遅きに失した軌道修正

先の国会で改正案が葬り去られたことに懲りたのか、公正取引委員会が評判の悪い審判制度に関し、大幅に譲歩する模様である。

公正取引委員会独占禁止法違反で下した行政処分の是非を公取委自らが判断する審判制度を見直す方針を固めた。(略)。公取委は談合やカルテルは企業が直接裁判所で争える制度を検討。不当廉売などは企業側の主張を聞いて処分を決める「事前審判制度」に改める方向だ。」(日本経済新聞2009年1月6日付朝刊・第1面)

審判制度の弊害はかなり前から指摘されていたし、“早期制裁”を急ぐあまり、事前審判制度を事後審判制度に転換して以降は、ますます風当たりが強くなっていた。


そんな中、公取委が審判制度見直しのアドバルーンを打ち上げたのは、もう1年も前のこと*1


昨年、“消費者保護”をお題目に掲げたい与党のプレッシャーによって、審判制度の見直しにまで踏み込めないまま法案を提出せざるを得なかった独禁当局に同情の余地がないわけではないが、どうせ動くのであれば、もっと早く踏み切って欲しかった。



ちなみに、提出案そのものを確認したわけではないが、記事によれば、裁判所で直接争えるのは、談合やカルテルといった処分についてのみ、とされており、

「不当廉売などの不公正な取引や企業合併など専門的な審判が必要な案件」

については、

公取委が処分に先立って企業の主張や証拠を調べたうえで処分内容を決める「事前審判制度」に改める」

という改正にとどまる、ということである。


メディア報道等のインパクトを考えると、処分が出た後に裁判所で争えるようにするシステムと、処分を出す前に行政審判で争えるシステムのどちらが良いか、は悩ましいところなのだが、独禁法違反の疑いがある企業の行為が、私的独占、不当な取引制限、不公正な取引方法、といった独禁法上のどの違反類型にあてはまるかは、必ずしも一義的に定まるものではないのだから、下手に違反類型で司法救済ルートを区別するよりも、一律に

事前審判→処分→司法救済

というルートに統一してしまった方が良いのではないか、と自分は思っている。


それに、いかに「専門性」が介在する余地のある判断とはいえ、独禁法違反となるか否かは、最終的に「経済学者の理屈」によって決められるべきものではなく、「法の解釈」によって決めるべきものなのだから、一部の違反類型について独禁当局の「専門性」を過度に強調することには疑問も残るところだ。


まぁ、これだけ不況で大騒ぎになってくると、そもそも公取委の存在意義自体が疑わしくなってくるのではないか・・・と思ったりもするのであるが(笑)*2

*1:http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20080126/1201389806参照。

*2:近年“労働者派遣法”等をターゲットに一連の改革を批判する論調が目立つのだが、企業が限界まで競争を強いられ、雇用“切り捨て”も含むコストカットを余雇なくされている背景には、「独禁法のエンフォースメントが強化された」という事実があることは看過できないのであって、個人的にはこちらに矛先が向かないのが不思議でしょうがない(笑)。

google-site-verification: google1520a0cd8d7ac6e8.html