「最高裁判決法廷意見の分析」(第6回)

しばらく間が空いたが、再びいくつか取り上げてみたいと思う。

最二小判平成18年3月17日*1

原審が福岡高裁那覇支部、というローカルな事案が
最高裁という大舞台で注目を浴びることになったわけだが、
概要を簡単に説明すると、
「入会部落の慣習に基づく入会集団の会則」のうち、

「入会権者の資格を世帯主及び男子孫に限り、A部落民最高裁HPママ)以外の男性と婚姻した女子孫は離婚して旧姓に復しない限り資格を認めないとする部分」

が、公序良俗に反して無効とならないか(民法90条)、という点が
争われた事案ということになる。


元々入会慣習というのは、地域色の濃いものであり、
原審も、そのような特殊性を踏まえて、

「入会権は、過去の長年月にわたって形成された地方の慣習に根ざした権利であるから、そのような慣習がその内容を徐々に変化させつつもなお存続しているときは、これを最大限尊重すべきであって、その慣習に必要性ないし合理性が見当たらないということから直ちに公序良俗に反して無効ということはできない。」

と判示し、原告による入会権者としての地位確認請求等を棄却した。


しかし、本最高裁判決の多数意見は、
「世帯主要件」は公序良俗に反しない、としたものの、
「男子孫要件」は、
「専ら女子であることのみを理由として女子を男子と差別したもの」であり、
民法90条の規定により無効」として、
本件を原審に差し戻したのである。


判決文によれば、この結論については「全会一致の意見」とされており、
明確に「反対意見」として付されたものもない。


一見すると、本件会則の条項は、明らかに男女差別的条項な内容だから、
当然の結論のようにも思えるが、
「補足意見」として付された二裁判官の意見を読むと、
問題はそう単純なものではない、と言うことが見てとれる。

滝井繁男裁判官(弁護士出身)補足意見

滝井裁判官は、
「入会団体を構成する基本単位は当該地域集団における家ないし世帯」であって、
「地域に居住することのみから権利の主体となり得るものではない」こと、
そして、入会権者の資格は、あくまで当初の構成員であった世帯の代表者から
次の代表者へと承継されるものであって、
一般的な「個人的相続原理に服さない」ことを前提として重視されている。


そして、上記の帰結として、

①「世帯の代表者に女性を選んだことをもって構成員としての資格を失わせる」

場合と、

②「世帯を代表者としての地位を承継しなかった女性が新たに構成員として加入することを認めない」

場合とを区別し、
本件で問題になっているのは後者の場合であって、
(それも、いったん部落を出た後帰村したという事情がある)
原判決の認定からは、
そもそも同様な経緯により帰村した男子孫が
どのような条件の下で構成員として承認されることになっているのか明らかではない、
と述べられる。


確かに、原判決の認定事実として挙げられている

「男子孫が分家し、A地区内に独立の世帯を構えるに至った場合は、その世帯主からの届出によって入会権者の資格を認められる」

という条件は、
あくまで「分家」したとはいえ、そのままA地区内に居住し続ける男子孫を
念頭に置いているようにも読め、
本件の事案に照らして、より会則の運用実態等を吟味すべき、
という指摘には納得させられるものがある。


また、滝井裁判官は、
本件入会地をめぐる特殊な事情にも注目されている。


すなわち、認定事実によれば、

「本件入会地は、第2次世界大戦後、国が賃借した上でアメリカ合衆国の軍隊(以下「駐留軍」という。)の用に供するために使用され、その賃料は、被上告人により収受・管理され、その一部が入会権者である被上告人の構成員らに対し、補償金として分配されている

ということであり、
本件では、

「入会団体の構成員としての資格を画する上で重要な意味を持つ入会権者の負担が事実上消滅している」

のである*2


滝井裁判官は、結論として、

「本件において、このような入会地の利用形態の変化と家制度の消滅という状況の変化の中で、本件入会地において男子孫の間で行われてきた入会団体構成員としての新規加入がどのような条件の下で認められているのかがまず明らかにされ、その上で本件入会地における女子孫についても同じ条件の下での加入が認められるべきものである」

述べられるのみであり、上記の入会地をめぐる特殊事情が、
本件の結論にどのように影響を与えるか、ということについては言及していない。


ただ、本来であれば、労務の提供や維持経費の負担など、
何らかの「義務」を伴うべき入会権者としての地位が、
単なる「打ち出の小槌」に変容しているかのように思われる本件においては、
新規加入に関する資格要件が厳格になっていてもやむを得ない、
という価値判断が背景にあるようにも思われる。


この点「破棄差戻」という結論こそ同じくしているとはいえ、
会則条項は女性差別的なもの → よって無効、とした多数意見とは、
大きな違いを見ることができる。

古田佑紀裁判官(検察官出身)補足意見

古田裁判官の補足意見は、

「独立の生計を営むに至った男子孫であっても直ちに入会権が認められているわけではないことにかんがみ、前記1(4)オの「分家」の意義等男子孫について入会権が認められる条件を更に明らかにして検討する必要があるという趣旨において、滝井裁判官の意見に同調する」

というものであり、
概ね滝井裁判官の補足意見と問題意識を同じくするものといえる。

雑感

あくまで私見だが、
もし、本件で問題になっている「入会権者としての地位」が、
多大な労務提供や金銭負担を伴うものであれば、
そもそも本件のような訴訟は起きなかったに違いない。


そして、多数意見のように「女子孫に対する差別」条項が常に無効となる*3
とすると、別の場面では、
逆に女性が世帯主となっている世帯に過重な負担を課す
という帰結が導かれることになる可能性も否定できない。


おそらく、多数意見に従って原審が判断を行う限り、
本件に関しては、入会権者としての地位が認められることになるだろうが、
憲法14条1項をめぐる問題が一筋縄ではいかない、
ということを意識する上で、本件は一つの良い材料となりうるように思われる。


差別か、それとも合理的な区別か、
徹底的に平等を志向することで得られるもの、そして失われるものは何か、
運動論だけでは片付けられない何かが、そこにはある。

*1:H16(受)第1968号・地位確認等請求事件

*2:原告は、入会団体の正会員であることの確認を求めるとともに、分配されるべき補償金として、一人当たり306万円の支払をも求めている。

*3:あくまで事案に即した判断、という体裁になっているとはいえ、一人歩きしてもおかしくない規範ではある。