スケープゴートになるのは誰だ?

日経紙の月曜法務面に、2010年1月に施行される「排除型私的独占」をめぐる話題が掲載されている。

公正取引委員会が、市場から競合他社を締め出す「排除型私的独占」と呼ぶ行為を独占禁止法違反に認定するための指針作りに取り組んでいる。排除型私的独占は今年6月の改正独禁法の成立によって新たに課徴金の対象に加わった。市場支配力を持つ企業による競争の阻害を抑止する効果が期待できるという。だが想定される行為が幅広く、企業活動の萎縮につながる懸念もある。来年1月の施行に向けて透明性の高い制度にするための模索が続いている。」
日本経済新聞2009年9月28日付朝刊・第14面)

上記改正については、過去のエントリーでも適宜コメントしてきたところではあるが*1、施行が目前に迫ってきているこの時期になっても、実務サイドの不安が払しょくされているとは言い難いわけで、このコラムの中でも、「違反行為の特定が困難」といった点や、「事案に照らして課徴金額が不当に高額になる恐れがある」等々の問題について、いろいろと述べられているところである。


そんな中、興味深かったのが以下のくだり。

「産業界には「排除型私的独占の認定の1号事案をみることで、制度の運用を見極めたい」との思いもある」

「植村(幸也)弁護士は「慎重な運用が必要だが、なかなか1号事案が出ないと企業の間に疑心暗鬼が広がり、企業活動の委縮を招く」と警鐘を鳴らす」

これはあくまで、「現状のままでは・・・公取委が排除型私的独占の認定をためらうような事態にもなりかねない。“一罰百戒”を狙って多額の課徴金を払える大企業のみに措置を発動したり“抜かずの宝刀”に終わったりする可能性もある」という、コラム中のちょっと想定し難い仮定をもとにした見解であり*2、これが「産業界」側で積極的に改正規定の発動を密かに期待している、というふうに受け止められてしまうと、発言者の側も困るだろう*3


ただ、いずれ遅からず登場するであろう「第1号」のスケープゴートが一体どの会社になるのか、ということが、目下の関係者の重大な関心事であるのは間違いないわけで、そういった微妙な当事者の心情が顕出している、という点では、上記のようなコメントを取り上げた紙面にもみるべきところはある。


「願わくば自分のところが犠牲にならないように」という会社組織の一員としての率直な思いと、「未知の「第1号」事案に挑んでみたい」という法務職社員としてのささやかな本能的欲求が交叉する中で、栄えある「第1号」になるのは誰か・・・


これからじっくり見届けていきたいと思っている。

*1:http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20090620/1245596393http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20090605/1244222567など。

*2:目に見える「成果」を挙げることに躍起になっている今の公取委に、そんな謙抑的な姿勢があるとは到底思えない(笑)。

*3:そんなもん、期待しなくてもどうせすぐ出てくるのだから・・・。

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