一昨年あたりから二転三転したあげく、ようやく成立した模様。
「談合やカルテル行為への罰則強化などを盛り込んだ独占禁止法改正案が3日の参院本会議で自民、民主、公明各党などの賛成多数で可決、成立した。新たに不当な安値で販売を続ける「不当廉売」などの違法行為を課徴金の適用対象に加え、違反への抑止力を高める。改正法は早ければ来年1月にも施行する見通し。」(日本経済新聞2009年6月4日付朝刊・第1面)
最初に改正案が国会に提出された時に、いろいろと新法の影響を分析・検討したのはもう1年以上前の話。
そのまま成立しないまま1年もグダグダと店晒しにされていたものだから、どういう中身だったかすっかり忘れてしまっていて困った(苦笑)。
仕方ないので、以前のエントリー*1を見ながら記憶を呼び起こしたりもした(笑)のだが・・・。
新聞記事等ではあまり話題にされていないが、個人的には、今回の改正で一番大きいのは、これまで「一般指定」というよく分からん位置づけの法規で実質的に定義されていた「不公正な取引方法」が、独禁法本体(第2条9項)で定義されるようになったことと、その定義規定を引っ張る形で「不公正な取引方法」の類型ごとに課徴金納付命令に関する規定が置かれたこと(20条の2以下の枝番)ではないかと思っている。
従来の「2条9項で概括的に不公正な取引方法の行為要件を定め、一般指定でそれを明確化する」という構造の下では、
「公取委の指定に該当することは、不公正な取引方法に該当するための3つの条件の1つであるに過ぎない(略)。公取委による指定は、1号〜6号のいずれかに該当する、公正競争阻害性がある、の2条件を満たしていなければならない。このことは、2条9号柱書きから明らかである。」
「独禁法関係者の議論においては、公取委による指定に該当すれば直ちに不公正な取引方法に該当するかのように、論ぜられる場合が多い。なぜなら、公取委による指定は上記2条件を満たす範囲で制定されている、と信じられているからである。」
「しかし、具体化された規定が本来の枠から逸脱している、あるいは逸脱して解釈されてしまう、ということは常にあり得る。公取委による指定が上記2条件の枠内にあるか否か、常に注意する必要がある。」
(以上、白石忠志『独占禁止法』(有斐閣、2006年)133頁)
という解釈論が成り立つ余地があった。
しかし、従来の2条9項が、同項の一番後ろ(2条9項6号)に押し込められた*2新法の下では、従来「一般指定」で規定されていた行為類型については、「公正競争阻害性」要件を満たさなくても「不公正な取引方法に当たりうる」と解されることになる可能性が高いと言わざるを得ない*3。
そして、この新しい定義規定が、課徴金制裁に直ちにリンクしていることからすれば、少なくとも「不公正な取引方法」に関しては、公取委による制裁発動のハードルが大幅に下がったように思えてならないのである。
日経紙も指摘しているように、「不当廉売」と「公正な競争の範囲内の安売り行為」を区別することは難しいし、「優越的地位の濫用」にしても、「正当な権利行使(例えば特許権、著作権の行使)」との間の線引きは微妙だったりするわけで、それが「不公正な取引方法」に関する規定が“まったり”したものになっていた一因だったと思うのであるが、それを一気に“ハードコアカルテル規制”並みの制裁対象にすることに問題はないのか?
政策的にも、法解釈的にも、この先公取委が過激な方向に暴走しないよう、十分に監視していく必要があるように思う。
なお、既報のとおり、今回の法改正では結局、審判制度の再改革はなされないままに終わった。
だが、国会審議の過程で、
「一 審判手続に係る規定については、本法附則において、全面にわたって見直すものとし、平成二十一年度中に行う検討の結果所要の措置を講ずることとされているが、検討の結果として、現行の審判制度を現状のまま存続することや、平成十七年改正以前の事前審判制度へ戻すことのないよう、審判制度の抜本的な制度変更を行うこと。」
という附帯決議が採択されていることからも分かるように、この点の改革の要請はもはや待ったなしの段階に来ていると思われる。
自庁の権限を削ぐかのごとき制度改正には、誰しも前向きに取り組むモチベーションを持ちにくいものではあるが、だからといって、これだけ評判の悪い審判制度をそのまま放置するのは愚の骨頂。
「錦の御旗」を掲げて権限強化に走った“お役所”*4が、後々に重大な禍根を残した例は枚挙にいとまがないのだから・・・