負の遺産

就任早々、「タスクフォース」なる謎の軍団を組織して“日航再建”の功名を挙げようとした前原誠司国土交通相だったが、結局、金融機関の反発もあって、「企業再生支援機構」の活用、という大山鳴動して・・・的な結論に落ち着いてしまった。


結局再建案はお蔵入り。


この1ヶ月、担ぎ出されて奔走した高木新二郎弁護士以下、作業部会のスタッフの方々は、お気の毒としか言いようがない。


で、一連の過程で話題として浮上し、今後も再建案策定に際して大きな問題になりそうなのが、日航社員OBに対する「企業年金削減」問題である。


この日の日経紙には、対照的な2人の有識者のコメントが掲載されていたのが興味深かった*1


まずは、伊藤眞・早大大学院教授(東大名誉教授)のコメント。

企業再生支援機構を活用した私的整理の場合、債権放棄は債権者の合意が前提なため、受給権者に年金の減額を強制的に求めることは難しい。」
「年金減額に向けた立法措置も検討されているが、財産権の侵害にあたる可能性もある。」
「法的手続きである会社更生手続きであれば、取引先などの一般債権ほどではないが、年金も減額の対象になりうる。」

これだけ読むと、政府が現在目指している解決案による限り、日航社員OBの年金削減を断行することは難しいように思えてしまう。


一方、「減額積極派」として、大塚和成弁護士の以下のようなコメントも取り上げられている。

日航が経営再建を果たし、航空機の安定運行を維持する公共的なメリットと年金受給権者の財産権を保護するメリットを比較すれば、安定運行を維持する公共的なメリットの方が大きい。政府が経営支援の前提としている年金減額の立法措置も、財産権の合理的制約として正当化できる」


正直言って、減額消極派、積極派のいずれのコメントが理にかなっているかを判断するのはなかなか難しい。


いかに「後払い的性格」を有していると言っても、その原資が若い現役世代の負担によって支えられているのは紛れもない事実であるから、現役世代としては“会社あっての年金だろう。OBのごね得を許すな”という発想になりやすいのだが、退職時に年金額まで見込んだ上で生活設計を立てるのは、古き良き時代のサラリーマンの常道だし*2、それを条件に会社を早期退職した人間も少なからずいることを考えると、一概に“ごね得”とも言い難いのも事実だろう*3


過去に年金減額が争われたケース(松下電器、NTTなど)のように、同意要件を満たすことができれば(その上で同意しなかった少数派と争うだけの話であれば)、まだ救いようがあるのだが、この会社の歴史を考えると、そう聞き分けのいいOBがたくさんいるとも思えないだけに、なかなか厄介な話なのは間違いない。


元々企業年金を持たない会社で生きてきた筆者にはどうでもよい話なのかもしれないが*4、論点としては興味深い点を孕む問題だけに、今後は労働法、社会保障法的観点からの論客の参入を期待してみたいところである。

*1:日本経済新聞2009年10月30日付朝刊・第3面

*2:これから、の世代の人間がこういう発想だとちょっと困るけど。

*3:退職者側の主張として、http://jalnenkin.web.fc2.com/news_gogai10.pdfなども参照。

*4:公的年金以外には期待できない身だけに(かといって企業年金を持っている会社の社員より余分に蓄財できるほどの給料がもらえているわけでもない(苦笑))、こういう騒動を見ても、所詮“上乗せ部分”、の話だろう、と皮肉の一つでも言いたくなるだけだ。

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