最高裁判所裁判官・国民審査対象各裁判官の個別意見について

いよいよ明日は、衆議院総選挙。
そして、同時に行われるのが、最高裁判所裁判官の国民審査である。

ここ何回かの国民審査に合わせてキャンペーンを行っている某団体が存在することもあって、国民審査の認知度は以前に比べれば格段に高まっているように思われるし、それはそれで、悪いことではないだろう。

ただ、「投票価値の平等」というシングル・イシューだけで、裁判官の「罷免」の要否を決しようとする某団体のスタンスに対しては、自分はかねてから疑問を感じている*1

また、もう少し冷静にいくつかの要素を取り上げて、国民審査の材料を提供しようとする良サイトもあるが*2、一般の方向けに作られた「ガイド」の場合、どうしても憲法判断が絡む事件や、著名な刑事事件に関する意見が取り上げられることが多く、各裁判官が、プロにとってはより“身近”な法律問題に対して、どのようなスタンスで判断を下しているのか、というところまでは、なかなか見ることができない。

そこで、投票日前日の夜、というかなり微妙なタイミングではあるが、裁判所HPの判例検索システムを利用して、各裁判官が個別に意見を述べている判決を抽出し、その全ての内容をダイジェスト版で公開することで、「×」を投じるかどうか迷っている“プロ”“セミプロ”の皆様には、参考にしていただければ、と思う*3

第一小法廷*4

横田尤孝(検察官出身)

平成22年1月就任、平成26年定年退官予定

反対意見
平成23年12月12日(H19(あ)2276)
 北九州一家殺人事件で、6名を殺害した主犯A(死刑)の共犯者に対し、「極刑以外の選択肢はあり得ない」として、被告人を無期懲役刑とした原審判決の破棄差し戻しを主張。

補足意見
平成23年12月15日(H22(行ツ)300)
 地方公共団体の非常勤職員に対する報酬の決定について地方議会の裁量を認めた法廷意見を支持しつつも、裁量権は無限定なものではなく、合理的な限界が存在することを指摘。
平成24年2月9日(H23(行ツ)177)
 学校式典時の教員の国歌斉唱等拒否に対し、職務命令違反に対する一定の処分はやむを得ない、としつつも、都教委の機械的な懲戒処分量定については「一般論としては問題がある」とコメント。「この稔りなき応酬を終息させることは,関係者全ての責務というべきである」と述べる。

白木勇(裁判官出身)

平成22年1月就任、平成27年定年退官予定

補足意見
平成24年2月13日(H23(あ)757)
 裁判員制度施行下の刑事控訴審の判断手法について「第1審の判断が,論理則,経験則等に照らして不合理なものでない限り,許容範囲内のものと考える姿勢を持つことが重要であること」を指摘。

山浦善樹(弁護士出身)

平成24年3月就任、平成28年定年退官予定

個別意見見当たらず。

第二小法廷*5

須藤正彦(弁護士出身)

平成21年12月就任、平成24年定年退官予定

反対意見
■平成22年4月12日(H21(行フ)3)
 地方議会会派が所持する各議員から提出された政務調査費報告書及びその領収書は自己利用文書に該当しない、として、文書提出命令を出した原審の判断を維持すべき、とした。
平成24年3月16日(H22(受)332)
 生命保険約款の当然失効条項に関して、消費者への配慮条項の存在や督促実務をもって消費者契約法10条後段該当性を否定した多数意見に対し、「消費者に催告を受けて債務不履行状態を解消することができるのと同等の地位が法的に担保されていない」として、消費者契約法10条該当性を肯定すべき、と述べた。
平成24年10月17日(H23(行ツ)64)大法廷
 平成22年の参議院選挙に関し、平成18年大法廷判決以降の国会の立法不作為が裁量権の限界を超えており、憲法違反であるとコメント。今回は事情判決だが、平成25年選挙においても現状のままであった場合、選挙無効訴訟の提起された選挙区の選出議員の選挙に限って無効、とする。
平成24年12月7日(H22(あ)957)
 国家公務員の勤務外の政治的行為について、国家公務員法の罰則規定を適用することにつき消極的な意見(結論として無罪)。

意見
平成24年4月23日(H22(行ヒ)136)
 住民訴訟の対象となっている損害賠償請求権を放棄する地方議会の議決の適法性について、議決の違法性に係る多数意見の判断枠組みに賛同し,その枠組みに依拠した審理を十全に尽くす観点から,本件を原審に差し戻すという多数意見の結論には同調しつつも、本件への当てはめに関しては,差戻審での審理の結果において別異に解すべき特段の事情が現れない限り,本件議決を違法とした原判決の結論を正当として維持すべき、と主張した。

補足意見
■平成22年3月17日(H21(あ)178)
 募金詐欺の被害額認定に関し、可能な限り被害者ごとの金員の額を具体的に証明すべき、と指摘し、被害者に対する捜査が不十分な場合は、被害金額として認定されない場合もある旨指摘。
■平成22年7月16日(H20(行ヒ)241)
 社団医療法人の出資引き受けに対する贈与税の課税に関し、社団医療法人が会社と同様の事業体であり、定款の規定等で持分払い戻し等が制限されていたとしても、それによって価値評価が左右されるものではない、として企業価値の算出に際して類似業種比準方式を採用した法廷意見を補足した。
■平成22年10月22日(H20(受)1631)
 公開買付によらずに株式を取得したことに対する損害賠償請求事件に関し、公開買付に係る規制の経緯を敷衍した上で、原審の解釈は文理面、実質面から適切ではない、として、原審判決破棄、請求棄却とした法廷意見の説明を補足した。
平成23年2月18日(H20(行ヒ)139)
 贈与税の課税に係る「国内における住所」の有無が争点とされた事例に関し、本件スキームが贈与税回避スキームであることを指摘した上で、その不公平感を指摘しつつも、「租税法律主義という憲法上の要請の下,法廷意見の結論は,一般的な法感情の観点からは少なからざる違和感も生じないではないけれども,やむを得ないところである」と述べた。
平成23年3月23日(H22(行ツ)129)、平成23年3月23日(H22(行ツ)207)大法廷
 平成21年衆院選に関し、「1人別枠方式」が投票価値の平等の要求に反する状態となっていたとする多数意見を補足し、「人口の少ない県に対する配慮」から1人別枠方式を採用することは、二重の意味で不合理である、とコメント。候補者届出政党とそれ以外の候補者との選挙運動上の差異の規定は、国会の合理的裁量の限界を超えているとはいえない、とした(207号事件)。
平成23年5月30日(H22(行ツ)54)
 国歌起立斉唱に係る職務命令に関し、「外部的行為を介しての間接的制約」に係る合憲性の判断枠組みを補充的に検討した上で、命令に必要性、合理性ありとする。ただし、不利益処分に係る裁量論としては、処分が裁量の範囲を逸脱するとして違法となる可能性もあることを示唆。
平成23年7月15日(H21(受)1905)
 懲戒請求を呼びかけた弁護士に対する損害賠償請求事件において、懲戒制度の趣旨等に照らし、テレビにおける懲戒請求の勧奨は「差し控えるべきであった」とコメント。そのうえで、原告らの侵害された人格的利益は必ずしも重大なものではない、として法廷意見の結論を支持した。
平成23年7月25日(H22(あ)509)
 被害者供述の信用性を否定して被告人を無罪(破棄自判)とした多数意見に関し、被害者供述の内容が被告人の過去の特徴的な行動傾向に反することや被害者側の虚偽供述の動機等を指摘して説明を補足。「犯罪を犯した者を犯罪者としないことは疑いもなく不正義である。だが,犯罪を犯していない者を犯罪者とすることは,国家による人権侵害を惹起し,許され得ない不正義に当たる。」とコメント。
平成23年9月30日(H21(行ツ)173)
 土地譲渡所得の損益通算廃止に係る改正規定の適用に関し、納税者の経済活動等における法的安定性、予測可能性の観点からも、改正法の国会提出時期、施行時期等に鑑み、「納税者の租税法規上の地位に対する合理的な制約として容認され得る」とコメント。
平成24年1月13日(H21(行ヒ)404)
 養老保険契約の保険金支払に係る所得税課税が争われた事件において、租税法律主義の観点から及び条文の文言等から、法廷意見の解釈を補足的に説明。
平成24年2月29日(H23(許)21)
 株式移転に伴う株式買取価格の決定に際し、企業の客観的価値やシナジー効果が生じるとされる企業再編での公正な株式移転比率などの考え方について補足的に説明。
平成24年5月28日(H21(受)1567)
 無委託保証人による破産開始後求償権の相殺の可否につき、「取引界の支配通念に照らして実質的平等に合致する」か否かにより判断する視点から法廷意見を補足。
平成24年10月12日(H22(受)622)
 新設分割が詐害行為取消請求権の対象となるとした法廷意見に関し、「債権者が害されること」について説明を補足。
平成24年10月19日(H23(受)462)
 債務整理開始通知を破産法上の「支払の停止」に該当する、とした法廷意見に関し、個人・小規模企業と一定規模以上の企業との違いについてコメント。
平成24年12月7日(H22(あ)762) 
 国家公務員の勤務外の政治的行為について、国家公務員法の罰則規定を適用することにつき消極的な意見。
平成24年12月14日(H23(受)1833)
 根保証の随伴性を肯定した法廷意見に関し、契約書の合理的意思解釈の見地から結論を支持するコメント。

千葉勝美(裁判官出身)

平成21年12月就任、平成28年定年退官予定

反対意見
平成24年2月29日(H23(あ)775)
 放火事件に関し、訴因変更手続きを経ずに引火、爆発方法を認定した訴訟手続の違法を指摘しつつ、原審の有罪判決を破棄しなかった多数意見に対し、「訴因を対象として攻撃防御を尽くすという刑事裁判の手続的正義の観点から賛成することはできない」として、破棄差し戻しを主張。

補足意見
■平成22年3月17日(H21(あ)178)
 募金詐欺において、多数人に対する詐欺を包括一罪としたことについて、被害者及び被害法益の特定性が希薄、という観点から説明を補足。
■平成22年9月10日(H20(行ヒ)432)
 臨時的任用職員に対して一時金の支払を行っている実務に言及した上で、今後の法的、行政的手当の必要性、さらに条例改正を行わず支給を継続した場合に裁判所の厳しい見解が示される可能性を示唆。
■平成22年10月8日(H21(受)565)
 定額郵便貯金債権が分割債権としての基本的な属性を欠くに至っていることを指摘し、遺産に属することの確認の訴えに確認の利益を認めた法廷意見を補足した。
■平成22年10月15日(H21(受)1932)
 不法行為に基づく損害賠償と労災保険給付との損益相殺的調整について、平成16年最高裁判決(遺族年金給付との調整)との違いについて言及し、事案を異にするとした法廷意見を補足した。その上で、平成16年判決を改める可能性についても言及。
平成23年4月22日(H20(受)1940)
 出資契約に係る説明義務違反が問題とされた事例において、契約締結前の説明義務と契約締結後の説明義務、指示義務等とは区別されるもの、とし、債務不履行責任についての消滅時効の適用を認めることはできないとして、法廷意見の説明を補充した。
平成23年5月30日(H22(行ツ)54)
 国歌起立斉唱に係る職務命令に関し、合憲性審査に関する視点を補充的に述べた上で、命令に必要性、合理性ありとする。ただし「国旗及び国歌が,強制的にではなく,自発的な敬愛の対象となるような環境を整えることが何よりも重要である」旨を付言。
平成23年7月15日(H21(受)1905)
 懲戒請求を呼びかけた弁護士に対する損害賠償請求事件において、本件呼びかけ行為の意味を実質的に解釈した上で、「弁護士懲戒制度の趣旨に反する言動であるとまでみる必要はない」とし、刑事弁護活動への批判についても、社会一般の評価に委ねるべき、として法廷意見を支持。
平成23年7月25日(H22(あ)509)
 被害者供述の信用性を否定して被告人を無罪(破棄自判)とした多数意見を補足して被害者供述の信用性を慎重に吟味すべき旨を説き、被害者、被告人供述を詳細に検討した上で、原審の認定には、「合理的な疑いを超えた証明」の点から大いに問題がある、とコメント。
平成23年9月30日(H21(行ツ)173)
 土地譲渡所得の損益通算廃止に係る改正規定の適用に関し、年始から法案提出までの間に行われた長期譲渡に適用することに疑義を呈しつつも、租税法規の適用に関する、客観的,形式的,画一的に平等に行うこと、という基本的要請や、暦年の全体を通じた公平という観点から、暦年当初からの適用の合理性、必要性を認めた。ただし、附則上の手当てをする配慮が望まれるところであった、ともコメント。
平成24年2月13日(H23(あ)757)
 精神鑑定を行った医師が秘密漏示罪に問われた事件において、刑法134条の限定解釈に言及しつつも、同条は「(医師に高度の倫理が要請されることを前提に)倫理的に非難されるべき行為を刑罰をもって禁止したもの」と解すべき、と述べた。
平成24年4月20日(H21(行ヒ)235)、平成24年4月20日(H22(行ヒ)102)、平成24年4月23日(H22(行ヒ)136)
 住民訴訟の対象となっている損害賠償請求権を放棄する地方議会の議決の適法性について、現在の住民訴訟の制度上、個人に過酷な責任を負わせる場合があること等を指摘した上で、原審判決とは異なる判断枠組みに基づき審理を行う必要がある、として、多数意見の破棄差戻しの結論を補充(議会に、単なる政治的、党派的、温情的判断のみで処理することなく慎重な判断を求める)。136号事件では、須藤裁判官の「意見」を批判。
平成24年4月27日(H22(行ヒ)46)
 労働委員会の救済命令の履行可能性の有無は、実体法上の違法・無効事由の有無の問題として扱われるべき、として「訴えの利益は失われていない」とした多数意見を補足した。
平成24年5月28日(H21(受)1567)
 無委託保証契約による事後求償権と、委託保証契約による事後求償権との間で法的な取扱いに差を設けることの合理性について、補足的に説明。
平成24年10月17日(H23(行ツ)64)大法廷
 参議院選挙についても人口比例原則の原則が適用され、二院制の趣旨に鑑みても投票価値の較差の合理性を説明することはできない、とコメント。
平成24年11月6日(H24(あ)23)
 承継的共同正犯における共謀加担後の傷害の認定・特定についてコメント。
平成24年12月7日(H22(あ)957)、平成24年12月7日(H22(あ)762)
 国家公務員の政治的行為に関し、猿払事件大法廷判決は矛盾・抵触しないと説明した上で、国家公務員法の罰則規定の限定解釈を「通常の法令解釈の手法」と説明した。

小貫芳信(検察官出身)

平成24年4月就任、平成30年定年退官予定

個別意見見当たらず

第三小法廷*6

岡部喜代子(裁判官/研究者出身)

平成22年4月就任、平成31年定年退官予定

反対意見
平成23年6月7日(H21(行ヒ)91)
 建築士の免許取消処分に関し、処分基準との「適用関係」が処分理由中に明示されていないからと言って、常に手続違背が生じるとは言えない、と指摘。訴訟経済の観点からも免許取消処分を取り消した多数意見に反対(那須裁判官の反対意見に同調)。
平成23年7月12日(H22(受)676)
 建物賃貸借契約に係る敷引特約に関し、敷引金の性質が明示されていなければ、消費者たる賃借人は適切な判断を行うことができない、と指摘し、さらに本件特約が賃借人の利益を一方的に害するものだとして、消費者契約法10条該当性を肯定、特約を無効とした原審判決を支持した。
平成24年3月13日(H22(受)755)
 有価証券虚偽記載に係る会社への損害賠償請求の範囲について、民法709条の解釈及び金商法21条の2の規定の適用範囲に株価下落損害まで含めるべきではない、として多数意見に反対し、破棄差戻しを主張。平成23年9月13日判決との違いについても説明。

補足意見
■平成22年6月29日(H21(受)1298)
 権利能力なき社団を名宛人とする金銭債権を表示した債務名義に基づく執行文の付与について、登記名義人を名宛人とする執行文の付与を否定する法廷意見に同調しつつも、いかなる場合に執行可能か、といった点について法的論点を詳細に検討した(田原裁判官の補足意見に同調)。
■平成22年11月30日(H20(行ヒ)166)
 海難審判庁の裁決取消請求事件に関し、海上衝突予防法と海上交通安全法の適用関係について言及し、特別法たる後者が適用され、明石海峡においては右側端航行義務は適用されない、として法廷意見を補足した。
平成23年6月14日(H22(行ツ)314)、平成23年6月21日(H22(行ツ)372)
 国歌斉唱時の起立命令が憲法19条に違反しない、とする多数意見を支持しつつも、命令違反への懲戒処分に関しては、不利益処分を課すに当たって慎重な衡量が求められる、とし、命令に従って起立することが当該個人の思想及び良心の自由についての間接的な制約となる面がある場合には、当該不利益処分を課すことが裁量権の逸脱又は濫用に該当する場合があり得る、とした。
平成23年10月25日(H22(行ツ)19)
 混合診療に係る健康保険給付に関し、「不可分一体論」を検討するまでもなく、インターフェロン療法が保険診療外となることが認められるとし、「保険外併用療養費」制度の下で混合診療保険給付外の原則は,既に緩和されていることなどを指摘した上で、しかるべき医療技術が評価療養として取り入れられることが肝要であると指摘した。
平成24年2月7日(H23(許)31)
 民法上の共有物分割に係る競売手続に民事執行法59条、63条を準用する、という法廷意見に対し補足的に解説。

大谷剛彦(裁判官出身)

平成22年6月就任、平成29年定年退官予定

反対意見
平成23年12月19日(H21(あ)1900)
 Winny著作権侵害罪幇助犯の成否について、「被告人に侵害的利用の高度の蓋然性についての認識と認容も認められる」として、構成要件該当性及び故意を肯定し、有罪とすべきとコメント。実質的違法性阻却についても消極。ただし、本件に係る事情については量刑面で配慮すべき、とする。

補足意見
平成23年6月21日(H22(行ツ)372)
 国歌斉唱時の起立を求める職務命令は、ピアノ伴奏を命じる場合とは異なり、「敬意という要素を含むがゆえに,本人に心理的葛藤を生じさせ,ひいては内心の中核の歴史観ないし世界観へ影響を及ぼし,思想及び良心の自由についての間接的な制約となる面がある」という点を指摘。「教育関係者の相互の理解と慎重な対応が期待されるところである」とコメント。
平成23年10月25日(H22(行ツ)19)
 混合診療に係る健康保険給付に関し、インターフェロン療法を保険診療外とした法廷意見を支持しつつも、文理的解釈の限界を指摘し、「混合診療保険給付外の原則の合理性が問われる場面を減少させる意味からも,更なる迅速で柔軟な制度運営が期待されるところである」と述べた。
平成23年10月31日(H21(あ)1060)
 平成18年の3児死亡飲酒運転事故で、危険運転致死傷罪の成立を肯定した多数意見に関し、認定された事実等を踏まえて、被告人が「正常な運転が困難な状態」に該当することにつき補足説明。
平成24年4月24日(H22(受)1212)
 新株予約権の発行に係る無効原因の有無について、寺田裁判官の補足意見に同調。

寺田逸郎(裁判官)

平成22年12月就任、平成30年定年退官予定

反対意見
平成24年7月9日(H21(あ)2082)
 児童ポルノ法違反事件に関し大橋裁判官の反対意見に同調。

意見
平成23年9月13日(H22(受)1485)、平成23年9月13日(H21(受)1177)
 有価証券虚偽記載に係る損害賠償請求に関し、虚偽記載とは無関係な会社の業績不振による株価下落等を損害から控除する多数意見に対し、不法行為法上の解釈としては無理がある、と指摘。
平成23年10月25日(H22(行ツ)19)
 混合診療に係る健康保険給付制度に関し、健康保険及び保険外併用療養費制度がどのような基準に従い,どのように運用されるのか,その運用において合理性のある仕組みとして機能し続ける保障があるのかについて疑問が解消されていない、として、多数意見の説明を一部首肯できない、とした(ただし本件については結論支持)。

補足意見
平成23年7月12日(H22(受)676)
 建物賃貸借契約に係る敷引特約の消費者契約法10条該当性を否定した多数意見に関し、「敷引特約に係る金銭の支払義務が消費者契約法10条の適用対象になること」自体は肯定される(ただし、適用審査した結果、該当しないと判断される)、とコメント。
平成24年3月13日(H22(受)755)
 有価証券虚偽記載に係る会社への損害賠償請求の範囲について、岡部裁判官の反対意見を受けて、不法行為法の原則に立ち返り、金商法21条の2に関する多数意見の解釈の妥当性を補足説明。
平成24年4月24日(H22(受)1212)
 当初の行使条件を取締役会で変更した上で、新株予約権を行使して株式発行が行われた事例に関し、会社法改正で新株予約権の内容を取締役会に委任することができなくなった等の経緯にも触れつつ、株式発行に無効原因があるとした多数意見を補足した。

大橋正春(弁護士出身)

平成24年2月就任、平成29年定年退官予定

反対意見
平成24年7月9日(H21(あ)2082)
 共犯者のウェブページのURLを一部改変して掲載した行為に関し、児童ポルノ法上の「公然と陳列した」要件該当性を否定。刑罰法規の解釈として罪刑法定主義の原則をあまりにも踏み外すもので,許されるものではなく看過できない、とコメント。
平成24年10月17日(H23(行ツ)64)大法廷
 参議院選挙に関し、平成18年以降の国会の対応を批判し、平成22年選挙は憲法違反である、とコメント。事情判決による処理とし、再度の事情判決にも含み。選挙無効判決に備えた欠員補充のための立法措置の必要にも言及。

おまけ

筆者自身の個々の裁判官に対する評価は、あえてここには掲載しないが、前回国民審査(平成21年)以降の最高裁判例を検索した感想を述べるならば、皮肉なことに、今回審査の対象になっていない田原睦夫裁判官(平成18年に就任されているので、前回の国民審査の対象だった)の意見表明が一番目立っていたような気がする*7

もちろん、今回審査対象となっている裁判官の中にも、第二小法廷で張り合うように(?)熱心に個別意見を書かれている須藤裁判官、千葉裁判官のような方はいるのだが*8、他の裁判官については、就任からまだ日が浅いこともあってか、積極的な意見を書かれている機会は必ずしも多いとは言えない(特に今年就任された2裁判官については、未だ意見を目にする機会がない)。

「任命後初めて行はれる衆議院議員総選挙の際」というのは、憲法79条2項に明記されている事柄なので、憲法改正をしない限り、どうしようもないことなのかもしれないが、最近よく言われているような、民主主義的観点から、「国民審査」を位置づけるのであれば、制度面でもう一工夫、二工夫必要なのだろうなぁ、と思うところ。

憲法の条文を素直に読むなら、「国民審査」は、あくまで内閣が行う「任命」行為に関する審査で、時の内閣が縁故や党派的思惑で裁判官を任命したような極端な場合でなければ審査はクリアされる(個々の裁判官の最高裁判事としての活動そのものを審査の対象としているわけではない)、と解釈する余地もあるように思えるだけに、自分はそれで良いのではないかな、とも思っているのだけれど。

まぁ、明日を楽しみに待つことにしよう。

*1:筆者も、「投票価値の平等」が重要な問題であることを否定するものではないし、一連の選挙無効訴訟に対する最高裁の各裁判官の個別意見が、それぞれの裁判官の価値観を如実に反映しているものであるのも確かだとは思うが、その内容が自分たちの目指すものにそぐわない、という理由だけで「×」を付けよ、と扇動するのは、いかにそれが“運動”だとしても、行き過ぎの感は否めないと思う。しかも、今回に至っては、「全員に×を付けよ」という全く理解できない戦術を取り出した。ここ最近の最高裁判決が「違憲状態」を宣言し続けており、明確に「標的」とし得る裁判官がいなくなってしまったがゆえの“自暴自棄”的行動なのかもしれないが、あの悪趣味な意見広告を何度見たところで、自分には某団体とそれにかかわる人々に対する嫌悪感しか出てこない。

*2:特に、「国民審査の×ガイド」というサイトは分かりやすくて良いと思う(http://miso.txt-nifty.com/shinsa/2012x.html)。

*3:一応、全ての意見を拾ったつもりだが、漏れている可能性もないとは言えないので、その場合はどうぞご容赦のほどを。

*4:櫻井裁判官、金築裁判官は対象外である。

*5:竹崎最高裁長官、竹内裁判官は対象外である。

*6:田原裁判官は対象外である。

*7:ついでに言うと、知財業界で物議を醸す補足意見を多く書かれた某裁判官も、就任直後に国民審査をパスしているため、今回は対象外である・・・。

*8:もっとも、須藤裁判官は年内で定年退官することが確実な状況で、何のために国民審査を行うのか、ということが問われる一例にもなっていると言える。

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