連休中の空いた紙面の埋め合わせの必要に迫られたのか(笑)、日経紙にこんな当たり障りのない記事が載っていた。
「特許庁は商標法を見直し、使われていないブランド名やロゴなどをほかの企業が使いやすいようにする。企業が他社の休眠特許(ママ)*1を審判などで取り消した場合、取り消しから1年以上経たなくても、すぐに自社の商標として登録できるようにする。商品寿命の短い食品などの事業展開がしやすくなりそうだ。早ければ来年の通常国会に商標法改正案を提出する。」(日本経済新聞2010年3月22日付朝刊・第3面)
一見すると、なるほど、と思いたくなるような記事。
だが現在の条文と見比べると、何だか不思議な気分になる。
「商標権消滅後1年経過していない商標」を登録阻却事由とした商標法4条1項13号は、
「商標権が消滅した日(商標登録を取り消すべき旨の決定又は無効にすべき旨の審決があったときは、その確定の日。以下同じ。)から一年を経過していない他人の商標(他人が商標権が消滅した日前一年以上使用をしなかったものを除く。)又はこれに類似する商標であって、その商標権に係る指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするもの」
と規定している。
この規定によれば、不使用取消の要件を満たす、と認められるような場合(「継続して3年以上日本国内において商標権者らが登録商標の使用をしていないとき」)は、カッコ書きに当てはまり、あえて1年待たなくても、取消請求人が直ちに商標出願し、登録を受けることができるはずだ。
そもそも、不使用取消に関する商標法50条には、不正使用取消に関する商標法51条2項*2のような規定が存在しないから、ボーっとしていたら、取り消された元の商標権者に商標を取り返される羽目になりかねない。
それゆえ、不使用取消をかける請求人が当該商標を自ら登録することを望むのであれば、不使用取消審判が確定する前に自分の商標を出願し、取消審判確定後直ちに登録を受けられるようにしておく(そもそも、自分の商標の出願後、使われていない商標を引例とする拒絶理由通知が発せられたのをきっかけに、不使用取消審判を請求する、というケースも多い)方が一般的で、取り消しが認められてからあらためて出願する、といった回りくどいことをする人はそんなにいないのではないかと思う。
結局のところ、上記のような法改正による恩恵を受けるのは、事実上、法4条1項13号のカッコ書きが適用されず、かつ、元商標権者に対する制裁規定も存在しない無効取消のようなケースだけ、ということになり*3、記事が想定している法改正の適用場面とはだいぶ異なってくる、と言わざるを得ない*4。
いかなるソースを元に書かれた記事なのかは分からないが、以上の理由から、結局のところ何のためにどんな法改正をするのか、が、サッパリ読めなくなってしまったこの記事*5。
いずれ真相は明らかになるのだろうけど、それまでは何となく小骨が引っかかったまま・・・そんな感じだ。
*1:特許を無効審判で取り消したからといって、同じ特許を別の企業が登録できるはずもない。念のため。
*2:「商標権者であった者は、前項の規定により商標登録を取り消すべき旨の審決が確定した日から5年を経過した後でなければ、その商標登録に係る指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について、その登録商標又はこれに類似する商標についての商標登録を受けることができない」という規定。
*3:そもそも商標無効審決確定の効果が「初めから存在しなかったものとみなす」(法46条の2)というものであるにもかかわらず、「無効審決確定日」を基準として1年間経過するまで登録できない、とする規定になっているあたりに突っ込みどころがある、というべきなのかもしれない。
*4:その場面にしても、通常出願してから登録されるまでに1年間くらいかかるのが普通であることを考えれば、実務上規定の欠缺が登録の障害になるとは考えにくい。
*5:単に4条1項13号を削除する、というだけだと、またいろいろと差しさわりが出てくることだろうし(ついうっかり失効させてしまったようなケースなど)。