特許庁「知財戦略事例集」公表

特許庁が全276頁にもわたる「知財戦略事例集」を公表した*1


日経の記事によると、

「発明の特許出願を検討する際、出願しない方が競争上有利なケースなど600の具体的事例を明示した。事例集を活用する企業が、知財戦略の効率化を推進。質の高い特許に出願を絞ることで特許審査の迅速化も狙う。」(2007年4月5日付け朝刊・第5面)

ということである。


当然ながら、お役所がわざわざこういった事例集を公表する裏には、大量の特許出願に忙殺される状況を何とか改善したい、という思惑が透けて見えるのであるが、いろんな思惑を抱えて仕事をしているのは誰しも同じことで、本来「専門家」としてこのようなアドバイス(特許出願するかしないか等)を行うべき弁理士業界に本事例集のような“サービス”の提供は期待しえない*2ことを考えると、一応、今回の事例集にも意義はあるというべきだろう。知財部門が研究開発戦略にどのように関与していくべきか、等、いろいろと考えさせられるところは多いように思う。


もっとも、積極的に「知財戦略」を研究開発戦略とミックスさせたくても人的リソースがそれを許さない(受身の出願事務に追われてとてもそれどころではない)のが現実だし、グローバルに出願したくても予算制約でままならないのが現実だったりする。


それはあくまで知財部門自身の経営層への働きかけの問題、と言われればそれまでなのだが、「戦略」を説く側にしても、狭い“知財村”の中だけでアピールするのではなく、コアな経営者の世界でもっと「正論」を説いてほしいものだと思うのである*3


なお、個人的には、本来特許としても出願登録できる可能性のある特許をノウハウとして秘匿した時の、発明者に対する補償をめぐるトラブルにどう対処していくのか事例集にはほとんど記載されていないのも気掛かりなのであるが*4、そこまでのフォローを特許庁に求めるのは酷かもしれない・・・。

*1:http://www.jpo.go.jp/torikumi/puresu/pdf/puresu_chiteki_keieiryoku/02.pdf

*2:弁理士は特許の明細書を書いてナンボ、出願してナンボの世界だし、ノウハウ秘匿を進めて公知になってしまった場合にクライアントに対して負わされる責任等も鑑みると、内心特許庁の方針に賛同していたとしても、同じような情報を公に提供することはできないだろう。

*3:実質的には知財業界の関係者しか参加しない知財協のシンポジウムなどで「知財経営」マターの議論が行われているのを見かけるたびに、よく思うことである。

*4:特許にならなかった、あるいは特許になったが価値が認められなかった、というのであれば発明者に対しても会社側の「理」を主張することができるが、「特許になったかもしれないが(会社が)そうしなかった」発明の価値が争われた時に、同じように「理」を主張していけるのかはかなり疑問で、それゆえ多くの大企業では、文字通り「防衛的に」出願している事例もかなりあるのではないか、と推察される。

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