配当をめぐる株主の“叛乱”

今年も株主総会シーズンが終わったが、
注目されていた定款変更の承認議案について、
興味深い記事が出ている。

「23日の株主総会で、配当の決定機関を株主総会から取締役会に移す定款変更と買収防衛策を可決した帝人。興津誠会長は「防衛策より配当の方で反対票が多くなるとは」と驚きを隠さない。多くの会社が似た思いだろう。しかし企業年金連合会は「配当の問題が最大の争点だと思っていた」(年金運用部)(2006年6月30日付け朝刊・第3面)

その結果、任天堂で議案が否決、
ミツミ電機が当日に議案取り下げ、
神戸製鋼所に至っては、賛成67%という薄氷を踏む思いでの可決。


会社法導入時の議論において話題になっていたのは、
取締役の責任免除や買収防衛策の方で、
配当権限の委譲については、
既に委員会設置会社で行われていることもあって、
さほど争点にはならなかったし、
「機動的な配当を可能にする」というメリットが強調されることの方が
多かったように思う。


立法担当官の解説書においても、

「委員会の設置と監査役の設置との違いによって、配当を行う際の決議機関を違えるべき合理的理由はないことから」*1

一定の要件(定款の定めを置くことを含む)を満たすことにより
取締役会の決議によって通常の配当を行うことができる、
とする会社法の規定(459条1項・2項)を合理的なものとして認めている。


もっとも、長島大野常松法律事務所が出しているテキストには、
この点、以下のような記述がある。
さすがは我が国随一の法律事務所、
リスク関知能力の高さを垣間見せたというべきか。

「取締役会で剰余金の分配の決定ができる旨の定款規定がある場合、取締役会の専権事項にし、株主の配当議題提案権を、定款で否定することができることになる。近時配当についての投資家の関心は高く、株主からの増配提案も頻繁に見られるところ、将来にわたってこれを包括的に否定することになる定款変更案を取締役会が提案した場合における株主の反応や株価への影響については現時点では予想はできない。改正前商法上の委員会設置会社のように、定款に別段の定めのない限り株主には提案権すらないという制度の下では特段問題にならなかったところ、このように規制を分離すると、株主の提案権部分に注目が集まり、かかる定款変更の提案を行いにくい状況が生じる可能性もある。」*2

今回はまさにその提案権部分に注目が集まってしまった、
ということになるのだろう*3


もっとも、本来、剰余金の配当を増やせば増やすほど、
将来的な会社の成長余力は失われるわけで、
大量の株式を保有する一部ファンドはともかく、
配当などお小遣い程度にしかならない個人投資家にとってみれば、
増配などありがた迷惑な話でしかないはずなのだが、
この国では不思議なことに、
配当を増やすと株価が上がる、
という“珍現象”が日常的に起きている*4


上場会社である以上、
株主の意向に逆らえないのは当然のこととはいえ、
今回の“反対票”にもそういった珍妙な“投資家心理”が
一部反映されているのだとすれば
当該会社にとっては少し気の毒な「騒動」と言えなくもない*5


なお蛇足ながら、
先日書店に行ったら、
昨年12月に販売された『アドバンス 新・会社法』の
第2版が早々と出ていて、一瞬殺意すら覚えたのだが(笑)、

アドバンス 新会社法

アドバンス 新会社法


省令・規則が出たら、また第二弾が続々登場するのは
あらかじめ予測できたことであるから、
「神田教授の新書なんかでお茶を濁すのはプライドが許さない!」
という勉強熱心な商事法務担当者諸兄は、
黙って2冊目を買うのがよろしいかと思われる。


『一問一答』の続編も出ている。

論点解説 新・会社法―千問の道標

論点解説 新・会社法―千問の道標


筆者は悔しいので、
江頭御大の著書が世に送り出されるまでは、
何も買わないつもりではあるが・・・。

*1:相澤哲編『一問一答 新・会社法』160頁(商事法務、2005年)

*2:長島・大野・常松法律事務所『アドバンス新会社法』441ページ(商事法務、2005年)

*3:もっとも同書では、いざとなれば株主に取締役の選任・解任権があることなどから、機動的・効率的な配当のために取締役会の専権事項とすべき、とする見解にも合理性はある、と述べられている(441頁)。

*4:これも、株式市場は経済理論で動く場所ではなく、人の心理で動く“賭場”であることの一つの裏づけ材料だと思っている。

*5:一番の原因は、個人投資家が嫌う責任免除条項も、機関投資家が嫌う配当関連条項も一緒こたにした「議案」にしてしまったことにあるように思われるのだが・・・。

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