「企業」に一体何を求めるつもりなのか?

新年早々、日経の法務面の「傍聴席」*1を読んで“カチン”と来たので、コメントしておく。


この日、このコラムで取り上げられているのは、日弁連副会長の小林優公氏(61)。


で、この人が何を言っているかと言えば、

「先輩弁護士がいる法律事務所での職場内訓練が必要」

と、就職先が未定の司法修習修了者の行く末を嘆き、「このままでは今以上に職にあぶれる人が出る、と危機感を募らせる」一方で、最後に、

「企業が積極的に、企業内弁護士として雇用してくれれば」

と漏らしているのである・・・。


法律事務所での職場内訓練が必要」と言いつつ、「企業」に「雇用先」としての役割を求めるとはこれいかに。



法律事務所における「職場内訓練」と、「企業」における「職場内訓練」は同じではない。企業内弁護士の前例がない会社に入っていく場合はもちろん、仮に先人が一人二人いたとしても、通常の法律事務所に入るのとは明らかに異なるだろう。


企業に入れば、事務所にしがみついている弁護士であれば見られないような“生の事実”に身近に触れることもできるし、会社の中のヒト・モノ・金の動き方・動かし方を実地で学ぶこともできる。だが、その一方で、対裁判所の手続きや訴訟上のテクニックは、手探りで学んでいく必要があるのも確かなわけで*2、「先輩弁護士がいる法律事務所での職場内訓練が必要」という前提に立つのであれば*3、そこで、「企業に雇用してもらうこと」を求めるのは、明らかにお門違いだ。


「職場内訓練」を求めるのであれば、既存の法律事務所に、世の中一般でOJTに必要とされる期間の間だけでも「新人を雇って教育する」よう求めるのが筋、というものだろう。


短いコラムだけに、ご本人のコメントがつぎはぎで引用されている可能性はかなり高く、このような矛盾を発言者の責めに帰すのは気の毒だとは思う。


だが、傍から見ている限り、「就職が飽和状態」とされている東京圏においても、

「もう少し人を雇って、効率的に仕事片付けた方がいいんじゃないですか?」

と苦言を呈したくなるような事務所が決して少なくない現状の下で*4

「人を雇わない法律事務所側の問題」

に言及することなく、企業側に「採用」を期待する(しかも、「法律事務所での職場内訓練が必要」という前提の下でそれを求めるのは)ようなコメントを新年早々載せられてしまうと、がっかりしてしまうわけで。


試験合格者の目標値が下方修正される方向にあるとはいえ、未だ新規参入者を“過剰感”を持って受け止める傾向が強い法曹界*5の八つ当たりが日増しに激しくなることは大いに予想されるだけに、企業法務の現場を預かる人間は、皆、「そろそろ一戦・・・」と覚悟しなければならない時期に来ているかもしれない。不幸なことではあるが。

*1:日本経済新聞2010年1月11日付朝刊・第14面。

*2:もちろん、顧問弁護士との共同受任等の機会を通じて教えを請う機会はあるし、会社の熟練した法務担当者であれば、ある程度は訴訟上のテクニック(特に証拠の集め方や尋問対応など)にも精通しているのだが、全ての会社でそういった機会に恵まれるとは限らない。逆にいえば、自力で学んでいくだけの向上心や積極性、限られた機会の中からエッセンスを吸収できる能力といったものを備えていなければ、企業内弁護士として力を付けていくのは難しいと思う。

*3:なお、自分は、新人弁護士にとって「法律事務所での職場内訓練」などというものは決して「必要条件」ではない、と考えているが、それはまた別の機会に触れることにしたい。

*4:もちろん、経験の浅い新人を入れたところで仕事の処理スピードが速くなるわけではないのだが、そこは事務所での教育次第だろうし、“先生”の体が空かなくて打ち合わせのスケジュールを入れることさえ一苦労、という状況がある以上、「“子供の使い”でもいいから、まず人を増やせ」というのが、多くのクライアント側の担当者の見解ではないかと思う。

*5:そう思っているのは法曹界の人間だけなのだが。

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