような、「弁護士相談前に『時系列の整理』と『当事者の整理』をすることの重要性」というのは、自分自身、長年強く意識しながらやってきたことだし、部下、後輩にも厳しく指導していることでもある。

顧問弁護士と会社との関係が密接になればなるほど、

「弁護士は社外の人間であり、当該案件について無知であるという当然の前提を忘れずに相談する」(30頁)

という基本原則をついつい忘れがちになってしまう(特に、最近はサービス精神旺盛な弁護士も多くて、下手に先回りして会社に都合の良い見解を出そうとしてくれる方もいるからなおさら・・・)のだが、法務サイドの人間としては“イロハの「イ」”ともいえるところだけに、非常に重要な指摘だと思った。

また、「弁護士とのコミュニケーションをしっかり取って」、「もう少し早めに相談を」という企業側から仕事をされたご経験も踏まえてのコメント(法律事務所・企業両方経験 中堅、30〜31頁)や、「いい格好をしたけどやっぱりできない、というクライアントが一番困る」、「避けられる『今日中案件』は避けるべき」といったコメント(関西系法律事務所パートナー、32頁)も、納得できるところは多い*1

もちろん、チャージの話のように、クライアントと依頼を受ける側の利害が一番相反する話に関しては、突っ込みたいところもいろいろある。

「とにかく費用を抑えることを最大の目的とするクライアント」
「リーガルコストは安いほどいい、と考えているクライアント」

との仕事がやりにくい、というのは当然理解できるところではあるが、クライアントの側でも、「予算が付いていない」等々、様々な事情が考えられるわけで、「弁護士費用とはこういうものだから」という理屈だけで、共感を求められても困る、という担当者は多いことだろう*2

「ビジネスコンサルタント」との比較のくだりにしても、会社側でそんなに気前よくチャージを払っているつもりはないし(リーガルコストとの比較で)、そもそも、弁護士とコンサルとは、オーダーしている仕事のボリュームも、作業工数も全く異なるので、比較すること自体失当だろう。

この辺の話に関しては、あまり抽象的な話をしていてもしょうがないので、一度、具体例を出しながら、お互いの立場で洗いざらいぶちまけて本音で議論する、という企画があってもいいのかな、と思うところ(笑)。

なお、最後に登場する「中規模事務所経営」の弁護士のコメントには、いろいろ批判もあるようだし、さもありなん、という内容でもあるのだが、個人的には、こういう先生も結構見慣れているので、そんなに気にはならない(苦笑)。

ただ、一点、「法科大学院を卒業したばかりの若いインハウスの弁護士」と「経験を積んだ外部の弁護士」の違いを企業内でご理解いただいていますか?というくだりに関しては、「それが分からないほど会社も阿呆ではございませんよ」とお返し申し上げたいところではある*3

社内クライアントから見た法務への改善要望

弁護士からのコメントが比較的予測できる範囲内のものだったのに対し、こちらの方は、「あれっ・・・?」といいたくなるようなものが多かった。

そもそも、インタビュー対象となっている方のサンプルが若干偏っているようにも思えるし、「法務側の視点」からの“対話”がなされているのが、最初の一件(ウェブデザイナー)だけなので、「社内クライアント」のコメントがどれだけ的を射たものなのかも良く分からない。

どこの会社でもそうだと思うが、「法務」を必要とする部署とそうでない部署、あるいは、「法務」を積極的に利用する部署とそうでない部署、というのは、必ず両方存在するわけで、後者のタイプの部署の人から話を聞いても、それは単なる“印象論”に過ぎないし、そんな話をいくら聞かされたところで、こちらの心には何ら響かない。

理想を言えば、会社のすべての人に「法務の存在」を意識してもらえればそれが一番良いのだろうが、どの会社でも法務部門は、“社内の上得意様”への対応で手一杯なわけで、あえてそこから手を広げて・・・というのは、なかなか難しい、という状況でもある。

そういった意味で、この章に関しては、企画としては今一歩だったかな・・・という感想にならざるを得ない。

なお、この章の中には「スピードの必要な案件では弁護士と直接やり取りしている」という「経営企画部長」とか、「法務担当者はあくまで、契約書の文言を理論的に解釈して間違いがないか、必要な条項が漏れていないかを厳密にチェックすることに専念すべき(ビジネス上の課題にまで目配りする必要はない?)」とのたまう「取締役」も登場する。

それはそれで、あり得べし考え方だとは思うが、自分が、こういう人々に囲まれた環境で仕事をしたいと思うことは絶対にない、ということだけは言っておきたい*4

蛇足

さて、今回の特集には、もう一つ「対談」の企画がある。

「クライアント」として日本航空の小林貴之法務部長、「顧問弁護士」として柳田国際法律事務所の柳田一宏弁護士が登場する、という企画なのだが・・・。

読んだ感想から言えば、「まぁ、こういうやり方もあるんでしょうね」ということで、それ以上でもそれ以下でもない。

ここに書かれている内容を簡単にまとめると、

1)リストラで法務部門の人員が大幅に減少した。
 ↓
2)社内の法務部門の人間が自らコツコツ案件を処理する、という伝統的な仕事のやり方では処理が追いつかない。
 ↓
3)優れた外部の法律事務所を活用して、一定のビジネス判断の部分まで含む法務機能を担ってもらう。
(社内の法務部門はマネジメント的な役割を担当することになる)

ということになり、1)、2)までは、自分のところも含めて、共通した問題を抱えている会社は多いだろう。
ただ、最後の解決策として、3)だけが選択肢になる、というのは、実務に携わるものとしては、かなり解せないものがある。

もちろん、若手にOJTでしっかり教えてから一本立ちさせる・・・なんて余裕がないのは、自分のところもここに出てくる会社と同じだから、必然的に来たばかりの若手が何十件も案件を抱えることになるのだが、それらの仕事を「全部外に振る」という話になるかといえば、作業効率性の観点からも、費用対効果の観点からも、それはありえないことだ*5

この「対談」記事が、単なる事務所の“宣伝広告”ではなく、本当に行われていることなのだとすれば、

・この会社の法務部門に飛び込んでくる仕事が、いずれも「弁護士に聞いた方が早い」仕事ばかりである。
・↑とも関連するが、法務部門から依頼した仕事に、弁護士が即断即決で回答を返してくれる。
・↑のような仕事に関して、弁護士が驚くほど低廉なチャージで仕事を引き受けてくれる。
・コメントをそのまま経営陣に持って行っても違和感がないほど、弁護士の経営に関するセンスが優れている。

という条件を満たしている、ということなのだろうけど、ホントかね・・・*6
ということで、最後まで半信半疑。

ネタとしては興味深い記事なのだけど、この雑誌の企画としては「蛇足」だったのではないかなぁ・・・と思った。


ということで、少々辛目ではあるが、定期的にこういう企画があると、業界の時代の変化を誌上で伺うことができるのも確かなだけに、一応、続編に期待してみようか、と思った次第である。

*1:関西系法律事務所の方のコメントのうち、「メールを投げて発注完了」とするクライアントへの苦言については、そもそも「なぜ、メールで相談してきているのか?」というところを、もう少しわかってほしいなぁ・・・という思いもあったりするので、この点については評価を保留させていただく。相談する側だって、長いメールを練り練りしながら書くより、電話一本ないしアポイント一回で済ませられた方が当然楽なわけで、それでもメールに頼らざるを得ないのは、弁護士がなかなか捕まらなかったり、いつも忙しそうにしていて、電話一本かけるのも憚られるような雰囲気を醸し出しているから・・・なのである。

*2:ちなみに、従来の日本的伝統に則って仕事をしている事務所のチャージに関しては、むしろ安すぎる、と思うくらいなので、自分は一切値切ったことはないのだが、ある程度組織化されてしまっている事務所の場合、明らかに間接費相当分までコストオンされた形で請求が来るので、ある程度付き合いのある事務所でも、仕事の依頼の仕方はおのずから慎重になるし、場合によっては値切ることもある。

*3:まぁ、3,4年経験を積めば、事務所の中にいる同世代の弁護士よりは、はるかにモノになる可能性が高いですが・・・とも言っておこうか(笑)。

*4:そして、今自分が居る社内からこういう妄言を吐く人々を出さないように、きっちりと存在感をアピールしていくことこそが、自分の役割だと思っている。

*5:ちなみに、自分も根掘り葉掘り調べものをするほど余裕はないので、弁護士に聞いた方が早い、と思えばそうするが、自分の経験則上、たいていの仕事は自分で調べた方が、早く結論に辿り着けるし、時間をかけて外部の事務所に依頼しても、出てくる答えは結局同じである。

*6:これまた個人的な経験になるが、上の4項目のうち弁護士側の事情に関する3項目を、パートナークラスから若手まで全ての弁護士が皆満たしている事務所、というものを、自分は知らないので何とも・・・(笑)。