どこに判断ミスがあったのか?

今週の日経法務面は、プリンスホテル日教組・教育研究全国集会会場予約取り消し問題について*1


三宅伸吾編集委員が書かれたコラム、ということもあって、非常に分かりやすいし、考えさせられるところも多い。


この問題に関しての自分の考えは、これまで本ブログの中で述べてきたとおりで、会場利用契約成立後(しかも利用料半額の支払後)半年経ってからホテル側が一方的に解約することの問題もさることながら、仮処分命令を無視してまで利用を拒絶した行為について裁判所の理解を得ることは、どう考えても困難だろうと思っている。


(参考)
http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20080203/1202011341
http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20090729/1249056244


今回のコラムの特徴は、「あなたならどうする?」という視点から、プリンスホテル側の言い分もある程度取り上げて、その是非を議論しようとしているところにある。


そして、コラムで引用されている

(1)多大な騒音被害が出るのを考えれば、利用契約は守ることがそもそも不可能な内容で無効
(2)契約時に、警察の警備により騒音被害が回避されると誤解していたことからも契約は無効
(3)公共の福祉の点から利用契約の解約は有効
(4)宴会場の利用規約に顧客関係者が大音量を出す場合には解約できるとあり、右翼団体は関係者のため、契約解除は可能
(5)開催をもし認めれば、周辺に多大な迷惑をかけると分かったうえで利用させたとして、倒産するほどホテルの信用が失墜するおそれもあり、(解約は)こうした状況を回避する正当防衛である

といった主張を読むと、なるほどとうなづかされるところが全くないわけではない*2


だが、本来、こういった話は、当初の契約申し込み時点において議論するか、あるいは、契約直後に解約する際の交渉材料として使うべきものであって、現に全体集会が中止に追い込まれ、あれだけ大きな社会問題になってしまった後になってまで主張することにどれだけの意味があるだろうか・・・*3


個人的に一番気になったのは、プリンスホテルの以下の対応である。

「プリンスは仮処分命令が出る前の段階で、日教組との契約解除が「有効だと確信していたため」、別の予約の申し込みを受けた」

交渉の中で、自らの退路を断つことによって、有利な結果を導くことができる場合もあること自体は否定しない。


しかし、集会の規模や交渉相手の強さ、そして解約の正当性が裁判所に認容される蓋然性、といったものを考えた時、本件で「退路を断つ」ことがプリンスにとって得策だったのかどうか。


かき入れ時に広い宴会場をからっぽにしておくことが、ホテルにとって痛いことであるのは一応理解できるにしても、万が一仮処分命令が出された場合に備えて、逃げ道を用意しておくことこそが、本件では大事だったのではないか*4


そして、確信犯的故意によるものか否かはともかく、「解約は適法」という観測に従って別の予約申し込みを受けた、というプリンスの判断が、その前の判断ミス*5以上に、本件におけるもっとも重大なミスだったように思えてならないのである。


現に、裁判所も、

「仮処分の「申し立てが認められた場合に備えた措置をとるべきなのに、それを怠ったうえ、(利用拒否が)やむを得なかったというのは許されない」

と述べているところ。


記事によれば、プリンスホテル側は、控訴審でもこれまでと同じ主張を続けている、ということであるが、自らの権威を冒涜されることに対しては非常にセンシティブな職業裁判官が、本件の結論をひっくり返すとは到底思えないわけで*6、このまま行けば、本件が他山の石」的事例として、長らく語り継がれることになるのは間違いない状況である。


言うまでもなく、明日は我が身。


くれぐれも、リスクの読み間違いだけはしないように、と心に誓う今日この頃である。

*1:日本経済新聞2009年11月16日付朝刊・第17面

*2:特に、日教組の集会と右翼との密接な関係を考えると、(4)のウルトラC的な主張などは、良く考えたものだと思う(笑)(もちろん苦肉の策だとは思うが))。

*3:集会自体を公序良俗に反するものだということができないのはもちろんだし、「騒音被害」云々にしても、あくまで仮定・憶測の話に過ぎない以上、上記のような主張が無理筋であることは、主張している代理人が一番良く分かっているはずである。

*4:あくまで結果論、と言われてしまえばそれまでだが。

*5:そもそも予約を受け付けたこと、及び、その後相手方の了解を得ることなく一方的に解約したこと

*6:さすがに請求の全面認容、という露骨な結果は避けるかもしれないが・・・。

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