進み過ぎた「戦略」の紹介が恨めしく思えるとき。

あっという間に、新年休みも終わり、仕事始めとなった月曜日。
そんな中、日経紙も今年最初の月曜法務面、ということで、何が取り上げられるかなぁ・・・と思って開いてみたら、いきなり「知財戦略」の話だった*1

どちらかと言えば“当たり外れ”が大きい、というのが、日経の知財関係記事に対して(自分の中で)定着した印象だけに、期待半分、不安半分で読んでみたのであるが・・・

取り上げられている3つの会社の事例のうち、「模倣品対策」に関する記事(東洋ゴム)は、読み物として面白いから良いとして、「特許戦略」に関する2社(パナソニック、日立)の事例は、内容的にどうこう、という以前に、「知財戦略」の例として取り上げるには、少し先を行き過ぎているように思えてならなかった。

例えば、パナソニックに関しては、冒頭で、「特許をたくさん持っているだけでは競合相手と戦えないことが分かった」という知的財産センター所長のコメントが紹介された上で、

・これまで設定されていた特許取得数のノルマを段階的に廃止し、事業に必要な特許取得に絞る。
・知的財産センター所長を社長とする知財マネジメント子会社を設立し、知財担当者の半数以上が移籍してコスト削減を図る
・特許収支を今後2年で黒字化することを目指す

といった“戦略の転換”がなされたことが紹介されている。

しかし、これは、元々、特許・実用新案の保有数が約12万4千件、年間出願数が約2万1千件、知財担当者約830人*2と、国内最大規模を誇る会社だからこそ、の話であり、とてもではないが、通常の事業会社にそのまま当てはめられるような話ではない。

もちろん、エレクトロニクス業界において、あまりに膨大な数の特許があふれる状況となり、いわゆる“藪”と言えるような状況が生まれていることは百も承知しているし、そういった業界であれば、“絞り込み”という発想もある程度馴染むところはあるのだろうが、世の中には、そうでない会社、そうでない業界、というのも依然として多い。

この会社が、事実上「無駄」なものとして撤廃しようとしている「出願ノルマ」にしても、それがなければ、真に必要な技術を特許化するモチベーションすら湧いてこない、という風土の会社は決して少なくないのである。

また、「知財コンサルティング型」というフレーズとともに紹介されている日立製作所の事例にしても、長年議論され続けている「知財マネジメント」の理想形、最終形に相当近いものであって、選りすぐりの目利き(知財担当者)が200人以上もいるこの会社だからこそできる、という側面が強いように思う。


特集冒頭のリード文にもあるとおり、これらの会社の取組みはあくまで「最前線」の戦略、と位置付けられるものであり、決して一般的なプラクティスではない、ということは、記者も十分理解された上で記事を書かれているはず。

だが、日経新聞という媒体の性質上、知財の世界にほとんど触れたことのない経営者等も目を通す可能性があるわけで、そういった方々が自社との比較でこの記事を見た時、いかなる感想を抱くか、ということにまで想像力を少し働かせれば、もう少し、「普通の会社」とのバランスを考えた記事にできたのではないか、というふうに、自分には思えてならない。

ここで取り上げられた2社のケースが、いかに最先端の「知財戦略」を垣間見ることができるものであったとしても、この記事を読んで触発された経営層から、

「ノルマで出願数を管理したって意味はない」
「特許の取得、維持にもコストがかかるんだから、今後は必要なものに絞って出せ」
知財のスタッフも多すぎる。外注化を図れ」
「そんでもって、残ったスタッフで『コンサルティング型』で進めよ。」

といった素朴な指示を矢継ぎ早に出されるようなことになってしまうと、大抵の会社は混乱してしまうわけで、そういった“聞きかじり”に何度となく振り回された経験のある者としては、今回の記事に対しても「怖いなぁ」と思わずにはいられない。


(これは「知財」の分野に限った話ではないが)この種の戦略、というのは、会社や業界ごとの事情によって大きく変わってくるし、それによって、模範とされる方向性も当然変わってくる。

にもかかわらず、全体から見ればかなり特殊なポジションにある会社の例を2つも並べて、「知財戦略」の一般論の中に混ぜて紹介する、というのは、それ以外のポジションの会社においては時に強烈なミスリードになりかねない、ということは、ここで指摘しておきたい、と思う*3

*1:日本経済新聞2015年1月5日付朝刊・第17面。

*2:これらの数字はいずれも記事の中で紹介されているものをそのまま引用した。

*3:自分は、同じような疑問を「職務発明」に関する報道に接する中でも感じたことがあって、なんでこんなスペシャルな企業ばかり取り上げて、その例をもとに「立法事実」にまつわる議論をするのかなぁ・・・という思いを抱かされたことも、度々あったので、今回も念のため、ということで・・・。