「約束の場所」の歌詞をめぐる槇原敬之氏と松本零士の紛争が、ようやく決着した、という記事が27日の朝刊に載っていた。
「歌詞を盗用したかのように発言され名誉を傷つけられたとして、歌手の槇原敬之さんが漫画家の松本零士さんに損害賠償などを求めた訴訟は26日、知的財産高裁(中野哲弘裁判長)で和解が成立した。和解条項には、松本さんが一連の発言について陳謝することのほか、今後、松本さん側が歌詞について異議を述べないことや、両者に債権債務が存在しないことなどが盛り込まれた。」(日本経済新聞2009年11月27日付朝刊・第42面)
昨年の暮れに出た第一審判決*1で220万円の損害賠償が認められていたことからすれば、和解金なしでの決着は後退したようにも見えるが、槇原氏の側にしても、金銭賠償目当てで訴訟を提起したわけではないだろうから、「陳謝」と「異議を述べないこと」を確約させただけでも、実質的に提訴の目的は達成されたといえるだろう。
そもそも、松本氏側が散々メディアに出て騒ぎを大きくしたにもかかわらず、何ら法的なアクションを起こさない言いっ放し状態だったことから、業を煮やした槇原氏側が名誉回復のために「著作権等に基づく(松本氏の)損害賠償請求権の不存在確認」と、「名誉棄損による損害賠償」を求めて提訴せざるを得なくなった、というのが本件訴訟の始まりなわけで、そこに至るまでの槇原氏サイドの手間暇を考えれば、松本氏は民放各局のワイドショー番組を行脚して謝罪するくらいのことはしないといけないと思うのだが、時間の経過とともに風化した話題でもあるし、大人の対応で事件を落とした、ということなのだろうと思う。
なお、一審の判決には、歌詞盗用問題を取り上げたワイドショー番組の中で、松本氏を擁護したコメンテーターの「弁護士」の発言も登場している。
素人目に見ても著作権侵害というには明らかに無理があった本事案(依拠の有無のみならず、創作性、類似性の面からも)に関し、あえて“権利者”の立場からコメントしたのはそれなりの事情があったのだろうが*2、こういう事態になって後から振り返られると、やっぱり“恥”以外の何ものでもない。
専門家には“空気を読まない”勇気も必要。
本件はそれを教えてくれる、貴重な素材でもある。