JASRACの厚い壁

インターネットのサーバー経由で、個人がパソコンから携帯電話に音楽を転送するサービスをめぐり、サービス提供事業者(イメージシティ)側がJASRACを相手取って提起した著作権侵害差止請求権不存在確認訴訟で、事業者側が敗訴したとのこと。

「高部眞規子裁判長は「サービスの提供事業者が、音楽を複製するサーバーを所有、管理しており私的複製ではない」として同法(注:著作権法)違反を認め、事業者の訴えを棄却した」(日本経済新聞2007年5月26日付朝刊・第42面)

システムとしては、

「利用者が音楽CDの楽曲をパソコンから同社のサーバーにいったん送信、その後、携帯電話に楽曲をダウンロードすることができる」(同上)

という仕組みのようである。


利用者がアップロードした楽曲が利用者の手元に返ってくるだけ、ということであれば、実質的には利用者自身の「私的複製」とみても良いような気もするのだが、サービス提供者側が“ユーザーフレンドリーな”サービスを提供すればするほどクロに近づく、というのがこれまでの間接侵害をめぐる裁判例の傾向であるから、今回もそのあたりが明暗を分けたのではないか、と推察される(現時点で判決文自体はまだアップされていない)。


一般論で言えば、そもそも利用者が楽曲をサーバーに送信すること自体、「私的複製」の域を超えた行為だし(公衆送信権侵害になりうる)、本件ではその点も争われているはずなのだが、その点について裁判所がどのような判断を下したのか、も注目されるところ。


ちなみに、今回の判決に対し、JASRAC側は高らかに勝利宣言を行っているが(http://www.jasrac.or.jp/release/07/05_3.html)、イメージシティ社側はノーリアクションである。


2006年4月20日付けで出されたイメージシティ社のプレスリリース(http://www.imagecity.jp/pdf/WhatsNew_20060420_01.pdf)では、JASRACの指摘により、「法令を遵守の立場を貫くため」、2005年11月から試験的に始めていたサービス(MYUTAサービス)を終了した、というコメントが記載されているが、サイトを見ると、同社は携帯電話関係の各種ソリューションを手広く手がけているようだから、今回のようなビジネススキームが一つ否定されたとしても影響は軽微だ、という事情もあったのだろう。


いずれにしても、JASRACの壁は厚かった、ということだろうか。


同リリースには、

「弊社は法令遵守の姿勢にのっとり、サービスを終了させて頂きますが、実際利用して下さるお客様のため、また、音楽業界に少しでも貢献できるサービスとして著作権法の解釈を明確にした後、改めてサービスを再開することを目指します。」

というコメントも残されているから、ここはもう少し粘ってくれても良いのではないかなぁ・・・と淡い期待を抱いたりもしているのだが、果たして・・・?


(追記)
ブクマとか見てると、相変わらず“高部バッシング”が行われているみたいだが、今回の判決に関して言えば、別に裁判長のキャラクターに拠るものとはいえないだろう、と。


元々高部裁判長自体、間接侵害に対しては謙抑的な論調の発言が目立つ方だし、何より「まねきTV」の地裁決定(権利者側の請求棄却)を出したのはこのお方の法廷なのだから・・・。


ユーザーフレンドリーな判決を書いてもあまり注目されなくて、たまにアンフレンドリーな結論になると叩かれる、というのではあまりに気の毒な気がする。

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