4月18日は発明の日である。
ここは本来笑うところではない。
だが、どうしても失笑を禁じえないのは、
「特に特許査定率及び海外出願率に優れた企業については、発明の日(4月18日)の知財功労賞の一環で、特許戦略優良企業として表彰する予定としております」
などという、経済産業省のプレスリリースを見てしまったからだ*1。
この表彰、以前このブログで酷評した、
「特許審査迅速化・効率化のための行動計画」に基づくものと思われるが、
(http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20060126/1138207208)
早くも今年度から実施するとは、
なんともスピーディな業務遂行であり賞賛に値する(笑)。
上記プレスリリースの添付資料を見ると、
「特許戦略指標上位指数」なる数値が公表されているのだが、
そこに出てくる数字たるや、
「平均特許査定率」と「グローバル出願率」を算出し、
それぞれを数値化した合計ポイントでランキングを付ける、
という極めて悪趣味なものであり、
「ポイントが高いから表彰します」と言われたところで、
当の対象企業が一番戸惑うのではないだろうか。
このあたりの批評は、出願手続きのプロの方にお任せするが、
自分は、「平均特許査定率」の高さは、
決して“優れた特許戦略”を意味するものではない、と思っている。
むしろ、知財保護に力を入れて、潤沢な予算をつぎ込んでいる企業ほど、
審査請求の件数が多くなり、それだけ黒星率も高くなっている、
というのが現状だろう。
審査コストを減らしたい、という特許庁の心情は分かるにしても、
それはあくまでも特許庁サイドの“お家の事情”に過ぎないのであって、
それを、“特許戦略の巧拙”という高尚な次元の問題として捉えるのは、
いささか手前味噌が過ぎるように思われる。
費用節約のために審査請求を断念するか、
少々費用を無駄にしてもきちんと審査してもらう、という選択をするかは、
本来、各企業の懐事情による部分が大きいのであり、
前者を選択した企業にかける言葉としては、
「こんなご時勢なのに大変ですね」という言葉の方がふさわしい。
もし、知財業界の人間が、
前者のタイプの企業に対して「すばらしい特許戦略ですね」などと言ったら、
なんと嫌味なことか。
懐事情が厳しいがゆえに、“厳選された”審査請求を行っている会社に
スポットを当てた、という意味では特許庁は賞賛されるべきなのかもしれない。
まさに、「貧乏万歳!」の世界である。
しかし、そんなデータに基づいて「表彰」を行ったところで、
それを名誉あるもの、と受け止める企業がどれほどあるか、
ということについては、疑念を抱かざるを得ない。
もうひとつの「グローバル出願率」にしてもそうだ。
ことの本質は、
グローバルに事業を展開している会社は積極的に国際出願をするが
(というか、国際出願せざるを得ない)
そうでなければ国際出願しない、という単純な問題に過ぎない。
海外に事業展開しているにもかかわらず、
当該国に特許の出願をしていない、という話になれば、
“戦略”云々が取りざたされる余地もあろうが、
そもそも海外との接点が薄い会社であれば、
海外に出願しないことに戦略もへったくれもないのである。
まぁ、表彰式の方は、本日“盛大”に行われているのだろうが、
知財業界の“橋田寿賀子賞”と揶揄されないよう、
今後ともご尽力いただければ、と思う。
ちなみに、上記プレスリリースには、
「弁理士事務所の出願関連情報」も添付されている。
企業側の人間としては、
こちらの方の特許査定率を公表していただけると大変有難いのだが、
残念ながら、そのような数字は掲載されていない。
おそらく、国内企業の数よりも特許事務所の数の方が少ないはずで、
その気になれば容易に出せる数字のはずであるから、
「企業にとって特許出願の際に当該出願に係る技術分野などに詳しい適切な代理人を選定することを容易」
にする、というご配慮をいただくのであれば、
そこまで徹底してやっていただきたいものだと思う。
何ゆえに、企業のみが“不名誉な”*2数字を
さらされなければならぬのか、
全くもって困った話である*3
「発明の日」は1885年の「専売特許条例」公布に由来するとのことだが、
筆者としては、121年後に始まった奇妙な「表彰」制度を見て、
特許制度の父・高橋是清翁が草葉の蔭で嘆かれていないか、と心配でならない・・・。
*1:平成18年4月14日付「企業・代理人の特許出願・審査請求関連情報の公表について」(http://www.meti.go.jp/press/20060414003/20060414003.html)
*2:別に当の企業自体は不名誉ともなんとも思っていないだろうけど(笑)
*3:特許事務所の場合、クライアントの意向で審査請求を行っているに過ぎないのだから数字を出しても意味がない、という“言い訳”が考えられよう。だが、それは企業についても同じことで、職務発明訴訟等のトラブルの種を抱える以上、発明者個人の意向にむげに背くわけにもいかず、「審査請求まではしてやった」というために、審査請求しているケースも多々あることを看過すべきではない。