Congratulations!

憂鬱な話題の後は、明るめの話題で。


先日、後輩から「結婚します」という電話があって、珍しくほのぼのした気分になった。


向こうがいつの間にか脱サラして、忙しい“先生”になってしまったこともあって、最近では年に数えるほどしか顔を合わせない仲になってしまっていたのだが、それでもわざわざご報告いただけるのは嬉しい限りである。


で、そんなこともあって、ふと取り上げてみたくなったのが、次に挙げる商標無効審判事件。長野、いや日本のリゾート業界の雄、株式会社星野リゾートが挑んだ渾身の訴訟(大げさw?)である。

知財高判平成19年2月8日(H18(行ケ)第10438号)*1


「ホテルブレストンコート」といえば、閑静な軽井沢の奥にあるホテルで、軽井沢高原教会のチャペルとゲストハウス風の洒落たパーティ会場が根強い人気を誇っているブライダル界の名門*2


筆者自身も以前友人に招かれて足を運んだことがあったが、東京のありきたりなホテルでは味わえないような異空間の妙を存分に愉しんだものであった。


ところが、そんな「ブレストンコート」に喧嘩を売るかのように、商標「HARBOR PARK AVENUE/BLESTON/ハーバーパーク アヴェニュー ブレストン」を出願登録してしまった(登録第4820549号)会社が出てきたからさあ大変。一応三段組のロゴ系商標とはいえ、一番目立つのは「BLESON」という造語の部分。しかもゲストハウス風の式場を抱える点まで共通している、とくれば、何となく“二番煎じ”狙いではないか、と勘ぐりたくもなるもので・・・*3


「ブレストンコート」の看板にこだわる株式会社星野リゾートが、「BLESTON」商標の権利者・株式会社雅裳苑に対して当然の如く仕掛けた商標無効審判(無効2005-89118)は不成立に終わり、戦いは知財高裁へと持ち込まれた。


原告・星野リゾートは、自らの「ホテルブレストンコート」商標など3件を引用し、商標法4条1項15項及び同8号違反を無効事由として主張した。


被告の商標が出願登録されたのは、先行商標である「ホテルブレストンコート」の登録後かなり経ってからであり、原告の側でも4条1項11号違反(先行商標との同一・類似)については争っていない。


しかし、「ブレストン」といえば“軽井沢高原教会のブライダル”というブランドを何よりも大事にする原告が、同業者が「ブレストン」を商標として掲げるのを看過できないのは当然というべきで、本件訴訟においても、「具体的な取引事情」を踏まえて、被告商標が

「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」(15号)

に該当するか、が激しく争われたのである。


いつもながら、当事者の主張のどうでも良いところに食いついてみるならば、

「確かに、同じ地域に居住する者同士が結婚する場合は、居住地に近い施設を選ぶことが多いであろうが、カップルが離れたところに居住している場合、例えば、一方が新潟県、他方が東京都であれば、双方の参列者の便宜を考慮し、その中間地点に存在する施設で式を挙げることは、通常行われており、居住する地域で挙式することにこだわらずに結婚式場を選択する需要者は多数存在する」(9頁)

という原告の主張に対し、

カップルが離れたところに居住している場合には、どちらかの居住地に近い施設を選ぶか、あるいは、国内・海外のリゾート地にある施設を選ぶのが一般的であり、双方の居住地から離れたところに存在する施設を選択して式を挙げる場合は、その施設のある場所が、例えば、リゾート地であるとか、カップルにとって思い入れの強い地であるとか、挙式を思い出深いものに演出するその場所由来の付加価値がある場合である。」(15-16頁)

と被告が反論しているくだりなどは、単なる「需要者の範囲」の議論を超えた普遍的な論争たりうるし、

「本件商標の指定役務を提供する施設が所在する新潟県と、引用商標のそれが所在する長野県とは、地理的に近接しており、また、両県は、信越地方と総称され、人的および経済的にも結びつきが強い地域である」(10頁)

と長野・新潟朋友説を唱える原告に対し、

「長野県と新潟県とは、県境の一部が接しており信越地方と呼ばれることはあるが、人的にも経済的にも結びつきが強い地域ではない。」(16頁)

と友好ムードを一蹴した挙句*4

「両県は首都圏とは人的・経済的に結びつきが強いが、首都圏の住民のうち著名な地名である軽井沢で結婚式を挙げたいと思う人は少なからず存在するとしても、新潟市で結婚式を挙げたいと思う人は稀でしかない。」(16頁)

と“反論”する被告を見ると、いかに訴訟戦術とはいえ、自虐的な香りが漂ってきて香ばしいことこの上ない。

裁判所の判断

・・・さて、そんな回り道はさておき、裁判所はどのような判断を下したか。


まず、法4条1項15号について、裁判所は「レールデュタン」の最高裁判決(最三小判平成12年7月11日)が定立した規範を引用し、「混同のおそれ」について、

「同号にいう「混同を生ずるおそれ」の有無は,当該商標と他人の表示との類似性の程度,他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や,当該商標の指定役務等と他人の業務に係る役務等との間の性質,用途又は目的における関連性の程度,役務等の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし,当該商標の指定役務等の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として,総合的に判断されるべきものである」

と定義した。


そして、①「当該商標と他人の表示との類似性の程度」について、外観、観念、一般の実情等を観念の上、両者は「非類似」であると認定し、②「引用商標の周知著名性」についても、

「原告ホテルが、「ホテルブレストンコート」又は「ブレストンコート」として、軽井沢を中心とする長野県等や首都圏において需要者の間にある程度知られているものと推認することができるものの、それを超えた周知著名性を有しているとは認められず、また原告ホテルが、本件商標の指定役務について、需要者の間に「ブレストン」と略称されて広く認識されていると認めることもできない」(21-22頁)

とした上で、

「しかるに本件商標の指定役務の需要者は,上記(2)に説示したとおり,結婚式を人生の一大イベントと位置づけて,希望する挙式の種類,価格,施設が提供する食事,会場施設等の各種サービス等に応じた挙式内容等の綿密な吟味を行うのが実情である」(22頁)

という点を強調して、「同指定役務の需要者において普通に払われる注意力を基準として総合的に判断すれば」、「混同を生ずるおそれ」があるとはいえない、と結論付けたのである。


原告側は、電子メールやファックス等において「ブレストン」の略称が使用されており、Yahooのウェディング掲示板など口コミ情報において紹介される際にも、「ブレストン」と略されることが多い、と主張したが、前者については、

「一般に「略称」が,需要者,取引者が選択的に使用し,定着していく側面があり得るとしても,これを超えて,ホテル・結婚式場のような事業者の場合は自ら広告において略称を使用することはないとまで言い切ることは困難というべきである。」(25頁)

後者については、

「わが国有数の検索サイトYahooのウェディングに関する掲示板(甲119〜120)などの口コミ情報において紹介された情報が,多くの需要者の目にとまることは認められるとしても,本件商標の指定役務の需要者は,上記(2)に説示したとおり,結婚式を人生の一大イベントと位置づけて,希望する挙式の種類,価格,施設が提供する食事,会場施設等の各種サービス等に応じた挙式内容等の綿密な吟味を行うのが一般的実情であるから,結婚式場等を具体的に選定する際に,口コミ情報において紹介された情報が果たす役割は,自ずと限定されたものとならざるを得ないというべきである。そうすると,かかる口コミ情報において原告ホテルが何度か「ブレストン」と呼称されたことがあったとしても,そのことから当然に,引用商標が需要者の間に「ブレストン」と略称されて広く認識されているとまで認められることにはならない。」(26-27頁)

として、ことごとく退けられている。


そして、4条1項8号該当性についても、上記の認定を転用し、「原告ホテルが「ブレストン」と略称されて広く認識されていると認めることができない」とされ、結局原告の請求は棄却された。

感想

上記結論は、元ジモティの筆者から見ると若干疑義の残るものである。


元々、南軽(裏軽)の「プリンス」、旧軽の「音羽」と並んで、中軽の「ブレストン」というふうに称されることが多いホテル(ブライダル会場)なのは確かだし、軽井沢の全国的な知名度を考えると、「軽井沢を中心とする長野県等や首都圏において需要者の間にある程度知られているものと推認することができるに止まり」という認定は、あんまりであるようにも思われる*5


原告側の立証活動にも不十分な点があったのかもしれないが、裁判所が、所詮は長野と新潟の田舎もん同士の喧嘩だ、という先入観をもって結論を出した可能性も完全に否定はできない。


また、百歩譲って「結婚式が人生の一大イベント」であることを認めるにしても(笑)、本判決のようなことを言ってしまうと、「婚礼のための施設の提供」の役務においては、ほとんど商標の類否を論じる余地がなくなってしまうのではないか、と心配になったりもする。


それゆえ、筆者としては、「ブレストンコート」側の嘆きにも多少なりとも共感するところはあるのだが、やはり結婚式が「人生の一大イベント」である以上(そして軽井沢が長野県にある以上(苦笑))、やむを得ないというべきなのだろうか・・・?




ま、それはさておき、話を最初のところに戻すなら、「人生の一大イベント」ゆえ、式場選びに「混同のおそれ」がないとしても、相手選びに「誤認混同」が生ずることは、世にままある現象であるから、弁理士たるもの、くれぐれも後になって「無効審判」請求をするような(されるようなw)ことのないよう、離隔観察に努められることをお勧めして、祝いの言葉に代えることとしたい(いつもながらなんて意地悪な先輩なんだ・・・(笑))。

*1:第2部・中野哲弘裁判長。http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070213120015.pdf

*2:http://www.blestoncourt.com/

*3:http://www.arkbell.net/bleston/evening_night.php

*4:元住民としては、この点については被告側に同意せざるを得ない。

*5:実際、あの辺で挙式するカップルの多くは、長野県外から来ているし、首都圏のみならず、関西・九州等、西の方から行ったという話も良く耳にする。

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