商標審査基準「改正案」パブコメ結果

小売業商標制度の導入まであと3ヶ月を切り、既に全国各地で説明会も始まっている。


早い日程の説明会に出席した人に聞くと、相変わらずテキストだけはw良いらしい。


テキストだけなら足を運ばなくても手に入る時代ではあるが*1、実務者にとっては「説明会に行ってきた」ことが重要だったりもするわけで(笑)、息抜きも兼ねて来月行く予定である。


さて、そんな中、年末にひっそりと出されていた「商標審査基準『改正案』について寄せられたご意見等の概要及び回答」*2


商標法3条1項柱書の強化を目的としたこの「改正案」の問題点については、昨年中のエントリーで指摘したところだが*3
上記「ご意見等の概要」を見ると、同じような問題意識を持たれていた方はいらしたようで、いくつか意見が上がっている。


今回の改正案の根底にかかわる意見として、

「出願時における商標の使用と出願人の業務との関係においては、平成8年商標法改正の際に、業務記載の廃止を含め出願人にとってフレンドリーな改善がなされたものと理解しているところ、改正案では、拒絶理由を受けて後、使用(使用意思)証明作業に相当の負担となる可能性があり、結果として登録の遅延問題も起き、時代に逆行する措置との印象である。」
「一出願か複数出願かによって審査対応が異なるのは不合理であり、類似の関係にない複数の小売等役務を指定したというのみで、商標の使用等の確認を求めるべきではない。」

といった意見も挙がっているのであるが、特許庁はこれに対して「産業構造審議会知的財産政策部会の報告書」と、「知的財産推進計画2006」を挙げて改正の趣旨の正当性を主張するのみで、実質的な応答はしていない。


まぁ、もはや総論については譲る余地はない、ということなのであろう・・・*4


もっとも、この辺は元々期待薄だったので、各論での巻き返しに期待して追ってみていくことにする。


まず、

「出願人がフランチャイジー、子会社、関連会社及びライセンシー等、商標の実際の使用者として幅広くなっているので、出願人による使用を原則とする運用は不適当と考えます。また、例外事例も明記していただきたい。」

という今回の改正案に対する核心的反論に対して特許庁が示した回答は、

「出願人と商標の使用者が親会社と子会社等であった場合の運用・・・については、追って明らかにしてまいりたいと考えます。」

だそうである・・・。


あと2ヶ月ちょっとの時期に、「追って」とか言われても困るわけだが(苦笑)。


もっとも、特例出願に関する附則第7条及び第8条の解釈については、

「上記(1)の①における施行前からの商標の使用は、原則として、出願人でなければならない。」

の「原則として」が、

「親会社と子会社等の例外があり得ることを想定したものです。」

という意味であることが示されているから、3条1項柱書についても柔軟な解釈が導入されるという“希望”はまだ残されているというべきだろうか。


続いて、より細かい論点。


審査基準における以下の表現が問題になった。

(3) 小売等役務に係る業務を行っていることの証明は、次によることとする。
(イ) 総合小売等役務に属する小売等役務についての使用であることを証明するには、次の全ての資料を要するものとする。

出された意見というのは、

「(1)3.(3)は、(2)の場合と同様に記載すれば足りるのであり((2)では「例えば、次の証拠方法によるものとする。」という記載になっている)、断言的な表現は避けるべきである。また、(イ)の記載も一方的過ぎる。」

至極もっともである。


結果、

「(1)3.(3)(イ)については「総合小売等役務に属する小売等役務については、例えば、次の資料によって総合的に証明される。」と、(ロ)については「総合小売等役務以外の小売等役務については、例えば、次の資料によって総合的に証明される。」と修正を行いました。各小売等役務を行っていることを実体的に証する資料が他にあるならば、それを否定するものではありません。」

ということになった。


他にも、(衣料品、飲食料品、生活用品を)「一括して1店舗で扱っている」という要件が「1事業所で扱っている」と修正されたり、売上高の割合に関する数値要件(「10〜70%」)が、「10%〜70%程度の範囲内」と修正されるなど、この種のパブコメにしては珍しく柔軟な対応が行われている。


実務的観点からいえば、「例えば」とか「等」とか「程度」といった文言が付いたとしても所詮飾り言葉に過ぎず、かえって明確性を欠く分、厄介さが増したんじゃないか・・・という突っ込みもなしうるところではあるが、代理人の頑張り次第で、審判まで持っていってひっくり返せる(かすかな)余地を残した分、前向きに捉えるべきなのかもしれない。


他に小売業商標制度に関し、実務的意義がある回答としては、

「例えば、百貨店がレジで商品を包装するのに用いている包装紙への使用は、小売役務についての使用となるのか明示して頂きたい」

に対する

「商標の使用態様によるものと思われますので、個々の事案により判断する必要がありますが、小売店が種々の商品を包装する一般的な包装紙に表示している商標も、小売等役務についての商標の使用となり得るものと考えています。」
「小売等役務商標に係る商標の使用については、改正法附則の使用に基づく特例の適用を主張するための方法等にも共通することですから、使用に基づく特例の適用を主張するための手続等に関する省令の動向を踏まえながら、より明確になるよう努めてまいりたいと考えます。」

といった回答あたりだろうか。


小売業商標の「使用」になるかどうか、抽象的に述べるのが難しいのは百も承知の話で、それでもここまで踏み込んで回答しているのだから、包装紙に商標を付した場合は小売業商標の使用にあたる、という解釈は
一応固まったと考えてよいように思われる。


おそらくこのペースで行くと、4月1日時点で解釈が固まっていない部分もかなり残されることが予想されるが、あとは出願人と代理人の“根性と度胸次第”(笑)。行けるところまで行くしかあるまい。

*1:http://www.jpo.go.jp/torikumi/ibento/text/pdf/h18_tiikidantai/02.pdf

*2:http://www.jpo.go.jp/iken/pdf/iken_shouhyou_shinsakijyun2/01.pdf

*3:http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20061219/1166549509#tb

*4:「商品自体と小売等役務自体が同一でない」、「クロスサーチが必要」という従来の主張についても同じである。

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