実務の声

4日付のエントリーで紹介した独禁法改正について、衆議院経済産業委員会の会議録に、経団連を代表して出席した参考人(斎藤憲道・日本経団連競争法部会長代行)の次のような発言(要望)が記載されていた。

第一は、法律の運用基準の明確化のお願いです。
今回の改正が実現しますと、これまで課徴金の対象ではなかった排除型私的独占を初め、不当廉売、差別対価、共同の取引拒絶、それから再販売価格の拘束、優越的地位の濫用などの不公正な取引方法に対しても課徴金が新たに課されます。
ところが、これらの行為は、日常のビジネスの中で、どこまでが適法で、どこからが違法になるのかという境界が必ずしも明らかというわけではありません。
改正法案の関係条文を見ましても、正当な理由がないのに、あるいは不当に、さらには正常な商慣行に照らして不当になどと規定されておりまして、どの一線を超えたら違法になるのかがよくわかりません。
独禁法違反を犯して課徴金を課されることになれば、公共入札の指名停止や株主代表訴訟などが問題として付随的に発生します。本当に今重要なことであります。
もちろん、悪質な行為は何としても排除しなければなりません。ただ、適法と違法の境界線がよく見えないために、真っ当な事業活動が無用に萎縮したり、取引がいたずらに混乱することにならないよう、ガイドラインなどで構成要件を明確にしていただきたいと思います。どのような行為が課徴金の対象になるのか、現場で実務を行っているだれもがわかるようにしていただきたいのです。
予測可能性や法的安定性を確保することは、健全な市場を形成するための必要条件であります。

第二に、今回の法案で具体的に取り上げられていない審判制度の見直しと審査の適正化のお願いであります。
まず、審判制度の見直しにつきましては、現行の公正取引委員会の審判制度を廃止し、公正取引委員会の処分に対する不服申し立てを、直接、地方裁判所に対して行うようにすることが必要であると考えております。
現在の審査、審判の手続は、まず、公正取引委員会が、カルテルなどの独禁法違反の疑いのある企業を調査し、違反していると判断すると、排除措置命令や課徴金納付命令などの処分を下します。
その処分に納得のできない企業は、公正取引委員会の中にある審判手続で、公取の判断に対する不服を申し立てることになります。
この仕組みは、いわば検事と裁判官とを同じ公正取引委員会が兼ねる状態で、著しく不公平かつ中立性を欠いております。
国内の他の行政審判を見ても、処分をする主体と不服審判をする主体が全く同一である機関はほかにありません。外国にもこのような制度はありません。海外の企業の方から、これが日本で活動することをちゅうちょする要因の一つになると聞くこともあります。
そこで、私どもでは、公正取引委員会の審判制度を廃止し、不服申し立てについては、取り消し訴訟として、直接、地方裁判所に訴える制度にすべきだと考えております
この点について、政府の法案の附則に、「審判手続に係る規定について、全面にわたって見直すものとし、平成二十一年度中に検討を加え、その結果に基づいて所要の措置を講ずる」と規定されております。
ぜひとも、審判制度を廃止するという私どもの考えをお酌みいただき、早期に、この方向での法改正を検討され、実現されるようにお願いいたします。

もう一つは、国際水準にかなう新たな審査制度の構築です。
現在の公正取引委員会の審査では、欧米では当たり前になっている、審査を受ける側の基本的な権利が認められておりません。
例えば、自己負罪拒否特権というのがあります。これは、自己に不利益な供述を強要されない権利のことで、日本国憲法第三十八条に規定があります。ただ、これは刑事事件の場合だけだそうで、独禁法違反のような行政事件についてこれを保障する規定はないということです。
公正取引委員会の取り調べは、通常、任意で行われます。しかし、任意の調査であることが明らかにされていない、あるいは、取り調べが公取の密室の中で長時間にわたる、さらには、弁護士の同席は認められないなどのために、防御権を行使できないという体験談を幾つも聞きます。
その上、取り調べを受けた者は、そこで作成された供述調書のコピーを持ち帰って確認することもできません。
現在、警察における犯罪者の取り調べですら、可視化が進められています。まして、任意の手続において許されるべきではないと思います。
日米欧の競争法当局による取り調べを経験した企業が、欧米の弁護士から、日本では適正手続、デュープロセスが確保されていないと知って驚いた、どのように弁護すればいいか迷っているということを言われております。
欧米で当たり前とされている程度の適正手続の確保をお願いいたします。


労働関係の法律に対する諸見解のように、経団連の公式コメントには「誰がこのドラフト書いたんだ!(企業の法務部門の実務者がみんな同じ意見だと思われたら迷惑だ!)」的なものが多く、日頃は眉をひそめて眺めていることも少なくなかったりするのであるが、こと、独禁法をめぐる問題に関しては筆者も

「激しく同意。」

である(特に第一、第二の点については)。


前日のエントリーからの繰り返しになるが、国の機関が調子に乗って暴走して、その先何年か経った後に、事態が良い方に変わるなんてことは、まずないのだ*1


ゆえに、どこかで歯止めをかけるための論議が、これからも欠かせない。

*1:今“国策捜査”で叩かれ気味の某特捜部しかり、トローラーに特許を与えまくったミレニアム前後の特許庁しかり・・・。「制度改革」の美名の下に問題を孕む制度を多々世に送り出してしまった司法行政当局も似たようなものかもしれない(こちらについては“外圧”の影響が強かった分、やや同情すべき余地はあるのかもしれないが)。

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