「弱者の兵法」

もう10年近く買い続けているNumber誌だが、まさか自分の母校の野球部の記事が載るとは思わなかった(笑)。



ナンバーノンフィクション・高橋秀実「弱者の兵法」*1

「野球というゲームの勝敗を決するものは、一体なんなのだろうか。それを突き詰めた時、“弱者の兵法”が生まれた。彼らは本気である。」(100頁)

というリード文で始まるこの記事。


東大野球部の出身である青木秀憲監督(保健体育教諭)の独特の“野球観”には、一昨年この学校が夏の東東京大会でベスト16進出、という快挙を成し遂げた頃から随所で注目が集まっており、昨年のOB会会報でも大々的に特集(座談会)が組まれていたから、筆者にとってはもはやそんなに真新しいものではないのだが、やはりこれがナンバー誌に掲載されるとなると、それなりの衝撃をもって受け止められるのではないだろうか。


曰く、

「10点取られることを前提に11点取りにいく」
「9イニングのうち1回でもうまくはまってくれれば、大量得点となってそれだけで勝つチャンスが増大する」*2
「1試合で1つあるかどうかの難しい打球のために、少ない練習時間の大半を割くわけにはいかない」

高校野球の定石を覆すような斬新な“野球観”の行き着く先は、「ハイリスク・ハイリターンのギャンブル」である。

「ボールとバットの芯を正面衝突させるイメージを持つこと。バットの芯が楕円軌道を描き、その直線部分でトップスピードでボールに衝突させる」

「打撃は物理現象ですから」の一言で語られる打撃理論を着実に実践しようとするがうえに、彼らのバッティングフォームは、ドカベン殿馬顔負けの奇妙なスタイルになる。だが、どんなに不恰好でもヒットはヒット。たくさん点を取ったほうが勝つ。


こういうシンプルな考え方、好きだ(笑)。


ちなみに、記事の中では、必要以上に“野球選手らしくない”姿が強調されている母校の野球部員たちであるが、彼らの名誉のために言っておくなら、それはあくまで、他の野球強豪校の選手との相対的比較の中で初めて浮き彫りになる姿に過ぎないのであって、そこは腐っても硬式野球部。少なくとも自分が高校生だった当時は、同じ学校の生徒の中では比較的ガタイがいいか、運動神経のあるヤツが集まっていた集団だったと記憶している(ただ試合になると猛烈に弱かったがw)。


もちろん、ベースになっている“体力”や“体格”の差は如何ともし難いところはあるのだが、それでも中学に入りたての頃、体育の授業でドッジボールから逃げ回っていたもやしっ子たちが*3、4〜5年経って、筆者を見下ろすくらいにまで逞しくなっていたのを苦々しく眺めていた記憶は、今でも一種のトラウマとして心の隅に残っている*4


それゆえ、誇張された記事の中の表現には少々気の毒な感もあるのだが、ストーリーが面白くなるのであれば、それもまた良し、といったところだろうか。

「野球はゲームなんです」
青木監督が言う。野球に教育的意味はないのだと。
「生徒たちにとって今は無駄なことがいっぱいできる貴重な時期なんです。大人になったらこんな時間はもうありません。僕は無駄なことをやらせてあげたい。野球は偉大なる無駄。無駄なことだから思いっ切り、勝ち負けにこだわってやろうぜと僕は言いたいんです」
(105頁)

いい先生だね、と思う。


奨学金を出したくらいで、やれ解散だ何だとムキになって大騒ぎしている連中の目の前で、同じセリフを言い切ってやってほしい。


もっとも、大人になっても無駄なことをできる時間はそれなりにある、というか、仕事、否、人生自体が「壮大な無駄」の繰り返し、とも言えるわけで、その意味では間違った教えなのかもしれないけれど*5


なお、記事の中ではあくまで「夏の甲子園」を目標に頑張っている、と紹介されている彼らだが、“弱者の兵法”を貫徹するならば、むしろ他校が新チームに切り替わって隙が生まれる秋の大会あたりにピークを持ってきた方が良いのではないか、と思ったり・・・(もちろん目標は21世紀枠での出場である(笑))。


万が一甲子園出場なんてことになったら、寄付金いくらくれてやるかな・・・なんてことを去年から考えているのだが、おそらくは“とらぬ狸の何とやら”なのだろう。


でも、そんな皮算用もまた楽しかったりもする今日この頃である。

*1:Number676号100頁(2007年)。

*2:記事の中では書かれていないが、高校野球の場合コールドゲームがあるので、うまく噛み合えばヘタな守備で綻びが出る前に試合を終わらせることができる、と別の座談会で青木監督は力説されていた(笑)。

*3:自分の場合、中学に入る前にそれなりに鍛えていたこともあって、気が付けば1人で相手コート内の生徒を全員外野に追いやってたなんてことも結構あったりしたw。

*4:それは、6年で数センチくらいしか背が伸びなかった上、部活の練習もロクに出ずに遊興した結果、10代前半で“現役引退”を余儀なくされた筆者自身の責任でもあるのだが・・・(苦笑)

*5:「無駄なことだからこそ勝ち負けにこだわる」っていうのは、幾つになっても変わらない。特に自分の場合(笑)。

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