日本経済新聞の「今週の予定」のページの片隅にある、「クイックサーベイ」というコーナー*1で、「司法試験合格者数を2010年に年3000人にする計画に賛成?反対?」というテーマでアンケートが行われている*2。
その結果は、「賛成。計画通り3000人にするべきだ」が51%、「反対。多すぎるので減らすべきだ。」が49%、と「増員賛成が辛うじて反対を上回った」というものである。
記事では、
「一般の人には判断に迷う微妙な問題なのだろう。」
とコメントされているが、本当に「一般の人」であれば、司法試験合格者の数が多いか少ないか、数字だけ聞いてピンと来るはずがないのであって、この微妙な結果には、ここのところの単位弁護士会を中心としたネガティブキャンペーンの成果が色濃く反映しているように思われる。
ちなみに、「賛成」の理由として、
弁護士不足の地域の解消につながる。
弁護士が身近になる。
競争原理で質が向上する。
容疑者段階で国選弁護人のつく範囲が広がることなどから弁護士の大幅増がまだ必要
といったものがあがっている一方で、「反対」の理由としても、
質の低い弁護士が増える。
弁護士活動が過当競争に陥り過度の商業主義につながる。
弁護士が人権の擁護などの仕事に手が回らなくなる。
訴訟社会になり世の中がギスギスする。
といったものが挙げられており、「弁護士の質の変化を理由にあげる人が、賛否両方に多かった点」が面白い、というのが記事のコメント。
この辺りも(賛成側、反対側の双方が)たぶんに印象操作に煽られている感があるのは否めないのであるが、「世の中でどう見られているか」を判断するための材料としては参考になるかもしれない。
ところで、この記事の面白さは、これらの調査を踏まえたその先の記述の鋭さにある。
「量と質のバランスは評価が難しい。弁護士にどの程度の、どんな質を求めるのかは明確でないし、時代によっても変化する。そうした議論を抜きにして、「増員=質低下」を弁護士側が強調するのであれば、説得力を欠くように思える。」
「就職難や生存競争の激化など、増員で割を食うことへの不満が弁護士側にあるようだが、不満だけで社会の共感を得るのは難しいかもしれない。」
日頃、日経の記事にいろいろとケチをつけている筆者であるが、上記二点の指摘に関していえば、ほぼ全面的に賛同せざるを得ないだろうと思っている。
前者に関して言えば、既存の先生方の中に、「試験の難しさ」や「知識の豊富さ」だけで「質」を図ろうとする傾向が強すぎるのではないか・・・?*3
後者に関して言えば、既存の法曹社会が一般市民の身近なニーズをほとんど拾えていない状況で、「生存競争」などという大げさな話を持ち出すのはいかがなものか・・・?*4
といった疑問を、自分はどうしても拭えずにいるし、その意味で、上記記事のコメントは概ね的を射たものだといえるだろう。
「競争原理」の導入が全ての問題を良い方向に解決してくれるわけではないし、一子相伝的徒弟制度の下で培われた牧歌的な雰囲気を懐かしむ声が上がっても決して不思議ではない。
だが、サービスの質、という点に関して言えば、これまでの「安定」した時代が、決して良い影響をもたらしてきたとはいえなかったのも事実で、それゆえ「改革」の必要性が認識されてきたのではないだろうか。
これから先、流れがどのように変わっていくかは分からないが、クライアント(消費者)の利益に眼を向けないまま、業界の既得権益維持にのみ固執した議論がなされるのであれば、結局はかの業界そのものが、時代の流れに取り残されてしまうであろうことは、想像に難くない。
増員反対派、賛成派とも従来の「紋切り型」の主張を超えて、真に説得力のある議論を行えるようになったとき、初めて問題解決のための効果的な処方箋が示され、国民の「共感」も得られるように思えるのであるが・・・。
*1:日本経済新聞2008年2月25日付朝刊・第13面。森均編集委員の署名記事。
*2:「ヤフーバリューインサイトを通じ2月15-17日にネット調査。全国の20歳以上の男女1000人が回答」とのこと。
*3:いまどき試験の成績だけで、「仕事の実力」が測れると思っている職業人などいないと思っていたのだが、法曹村の世界では、そうではないんじゃないか?と思えてしまうような意見がチラホラ見かけられるのはなんとも嘆かわしい。潜在的なクライアントが求めているものはそれだけではないはずなのだが・・・。
*4:正直、企業法務の分野に関しては、隠されたニーズがさほど眠っているとは思えず、増員されようがされまいが、実務に与える影響は限定的なのだが(強いて言えば、大量のアソシエイトを抱えるようになった事務所で、彼らを養うためにチャージが値上がりする可能性が出てくることくらいだろうか(苦笑))、一般市民向けのニーズをこまめに拾い上げて適切なリーガルサポートを行えるような弁護士の数は明らかに少ないし、今後見込まれる需要増を考えると、「飽和状態」というにはあまりに足りなすぎる状況だといわざるを得ない。